第330話 なんて冷たい目をするんだ

 一応俺が召喚されてきた辺りの話はしたが――、


「まあその辺の話は良いだろ」


「確かにあまり実りの無い話だったけど、その前の殺されかけた辺りの話は引っ掛かる」


「普通はしませんよね?」


「それなんだけどな。どうも相当に繰り返している様なんだよ」


「繰り返すって……タイムリープ的な?」


「微妙に合っていて微妙に違うか。残念ながら、俺は高校生に戻って歴史をやり直すって訳にはならなかった。普通に歳をとって、そして過去に召喚されて新たなクロノスとなったわけだよ。だからこのまま召喚を続ければ必ず若い俺が召喚されてくる。それは俺だけど、俺じゃないんだ」


「なんか面倒くさいですね。でもそうやって時間が進んでいるって事は……」


「何度も何度も地球は滅んでいるって訳だよ。ラーセットや俺がどうなったかは謎だが、そこだけは確定だろうな。まあそうやって繰り返す中で、俺は俺の強化を計る事にしたんだろう。失敗するたびに自分の力の無さを痛感して、もっとやれたはずだと後悔して、その後悔を俺にぶつけたわけだ」


「それで殺そうとした?」


「いや、ギリギリまで追い詰めていたのだと思う。本当に消滅しないギリギリまでな」


 そうだな……考えてみれば、ひたちさんが知っていた事は確実だ。咲江さきえちゃんは知らなかっただろうがあの性格だ。ああやって俺にぶつければ、俺の側につく事は予想していたんじゃないだろうか?

 ただ召喚される人や順番、状況が異なる事は確認済みだ。前回は、たまたまあのメンバーが選ばれたという事なんだろう。


「もう知っていると思うが、スキルは使うほどに強化されていくが、同時に使い続ければ精神面が不安定になって来る。それを制御するためのアイテムもあるが……もう正直に言ってしまおう、どうせ本名は名乗ってしまったしな。俺が追放されるのは、さっき言った通りだ。スキルが無いからという理由で追放されたが、実際には制御アイテムが無いからだと思っている。何せ同一人物が二人いるが、制御アイテム自体は同時に存在できないわけだからな。そしてそれを知られるわけにはいかない訳だよ」


「なぜです?」


「制御アイテムがない理由を説明しなくちゃならないからだ。それはすなわち、今している話を全員に話すという事になる。二人目の俺が来た理由なんかも全部な。ハッキリ言えばそれは出来ない。だからスキルが無いって事にしたんだと思う。それにもう一つは俺が普段から認識疎外をしている理由でもあるが、俺さえ殺せば地球は滅ぶ。その事実を知られた時、どれだけの危険に晒されるか分からないからな」


「さすがに地球人はしないんじゃないですかね?」


「世の中にはどんな人間がいるかわからんよ。それに力の無い俺を人質にして無茶な要求をするかもしれないし、俺――というか召喚者を憎んでいる連中からすれば恰好の的だ。何より……これもハッキリさせておこう。たとえ制御アイテムがあっても、スキルを使い続けた後はきちんとケアをしないと、次第に精神状態が不安定になって来る。そういった人間が暴発する危険は、常に考えないといけない」


「知ってる。だから毎日自分が自分であるか確認するためのルーティーンは欠かせない。でもそれでも児玉こだまちゃんは自分に負けた。強くなりすぎるのも考えものね」


 風見かざみ児玉こだまを呼び捨てにしなくなったのは良い事だが、やっぱり分かっているんだな。

 別に児玉こだまが壊れていた訳じゃない。だけど心の何処かにぽっかりと穴が開いていた。そこをあの男に付け込まれたのだろう。

 もっと余裕があれば、さすがにあの程度の男に走る事はなかっただろう。


「そんな状態で、制御アイテムなしで放り出された俺は当然酷い状況になった。だけど同時に、制御アイテムが無ければスキルは常時発動しっぱなしになる。召喚者としての成長は、通常とは比較にもならないほどだ。こうやって、俺は追放された事で周囲に気取られる事無く急成長を遂げたわけだ。先代の思惑通りにな」


「それはちょっと待ってください。何でそれで普通でいられたんです? スキルを使い続けたり、制御アイテムを失った時の危険はちゃんと説明されていますよ。それは嘘じゃないんですよね?」


「ああ、間違いない。同時にケアする方法がある事も説明されているな?」


「俺は香を焚く事ですかね」


「あたしは素数を数える事です」


 そういや風見かざみは何なんだろう?

 まあプライベートな事に立ち入っても仕方ないか


「クロノス様は交尾よ。特に複数の女性と一緒だと効果が高いと聞いているわ」


 その風見かざみが特に感情も抑揚もなくごく自然にすらりと言ってのけた。

 ――あ、二人とも超引いてる。というか、完全に場が凍り付いた。ここまで空気が重くなるのは、人生でもそう味わうものでもない。しかもあの冷たい目は何だ。

 あえて言うのならば、親友の葬式にバースデーケーキを持っていったような……或いは娘の誕生日にネズミの死骸をプレゼントしたような……もしくは社運を賭けたプレゼンテーションで、社長のエロコラージュを……ってもういいわ。

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