第326話 嫌な決着だ

 こういう典型的なバカの方が、案外と駆け引き無しにペラペラしゃべるかもしれない。もう自暴自棄になっているしな。ある意味チャーンス。


「参考まで聞いておこうか。俺の言った事が嘘だとか言ったのは誰だ?」


「知るかよバーカ!」


 ダメだこりゃ。直感が伝えている。こいつは本当に知らない。おそらくみやたちの言うとおりに信じてついて来ただけだ。

 もうちょっと賢ければなと、さっきの考えをくるりと否定しておこう。

 ついでに橋本はしもとの顔を両手でつかむと、くるりと廻しておく。

 まあゴキゴキと音がしたのでそんなに可愛いものでもないが。


 さて――と前田咲まえださきに目を移すが、どうやらまだ動けない様だ。

 確かにエネルギー系のスキルをそのまま返すと相当きついようだしな。彼らが持っていた薬では治しきれなかったのだろう。


「もう戦えないようだな、前田まえだ。もういいだろう、素直に日本に帰れ」


「侮るな……ここまでしておいて、自分だけ帰るなど……するわけがないでしょう」


「仕方がない。早瀬流星はやせりゅうせい黒神戸せおくろかんべせお、こいつを説得してくれ。今更お前たちを処罰しようとは思わない。けどやった事の責任は果たしてもらうしかないからな。これ以上、この世界にはいてもらう訳にはいかない。そちらも帰りたかったんだろう? もうそれで良いじゃないか」


「確かにもう俺たちに出来る事は無い」


「だけど、あたしたちにも意地があるの。リーダーが帰らないのなら、あたしたちも帰らない」


「ふう……前田まえだ、やっぱりお前がこの二人を説得しろ。もう勝つことも逃げる事も出来ないって分かっているんだろ。全てを水に流すとは言えないが、それでももう責任はみやたち首謀者が取った。これ以上の戦いは無意味だろう。せめてこの二人だけでも、日本へ帰してやれ」


「……そうだな。ならお前たちだけは――」


「たとえ帰るにしても、お前の力などは借りない!」


 そう叫ぶと同時に、早瀬流星はやせりゅうせいは腰に下げていた小刀を抜くと、自らの首を掻っ切った。

 馬鹿な事をする。


「たとえ帰っても、お前の事は忘れるものか! もし向こうで出会ったら、必ず皆の仇はとってやる。忘れない事ね!」


 そう言うと、黒神戸せおくろかんべせおはどさりと倒れ込んだ。

 口元から流れる毒々しい紫色の液体が、何をしたのかを物語っている。早瀬はやせに気を取られた隙にやられたか。


「早まった事をしたものだ」


「早まってなど……いない。これが敗れたという事よ。アンタはどんなに偉くても……我々の敵。情けは受け……ない……」


 こんな決着など望んではいなかった。彼女を救う事もスキルを使えば出来る。

 だけどそれは彼女の望みだろうか?

 そんな事は関係無いと、医者だった頃の俺ならいたかもしれない。地球には地球の常識があった。

 けれど、ここは違う。彼女は学生ではない。彼女は召喚者。そして戦士。仲間を率いて裏切り、敗れた。

 共に同じ道を歩んだ仲間は全て死に、彼女だけに生き残って日本へと帰れという――ただの侮辱ぶじょくだな。


 結局何も出来ぬまま、彼女はもう事切れていた。

 これによって、ユンスの死から――まあ実際にはもっと前から入念に計画されていた反乱計画は水泡に帰した。

 実際には連絡の取れない召喚者の安否や行方が全部分かってからでないと結論は出せないが、もう確定だろう。


 問題はリカーンだが、これは今の段階で手を出すのはダメだ。約束したからな。

 エデナットも優秀な人間だ。こちらの件は、彼に任せよう。その上で要請があれば動く。

 もしくは、同じような事をした時に俺に見つかったらだな。





 この後、6人全員を埋葬して俺はラーセットへと帰還した。

 今生き残っている全員に全てを話したいところではあるが、さすがにそれはダメだな。

 だけど今残ってくれた教官組の3人には、きちんと全てを話すしかないだろう。

 そして、その上で決めよう。今後どうするのかを。

 今やあの頃とは状況が大きく変わった。同じシステムを踏襲する必要はない。

 というかする予定も無かったけどね。


 召喚庁の執務室には、予定通り風見絵里奈かざみえりな磯野輝澄いそのてるずみ千鳥ゆうちどりゆうの三人が待機していた。


「あれから迷宮ダンジョンから戻って来た者は?」


「いないよ。そちらは終わったんだね」


「ああ、終わった。そんな訳で磯野いその千鳥ちどり、それに改めて風見かざみ。先ずは申し訳なかった」


 俺は素直に、深々と頭を下げた。

 これから話す事を考えれば、こんな事じゃ足りないだろう。

 だけど先ずは、謝罪しておきたかったんだ。

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