第360話 久しぶりだけど元気そうでよかった

 俺が向かった最初の場所は、黒竜探しではなくイェルクリオの首都であるハスマタンだった。

 実は磯野いそのに調べてもらった結果、あの場所はハスマタンにかなり近い場所だったのだよ。

 あの一か所に百年近く留まっていたのかは定かでないし、その後は何処に移動したのかは分からない。

 ただおそらく、どこかでイェルクリオが管理する迷宮ダンジョンと繋がっていたと考えられる。

 そんな訳でその報告と、改めてこちらの召喚者やラーセット人と出会ってもすぐ戦闘とならないようにの念押しだ。

 なにせ今は、当然の様にあの周辺の調査は重要な任務になっているからね。


 一応どこの国も迷宮ダンジョンは軍管理なので、軍務庁長官のエデナット・アイ・カイを通じて話を通してもらっていた。

 既にハスマタンの中には、ラーセットと直接交易をするための施設と、それを管理するため内務庁、軍務庁の施設が用意されている。大使館と言った方が分かりやすいか。

 ちゃんとした手順を踏んだので2か月近くかかってしまったが、いきなり行くわけにはいかないからね。


 そんな訳でちゃんと手続きをして、前回と同じように普通に入口から入った。

 今回も認識は外していないよ。

 但し、ある程度離れたら蜃気楼のように消えるし、この世界の記録装置には映らない。その程度は外している。


 前回は名乗った途端に門番が悲鳴を上げて逃げやがったが、今回は逆にニッコニコ。

 どうぞどうぞと控室らしい立派な応接室へと案内された。随分と待遇も変わったものだ。

 これも全部、ラーセットとイェルクリオの関係が順調だからだな。


 そして2時間ほどたって、以前にも応対したウェーハス・エイノ・ソスがやってきた。

 確か何の権限もない内務庁渉外2部支部長だったな。

 その割には、その後の外交は実にスムーズに進んだ。よほど上手く伝えてくれたのだろう。

 服装は前回よりも大分露出は減ったが、肩や脇が大きく開いた白いドレスを身に纏っている。

 そして今も変わらずかなりの色気だな。でもやっぱり、少し歳は取ったか。


「お久しぶりですね、クロノス様」


「そちらも変わりないようで安心したよ。もう11年ぶりか。その節は世話になった。相分からず権限の無い閑職なのか? それなりに出世していてもおかしくなと思ったのだが」


「変わらないとか、召喚者の方に言われると嫌味にしか聞こえませんよ」


 あ、何か冗談のような口調だが目が笑っていない。この話題はパスにしよう。


「それと相変わらずの地位ですが、これでも結構大変なのですよ。それよりも、あそこで我が国を選んで頂いたからこそ、今の発展があるのです。本当に感謝していますよ」


「なら良かった。それで、今回は馬車で移動しないのか?」


「その点なら大丈夫です。ここはクロノス様が再び訪れた時、ご不便をおかけしないようにと作られた部屋ですので」


 正しくは危険だから国内に入れるなってところか。だけど近辺には殺意どころか敵意すらない。

 まあ作られたのが当時だとすれば、その辺の状況は変わったのだと考えても良いかもな。


「なら話が早くて助かる。内容も全部伝えてあると思うが――」


「ええ、全て事前に伺っております。我が国の近くに潜んでいたと知らされた時は、3長官はそれはもう大騒ぎでした」


「そりゃ驚くだろうな。ただそれなりに人間もいたが、気が付かなかったのか?」


迷宮ダンジョンで行方不明になる人間は数えきれませんので……」


 そういやそうだったな。たまに忘れてしまうが、現地人にとっては超ハイリスクハイリターン。一獲千金を夢見るも、殆どが夢破れる危険な世界だ。ハイキング気分で研修に行く召喚者がいかに異質か分かるな。


「確かにそうだな。それで戦闘になったのだが、残念ながら逃がしてしまった。こちらにも相当な犠牲が出てしまったよ」


「召喚者の方が倒せないのでは、我々ではどうにもなりませんね」


 だが、そのどうしようもない相手に果敢に抗ったこの国の民を俺は知っている。

 何とかしてあげたいものだ。


「それで今は奴を探す為にその近辺を重点的に捜索したいのだが、なんといってもイェルクリオに近いからな。改めて許可を取りたいのと、双方が出会っても戦闘にならないように厳命して欲しい」


「その点に関しては問題ありません。近いと言っても、我々からすれば滅多に行く事の無い深部。ましてや、かの伝説の怪物モンスターが潜んでいるとなれば行く人はいません」


「こちらがあの周辺を独占するために嘘をついているとは考えないのか?」


「ふふ。先ほども申した様に、滅多に立ち入らない深部なのです。迷宮ダンジョンの広さに比べて、人間の力などは小さなものです。一部を立ち入り制限したとしても、まだまだ無限と言える程に広がっていますから」


 まあそれはそうか。

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