第322話 全面的に俺が間違っていました
話の途中――というより言い出した途端、エデナットが机を叩いて遮った。
いつ死んでもおかしくないように見えるが、意外と気は強い様だ。さすがは軍人と言って良いのだろうか。
「そんな事に意味はないんです。良く聞いてください。仮にリカーンが始めた、マージサウルが絡んでいた。そんな結論が出たとしても、それが何になるんですか? 彼らは襲撃され、破壊された街と虐殺された遺体を世界中に流すでしょう。召喚者にやられたとです。理由なんて関係ないんですよ。イメージが大切なのです」
うーん、その辺りを完全に失念していたわけでは無い。俺だってマージサウルに行った時に、可能な限り死者が出ないように努力したんだ。連中が戦争を仕掛けて来たにもかかわらずね。
だが今回は事情が異なる。召喚者に敵対するという事は、人間同士の戦いとは訳が違う。次元が違うと言って良い。
俺は見ていないが、
さすがにそれを話す事は出来ないが、そんなのが敵に回ったらシャレにならない。
今回の様に分かりやすく反乱してくれればいいが、いきなり暴動や襲撃といった形で行動を起こされたらアウトな可能性もある。
そう考えれば、
まあそれはともかくとして、
「言いたい事は理解しているが、同時に召喚者が敵に回る危険さも理解して欲しい。仮に俺が敵対したら、誰が止められるんだ? 俺だけが特別なわけじゃない。召喚者の中には、俺に匹敵したり、凌駕する人間だっているだろう。この際、世界中が召喚者を受け入れない様にしたいってのが本音なわけだよ」
「確かにそれは考えただけで恐ろしいでしょう。ですが、今回北方の国家を破壊して、それは防げるのですか? 新たな召喚者はいつか知るでしょう。自分たちのトップが、他国の一般市民を殺戮したと。そして同時に、我々現地人の命も相当に軽く考えるでしょう。その状態を押さえられますか?」
そう言われてしまうと答えようが無い。俺は俺で正しいとは思っているが、エデナットの意見も間違ってはいない。
悩みどころではあるが、悩んだ時には現地人の意見を尊重だ。
「分かった。リカーンに手を出すのは少し控えよう」
「少しとは?」
「一応は確認しておかないといけないからな。ああ、安心してくれ。俺は嘘かどうかはある程度判断できる。もしリカーンの首脳陣が関わっていたら、連中の都市の壁に3長官を吊るしてやるだけだ。市民に手を出さなければ良いんだろう?」
何か頭を抱えているが、そんなに間違っていないだろ。
実際にマージサウルでは似たような事をやったんだし。
「お願いしますから敵を増やすような真似はやめてください」
「だから敵を増やさないためにやるんだよ。一部の現地人の敵は増えるだろうが、召喚者をそそのかして離反させるような行為を防げるメリットの方が大きい」
「ですが召喚者が行った残虐行為は、必ず長期にわたってラーセットの評判を落とすでしょう。それに、今は北の国家から多くの人間が流入しています。彼の全員が祖国を嫌って捨ててきたわけではありません。考えはそれぞれ。単純に出稼ぎ感覚で来ているだけの人間もいます。そういった人間を、潜在的なリスクとして抱える事になります」
うーん……言いたい事は分かるんだよな。
だけど同時に、召喚者の危険度を軽視しているようにも感じる。
でも確かに、俺が悪人として宣伝されればされるほど、新たな召喚者は内心俺を敵視するようになるか。
この後は、ひたすらガミガミとお説教タイムだった。
それを聞きながら、段々と冷静になっていく自分を感じる。
確かに国を滅ぼすなんて正気の沙汰じゃない。
今の俺なら出来るだろう。メリットもあると感じた。というか、やらなければいけないように感じていた。
薄々感じていたし、以前にも聞いていた。実感もあった。
これはスキルを使い続けたデメリットだ。精神汚染とも言って良いかもしれない。
スキルを制御するアイテムが無ければ即だが、アイテムがあっても逃れることは出来ない。
俺の場合はまあ何とかなってきたが、最近ご無沙汰だったからな。
今こうして素直に聞けるようになってきたのも、全部
「ちゃんと聞いているんですか?」
「ああ、十分に分かった。無茶な事はしないと約束しよう。但し、寝返った召喚者に関しての処分はこちらで行う。その点だけは変わらない」
「国家同士の揉め事にならない限り、その点に関しては召喚庁にお任せします」
まだ言い足りない感じだったエデナットだったが、俺は早々に退散した。
このままだと、苦手意識が付きそうだったからな。
だけど同時に感謝もしていた。エデナットもそうだが、亡くなったユンスにも。
頭から否定されたなんていつ以来だ? 叱られたなんて、それこそどのくらいぶりだろう。
いつの間にか、俺の周りからはそういった人がいなくなっていた。だから次第に現実が見えなくなっていたんだ。ユンスもそれに気が付いていたんだろう。
だけどもう、ユンス自身が意見出来る立場ではなくなっていた。単に豹変したような印象を与えてしまうからな。
だからこのタイミングで、彼という人間を残したのだろう。
「お前が託したこの国も、必ず救ってやるさ。安心してくれ」
まだドタバタしていて、彼の葬儀すら行われていない。
けど必ず出席するさ。だからそれまでに、全部片づけておくよ。
もちろん、ラーセットに不利益の無いようにね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます