第323話 意外と早く見つかって助かった

「さて、では行くか」


 軍務庁から出た俺は、即座にラーセットを出て追撃に入った。

 もちろん、俺に探索スキルなんてものはない。探索するためのアイテムはあるが、これまた召喚者を探すのは難しい。

 だけど追跡は可能。いつもやっている逆転の発想だ。

 方位を決めて、可能性を外す。だが実際には召喚者を動かす事など出来はしない。

 そこでスキルに何かが引っ掛かる。要は方向にいるわけだ。

 ただ距離は分からない。纏まっているのか分散しているのかも分からない。

 だがやはり北か。


 一気に20キロメートルほどの距離は外し、再度全方位をチェック。

 まだ北か。それに複数の方向への反応は無かった。ある程度は固まっていると考えて良いだろう。

 そんな作業をしながら、やはり心は重くなる。

 残っている連中は、殆どが戦闘には不向きだ。戦えば勝負にもならないだろう。

 いっそ本当に帰してやるか? 裏切り者ではあるが、それにこだわり過ぎていたんじゃないのか?


 児玉こだまと話してよく分かった。やっぱり俺にも大きな責任がある。

 けれど……無理だろうな。よほど信用を取り戻さない限り、僅かな抵抗心があったらどうしようもない。

 戦い、仲間を殺された彼らを帰す事は不可能だろうな。


 それに児玉こだまくらいまで育ってしまうと本気マジでキツイ。

 彼女が帰れたのは、一応は俺という人間を信じてくれていたからだ。

 それでもあれだけ手間取った。今後、50年とか100年とかこの世界で過ごした人間を帰す事なんて、本当に俺に出来るんだろうか?

 まあ弱気になっても仕方ないけどな。

 やっぱり先代はその点上手かったな。力を持つ前に随時入れ替える事で、色々と問題を防いでいたわけだ。ただ殺してしまっていたのだから、真似するところは一つもない。


 ……待てよ。

 そうだよな、今までと今の最大の違いはなんだ?

 それは本当に帰せるようになった事だ。今までの前提は全て――いやそれは言い過ぎかもしれないが、かなり崩れたんじゃないのか?

 この状態なら、全員に話す事も……。


 頭を振って、淡い期待を振りほどく。

 心が落ち着いて、頭まで緩くなったか?

 そんな実験をする余裕なんてないだろう。それに、先代のクロノスは、間違いなく俺が龍平りゅうへいを帰還させた事を知っている。その上で口伝を残した。

 だがこれも俺だと考えるとおかしい。確かに時間は無かったが、もうあそこで正体を明かしても良かったはずだ。そして1時間でも2時間でも、可能な限り伝えるべきだった。俺ならそうする。

 なのに残したのは口伝だけ……考えろ、あの短かった内容だけしか残さなかった意味を。





 とはいっても、今やるべきは別の事。

 もう児玉こだま程の強者はいないが、それでも召喚者だ。それに咲江さきえちゃんの例もある。大した事の無いはずだったスキルが、いつの間にか一撃必殺のスキルになっている可能性だってあるんだからな。


 そして、彼らを捕捉したのはラーセットから北北東……というよりほぼ真北。170キロメートル程進んだ場所だった。

 また随分と早いな。移動系のスキルを持っている奴が……あ、いたわ。

 だがリカーンまではまだ160キロメートルもある。しかも地球と違って、境界線はあの壁と周辺だけ。この辺りは、完全に人間のテリトリーではない。何処からも援軍は来ないって事だ。


 見つけた時、彼等は土で出来た船のようなものに乗って移動していた。

 あれは5期生の大窪石綺梨おおくぼいしきらりのスキルだな。

 土で船を作って地上を移動する。無理をすれば3時間。インターバルはおよそ8時間は必要だったか。

 だけど俺と逆で、男と一緒にいると回復は早いらしい。

 その男とは、児玉こだまをたぶらかした橋本浩二はしもとこうじだ。こいつだけは何があっても死刑にしよう。


 それにしても、迷宮ダンジョン内での高速運搬スキルは下手な戦闘系スキルよりも重宝される。惜しいな――と思うが、それを言ったら全員が惜しい。消えて良い人間なんて誰もいないよ。

 反省するしかないが、だからと言って俺に落ち度があったから見逃しますとは言えない。

 どう考えた所で、ユンスらを殺した事と迷宮ダンジョンアイテムの横流しは見逃せない。

 実際にはそれだけではなく、相当な量の情報なども流していただろう。

 やった事は言い訳の仕様がないほど最低な事だ。

 仕方がない。見逃せない以上、やるしかない。


 進行状態の地面を外し、ぼっこりと大穴を開ける。

 さすがに迷宮ダンジョンで使えるだけあって、多少の障害物や亀裂などは軽々と飛び越えるが、これは流石に防げまい。

 予想通り、悲鳴を残しながら真っ逆さまに落ちて行った。

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