第440話 二人にも詳細を話さないと

 こうして作戦は決まった。後はもう決行するだけだ。

 召喚庁に戻ると、もう全員が地上で待機している状態だった。

 ただ待機とは言っても、地上でスキルを活かして色々と働いてもらっている。

 だが召集を掛ければ、すぐに臨戦態勢に入れるだろう。


 実際に召喚庁の宿舎にいるのは、毎度おなじみ風見絵里奈かざみえりな児玉里莉こだまさとり。本来なら直属の秘書であるレ・テルナス・バナーがいても良いのだが、彼女はもう40歳。

 秘書というより実際には現地人の職員を束ねる責任者という立場になっている。

 本当に、時が経つのは早いものだな。


「今戻ったよ」


 取り敢えず、二人には期間の挨拶を兼ねて報告だ。


「お帰り」


「意外と早かったのね。まあクロノス様なら距離はあまり関係無いか」


「それなりに疲れたけどな。すまないが、後で二人とも相手してくれ」


「戻っていきなりそれを言えるところが凄いわ」


 確かに考えてみればそうだな。

 もう毎度の事なのですっかり慣れ切ってしまったが、彼女らは恋人でも愛人でも何でもない。ギブアンドテイクの関係だ。言い方が不味かったな。


「悪かった。どうも気ばかりが焦っていたようだ」


「別に構わないわよ。気分を害したって話じゃないから」


「あたしはもうすっかりクロノス様の愛人扱いだしね。その点は気にしないで良いでしょ。でもその前に、今後の予定を聞かせて。地上に待機って指示が出た時に例の奴の討伐戦をするって話は聞いているけど、具体的にどうするかはまだだからね」


「そうね。各員のスケジュール調節もしないといけないから聞いておくわ。様子から見て緊急性は無さそうだけれど」


 相変わらず内面読まれまくりですね、ハイ。


「伸ばそうと思えばかなり伸ばせそうだが、それはしない。だけど直接という意味では、今回に限り召喚者は直接本体戦には参加しない予定だ。だけど一部の眷属とは戦って貰う」


「眷属って雑魚が成長したやつよね? 相当に強いって聞いているけど?」


「眷属すら倒せない様じゃあ、もうどちらの世界も終わりだよ。最終目的は本体の根絶、そして勝利だからな」


 そうだ、勝つ。これが絶対の条件であり最優先事項だ。

 犠牲? 心労? 後悔? 全て外せ。たとえ最後に残ったのが俺だけであっても――いや、俺が消え去ったとしても、これだけは達成させる。

 だけど消耗戦は論外だ。矛盾する事はわかっている。だけど犠牲は最小限に。出来れば誰一人死なずに全てを終わらせたい。

 そのために情報を集め、作戦を立て、実行するのが俺の役目だからな。


「じゃあ、細かな作戦を教えて」


 風見かざみの要請に応えて、作戦の概要を説明する。

 単純に言ってしまえば、奴を倒し続ける。それだけだ。

 段々と表情が怪訝けげんになって行くが、それは仕方がない。

 何と言っても俺たちには決定打が無いのだ。そして何よりも、未だに奴の全貌を把握していない。

 過去の俺たちに至っては、対策すら満足に立てていなかったんだ。


 これはある意味、当然と言える。俺ですら出会った事は無かったんだから。

 それにラーセットの復興から戦争寸前にまで発展した北の大国との小競り合い。

 そして南の大国との交渉に召喚者の反乱。

 とても奴どころではなかった。

 過去に戻れば戻るほど、こちらの戦力は少なくなり、俺も別件が忙しくなっていつかは手詰まりになる。

 だけど、ここだという時点を設定する余裕はない。向こう次第なところもあるしな。

 ただ――、


「ハスマタン近くに巨大なセーフゾーンが見つかった。間違いなく、そこで同類や眷属を増やし、食糧不足になった時点で一斉に外へと湧き出してくる」


「どうして外なの?」


「地下には奴よりも強い奴がゴロゴロとしているからだよ」


 そう、世界を滅ぼせる3体の怪物モンスター

 俺は今まで勘違いしていたが、それはあくまで人間にとっての話だ。

 迷宮ダンジョン怪物モンスターどもは、異物になれば極端に弱くなる。

 それでも、人類にとってその3体はどうしようもない脅威であることに間違いはない。

 だけど上には上がいる。異物になっていない強敵だ。それらが世界を滅ぼせる3体程有名ではないのは地下に籠っているからだ。

 そして、異物となってまで地上に出た3体を倒すつもりがないからでもある。


「改めて考えると、迷宮ダンジョンって怖いわね」


「人知の及ばぬ世界さ。俺でも一端すら把握できていない。だけどまあ、それはいずれの話さ」


「それで、どうしてそこに行くと思った訳? 歴史も色々と変わっているし、必ずそこに行くとは限らないんじゃない?」


 そういや龍平りゅうへいが見つけてから召喚者の地上待機命令、そのまま繋ぎを取って磯野いそのたちと合流するまで全速力だったからな。こうして話す機会は無かったか。


「奴が遂に召喚アイテムを手に入れた。俺達も持っているあの時計だ」


 二人に緊張が走ったのが痛いほどに分かる。それ程一気に空気が張り詰めた。

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