第325話 こんな奴にと思うとそれだけで許せなくなる
俺が処断したら帰れない。これは嘘ではあるが、
そして
「今回の件は十分に処断の対象だ。だから裁定を下した。何か言い分はあるか?」
「その帰ることが出来るというのが信じられないのですよ」
今いる6人の中で、彼女だけが戦闘系のスキルを持つ。帯電というスキルで、空気中に見えない電気の壁を作るスキルだ、いや“だった”。
現在は4か所の帯電場所から雷撃を飛ばして攻撃するスキルに変わっている。
「だろうな。人を信じるには勇気がいる。そして、俺はその勇気を与えられなかった。反省しているが、やる事は変わらない。もう一度言う。帰りたいというものは日本へ帰す。だだ事前に言っておこう。これは俺のスキルで帰すものだ。僅かでも不信感があればスキルの効果が無い。つまりはこの方法では帰せないって訳だな」
そしてここから先は言うまでもなく嘘になるが――、
「もしくはここで自決してもらう。そうすれば帰る事は出来る。何も得るものはないけどな。だが俺に倒されたら本当にお終いだ。もう逃げられない事も、抵抗が無駄な事も分かっているだろう? 自由に選ぶと良い」
本当は、全部明かして素直に帰る事を選択して欲しい。
だがそうはいかない。万が一逃げられたり、何らかの映像アイテムが残されていると、そこから全てが瓦解する恐れがあるからね。
パチッ! その音が合図となった。
帯電場所は目に映らないが、雷撃は見える。もっとも、見てから反応するなど不可能なので意味はないか。
ただ
しかもただ単に電気を生成して飛ばすだけならまだよかっただろう。だけど、彼女の場合はこの電気までがスキル。
当然ながら――、
「――がっ!」
口から血を吐いて倒れ込む。すまないが、スキルであれば一部は外して返す事が出来るんだよ。
しかも純粋なエネルギーなほど、ストレートに返る。かつて未熟だった俺でも、
ただすぐさま横にいた
だが俺が帰したものはストレートに返るわけでは無い。電気でもなく、当たった場所も関係ない。ただ単純に威力ってものが全身に返る。彼女の内部はもう神経までズタズタだろう。
よほどの高級薬でもない限り、すぐに動くのは不可能だな。
そんな様子を見て観念したのだろう。5期の
「こ、降参します。だ、だから殺さないでください」
そんな
「私も……降参です。もう帰りたい。お願いします、日本に帰してください」
もう目が死んでいる。とっくに諦めていたのだろう。捨てられた
もう俺をどうにかできる奴はいない。だから油断してしまった。
「俺を捨てるのかよ! このビッチが!」
余りの事に、完全に反応が遅れてしまった。
俺が動くよりも早く、
「簡単に騙されやがって! そんなに帰りたきゃ勝手に帰りやがれ!」
クソが! スキルが戦闘向きじゃないからと完全に油断した。こいつも召喚者だ。肉体は常人のそれを軽々と凌駕する。しかも5期生だ。それなりに修羅場をくぐってきた奴じゃないか。
だがそれ以上に許せない。
奴までの距離を外し、胸ぐらを掴むとそのまま地面に叩きつけた。
気の迷いとはいえ、こんな奴に
同時に自分にもだ。死んだら帰れる――これが殺人に対する意識を軽くしてしまう事は分かっていたのに。
だけどこればっかりは変えられない。死んだらそれまででは、誰も危険を冒してなどくれないのだから。だからこそ、どうしようもない憤りが俺を襲う。
しかしそれとこれとは全く別。それに――、
「仲間殺しは帰す事も許さない言ったはずだな」
「誰が信じるかよ! このビッチたちも実際には死んだんだろうが! お前が呼び出したから死んだんだ! これはお前のせいなんだよ」
胸が痛い。全くその通りだ。
言われるまでもない事なので、もうこれ以上聞く必要もあるまい。
ああ、こいつらをそそのかした奴を聞きたい気もするが、ここまでアホな奴だと――いや待て、こういう奴こそペラペラ話すのはお約束か。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます