第308話 かなりの数だが容赦はしない

「それと7期生からは鴨沢哲也かもさわてつや小餅亮こもちりょう。8期生は前田咲まえださきさんのチーム7人が全員向こうに行った」


 8期生は中高一貫校で、高校生と中学生が混在している。10人残っているが、テキパキとして決断の早い前田咲まえださきを中心とした7人組のチームが中心だ。かなりの働きをしてくれたし、それにふさわしい厚遇をしてきたつもりだったが……。


 それと神妙な顔して沈黙しているが、教官組の千鳥ゆうちどりゆうがどんよりと落ち込んでいる。

 彼女と一緒に召喚された7期生は、全員小浜南中学出身者。当然、名前が出た二人は知り合いどころか身内の様なものだ。

 まあ、それを言ったら6期生の磯野いそのも似たようなものか。

 6期生は生存者9人。同じ中江橋商業高校出身で、もうこの世界に来て7年近い付き合いだ。

 その内4人。しかも一人は教官組として長く苦楽を共にしてきた奴だしな。

 更には教官組トップの片翼、児玉里莉こだまさとりを連れて行ったとなれば心穏やかでもいられまい。


「それと10期生からは、荒木あらきさんと一緒に増田昭ますだあきらさんと日野洋司ひのようじさんも付いて行った」


 その二人は、たしか荒木あらきと一緒のプロレス部だったな。まあ分からないでもない。

 しかしこれで――、


「17人か……他は全員分かっているのか?」


「何人かは連絡が取れませんです」


 ここでようやく、千鳥ゆうちどりゆうが口を開いた。

 普段は苗字そのもののように明るく活発だが、今は見る影もない。本当は休ませてあげたいところだ。


迷宮ダンジョンで連絡が取れないだけかもしれませんし、向こうに付いたかもしれないです。それに、もしかしたら拒否して彼らに……かもです」


「その辺の詳細はわからないか?」


「ハッキリ言ってしまうと、向こうの砦に行ったメンバー以外は全員白かといえば、そんな保証もありません。分かっているのは、今砦にいるのは全員裏切り者だけって事だけです」


 風見かざみから怒りのオーラ―の様なものが立ち上っている気がする。

 はあ……まったく児玉こだまは何を考えているのか……。

 いや、考えるまでもないな。女の友情より男を選んだってだけの話か。


「なあ、クロノス様よ」


 磯野輝澄いそのてるずみか。

 今までは素直に報告を聞いていたが、ずっと何か言いたそうだった。

 そろそろ話しの区切りはついたと判断したのだろう。


神明しんめいの件は、俺に任せてくれないか? 絶対に、何か事情があると思うんだよ」


「同期でしかも同じ教官組だ。気持ちは分かるが、状況からしてみやが首謀者なのは間違いなかろう。今のアイツの行動に紐を付けられるとは思わん」


 まあ一人いるがな。児玉里莉こだまさとりだ。だけど彼女はこういった事には一切関与しない気がする。

 いやまあ砦に行ったというのであれば関与はしているのだろうが、多分だが皆を率いてといった行動はしない。単純に男の元へ行っただけか。


「だからこそ、俺が行って真意を確かめなくっちゃいけないんです。保障は出来ませんが、話だけなら出来ると思うんです。何か要求があるなら、それを聞きたいんだ」


 磯野いそのの気持ちはわかる。同期で、同じ教官組。そして二人ともカリスマがあり、面倒見がよく、他の召喚者達から敬愛されている。だけど根本的な違いがある。

 それは純粋な戦闘力だ。


 磯野いそののスキルはマッピング。それも単純に地図を作製する程度ではない。まあ最初はそうだったけどね。

 しかし今なら、1キロメートルほどの距離なら全ての範囲を網羅できる。道が繋がっているならという前提は付くので地下は分からないが、埋まって無ければアイテムでも生物でも判別可能。攻略情報を見ながらゲームをするようなものだ。迷宮ダンジョン探索では、引く手あまたの超便利スキル。

 当たり前だが戦闘では一切役に立たない。


 一方でみやのスキルは脚力強化。

 元々はジャンプ力と速度の強化だったが、今では空気を蹴って飛翔できる。

 その空という有利性に加えて目にも止まらぬ変幻自在の動き。そして何より、それを可能とする脚力。

 最初に聞いた時に予想はしていたが、立派な戦闘系のスキルだ。

 もし交渉にもならず即戦闘になったら、結果は火を見るより明らかだろう。


「却下だ。これは俺が行くべき問題だ。悪いが、全員即座に帰ってもらう。話し合いも無しだ」


「クロノス様!」


「考え直しては頂けないですか?」


 磯野いその千鳥ちどりは反対ってところか。

 まあ当然だな。一緒に召喚されて以来、苦楽を共にした仲だ。話くらいは聞きたいのだろう。なぜこんな事をしたのかを。

 それ故に絶対にダメだ。よほどの実力差がない限り、仕掛ける方が圧倒的に有利だ。特にスキル戦はな。

 話し合いに行きたい彼らと敵対した連中……結果は考えるまでもない。


 風見かざみは一言も発せずにこちらを見つめたままだ。

 全部任せる――そしてその結果は受け入れる。そういう事なのだろう。

 彼女は真実を知り、もう何人もの本当の死を看取ってきた仲だからな。

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