第377話 意外と冷静なのが逆に驚いた

 過去の龍平りゅうへいに今の龍平りゅうへい。そして平八へいはちさん。

 共通点を考えてはみるが、本当に全くないな。特に体格が――、


「奴の中身は空っぽだった。見た目はこの際関係ないだろう」


 偶然なのか鋭いのか、一瞬ドキッとしたぞ。

 ただ――、


「俺もお前が平八へいはちと呼ばれた時、本音を言えば、心臓が飛びだすかと思ったよ。結構本気で楽しみにしていたんだぞ。何せ彼には、返しきれないほど世話になっていたからな。それがまさかお前だとは誰が予想するよ。ただ気になる事が……いや、これは後回しにしよう」


「とにかく、その名が付いた原因がやはり酷い。ここはスッキリするために殴ってから話をしよう」


「断る!」


 お前がスッキリするために殺されてたまるか。

 いや実際には死なないだろうが、この世界何が起きるか分からんからな。ましてや今の龍平りゅうへいのスキルは、他の召喚者の比じゃない。

 俺と同じで、以前のスキルの成長をそのまま引き継いでいるからな。


「今はとにかくその事は置いておけ。それよりもさっきの続きだ。あの時代のクロノスは、召喚者をどう扱っていたんだ? 地球を襲った奴を探してはいたのか? それになりより、あの時代のクロノスは、ダークネスさんと交流があったのか? どれも大事な事だ」


「そうだな。俺もその点は気になるところだ。仕方がない、今は情報交換と行こう。その後は殴らせろよ」


「だから絶対に嫌だって!」


 コイツ本気で俺を殺す気なんじゃないだろうか?


「さあて何処から話すか……まず俺の地球での行動に関してから話すか?」


「いや、それはいらないわ。どうせもうあの世界に戻る気は無いからな。お前は戻りたいのか?」


「奴を倒す手段を見つけたら、それも有りだと思っている」


「もう人類なんて、僅かしか残っちゃいないと思うけどな。再建は難しいと思うぞ」


「それでも、仇は取るべきだ」


 まあ龍平りゅうへいはそういった性格だよな。

 俺はまあ、最期にはそれも有りかな程度だ。出来るなら何とかしてやりたいさ。だけど現実的にはもう諦めている。

 思い出は確かにあったが、色づく思い出は全部奈々ななや先輩に会ってからのわずかな間だけだ。他の思い出なんて全部要らないし、ましてや二人のいない世界になんの興味もない。

 それに今更だが、ひたちさんや咲江さきえちゃんがいるわけでもないしな。

 そんな世界、奴にくれてやっても惜しくはない。龍平りゅうへいに言ったように、どうせすぐに全ての動物は殺されるか、奴に寄生されて――あれ? あいつ地球じゃ生きられないんじゃね?


 この世界の様に迷宮ダンジョンから食料が無限に供給されているわけじゃない。

 地球の生き物全てを死滅させるか眷族にしてしまった時点で、奴は食料が無くなって詰むわけだ。

 だけど地球に行ったわけだし、戻ってくることも十分考えられるんだけどな。


「――とはいえ、仇の件は置いておく」


「置いておくのかよ」


「今あの時代に行く手段があったとして、何ができるよ。俺は無駄な事は極力しない主義でね」


「意外と冷静で驚いたよ。記憶が戻ったら、『すぐに地球に戻せ』とか言い出すかと思っていたからな」


「ぬかせ。それよりもだ、俺も記憶が戻ってから色々この世界を調べたよ。その上で質問するが、ここは過去だと思うか?」


「少し複雑だな。高校生時代の俺達が召喚された時を基準にすれば、ここは間違いなく過去だ。全てのクロノスが呼び出された時点では、全員状況は同じだろうな。ミーネルという神官長が多くの犠牲の元に俺を召喚した訳だが、その時に死んでいる人間はもう死んでいるし、生きている人間は生き残っている。だがそこからは変わる。クロノスの知識や能力が変わるから当然か」


「そこなんだが、もしここで奴を倒したら全てが変わったりはしないのか? あいつは地球に来ないし、俺たちは召喚されず、何も知らずに平和な生涯を過ごす。そうはならないのか?」


「残念ながら、それは無い」


「何故だ?」


「俺が召喚されてから、相当に歴史の流れは変わった。俺は召喚者を地球に戻せるようになったし、かつてとは呼びだされる人間の順番も生死も違う」


「……そうだな。三浦みうら教官と荒木あらき教官がもう召喚されていて、しかも亡くなっているとは思わなかったよ」


 やはりちゃんと調べたんだな。

 まあ全員帰ったって事になっているが、一応召喚されてこの世界から去った者は全員召喚庁の記録で閲覧できるようになっている。何かの役に立つかもしれなかったんでね。

 当然、戦闘や事故により帰還となっていれば、龍平りゅうへいなら分かる訳か。


「まあそんな訳で色々代わったが、俺たちの記憶は変わったか? 変わっていないだろう? だからここで何をしたところで、俺たちの人生はもう変わらない。地球もな」


「実は気が付いていないだけで、歴史を変えると同時に人生も記憶も変化している可能性は……無いか。教官たちの記憶があるわけだしな。しかしそれはまた虚しいものだな」


「そうだな。地球はやがて滅んで、俺たちに行き場はない。だけど、このままだといずれ俺たちが召喚されてくる。俺としては、せめてそちらだけでもどうにかしたい。出来れば全員生き延びさせて、地球に行く前の奴を倒す。そして高校生の俺を鍛えて、奴の倒し方も伝授する」


「なんだか堂々巡りだな」


「結局のところ、奴がここを襲う事で俺がクロノスとして召喚される。この歴史のスタートラインがどうにもならない以上、永遠に繰り返されるわけだよ。ならせめて、より確実に、より犠牲を少なくする方法を考えるしかないって事だ」


「まあそうだな。考えてみれば、俺があのブリキ人形になると決まったわけじゃないのか」


「それはそうなんだが、お前制御アイテムはどうする? なんか今思えば、平八へいはちさんは肉体を捨てる事で、制御アイテムどころかスキルまで失っていた気がする。そうやって自我を保っていたんだろう。あの頃、記憶が曖昧あいまいだと聞いたことがあるんだよ。だけど俺たち召喚者の記憶は絶対だ。誤魔化しているのかと思ったが――」


「そうではなく、事実だったという訳か。あの状態では、永遠の存在ではいられないって事だな。なら仕方がない。高校生の俺が召喚されたら、そいつは日本に帰せ。瑞樹みずきもな。どうせ奈々ななも帰すつもりなんだろう? こっちは俺たちで何とかすればいさ」


 この前向きさは見習わないといけないな。

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