第306話 いつかこの日が来るかもとは思っていたよ
その知らせは、唐突にやって来た。
他の召喚者達もそれぞれ出払っており、俺は緊急の連絡があった時の為に、いつもの様に召喚庁で待機していた。
召喚庁も既に大所帯。召喚者一人につき一人の職員が配置され、常に要望を聞いたりスキルの使い過ぎによる精神への悪影響をチェックしている。
昔の様に、全員に俺が目を光らせているという訳にはいかないからね。
まあこれも、日本語を話せる人間が増えて来たからだ。なにせ彼ら召喚者の活躍は凄いからな。
そんな訳で召喚庁の仕事も部屋も増えた。ケーシュとロフレも、今やただの事務員から副長官の立場だ。
今や彼女らは独自の執務室を持ち、沢山の部下からの情報を忙しなくまとめている。
そして俺はと言うと、最初の執務室でポツンと一人座っていた。
いやハブられているわけじゃないよ。これは俺がそうしたの。
今後のためにも、長い時間をかけて俺がいなくても組織が回るようにしてきた結果だ。
そして遂にその甲斐があった。いよいよだ――そんな時に、神妙な顔をしてロフレが入ってきた。
「失礼します」
時間は昼過ぎ。いつもならふうふう言いながら大量の仕事と格闘している頃合いだ。
なのにやって来た。しかも一人。何があったのは明確だ。
「単刀直入に言ってくれていい。何があった?」
「……軍務庁長官、ユンス・ウェハ・ロケイス様が亡くなりました」
今まで考えていた計画が、ガラガラと音を立てて崩れた気がする。
訳が分からない。モンスターか? だが道中はしっかりと迷宮武器で護衛が付いている。
そもそも、向こうが建設した城塞から出る理由があまり無い。
考える理由は一つだけか。
「かなり強力なモンスターに砦が襲われたのか?」
「いいえ……砦は健在です。何からも襲われてはいません」
「何か事情があって移動中だったのか?」
「亡くなったのは、砦の中です……」
意味が分からない。考えられるのは病死か?
いや他にも考えられる可能性はあるよ。だけど、可能性と現実の間にはあまりにも大きな隔たりがある。
できるとやれるとの違いみたいなものだ。だけど――、
「殺したのはリカーンの連中か?」
「……はい。その通りです」
まるで考えられない。そんな事をしたらどうなるか、分からないはずがないだろう。
なにせマージサウルでは十分に暴れ、存分に脅してきた。その事を知らない訳ではあるまい。
ましてや今回のリカーンはそのマージサウルの代理として交渉に当たっている。
自分たちの行動は祖国の崩壊につながるだけじゃない。盟主の危機に直結しているんだぞ?
「すぐに行く。連中の指揮官を捕まえて事情を聴いてみないとな」
「いけません!」
おっとりとしたロフレの大声と必死な形相に驚いた。
今まで一度も見た事の無い姿だ。
「分かった。先に状況を聞こう。何があったんだ?」
「ユンス様は50人の護衛を連れてリカーンの砦で交渉に当たっていました」
「ああ、それは知っているさ」
「ですが先程、ジェルティオ門の前に全員の死体が積み重なっていました。その中に、ユンス様のご遺体も……」
ジェルティオ門って言うのはラーセットに沢山ある門の一つだ。砦に近いという以外、何か意味の在る門では無いな。
「だがそんな事――いや待て」
連中が殺してそこまで運んだのか?
全員の遺体を?
誰にも気づかれず?
ありえないだろ、そんな事。
確かに壁は鉄壁だ。だけど世の中に確実は無い。
しかも10数年前にはその壁を越えられて滅亡の危機にあった国だぞ?
門の警備が緩いなど有り得ない。
だが積み重なっていた――奴等が置いて行ったではなくだ。そんな事が出来るのは――。
「何人だ? 何人が連中についた?」
「は、把握は出来ていません――申し訳ございません!」
真っ青な顔をして、ロフレが深々と頭を下げた。
いやいや、待ってくれ。俺は今まで一度も、部下に……ましてやロフレに手を上げたりどなった事すらないぞ。
その反応は……そう考えながら周囲を見て納得する。
部屋中の調度品は、無意識のうちにバラバラに外されていた。
窓も砕け散っており、強風が吹き込んでいる。
参ったな。これでは暴力で脅したのと何ら変わりはないじゃないか。
「すまなかったな、ロフレ。分かっている範囲で詳しい事を教えてくれ。ああ、それと教官組は全員呼びだしてくれ。緊急事態だ」
そうはいっても、迷宮深部に潜っている連中とは連絡が付かない。
やはり教官組を地上勤務にしていた、前の
「はい、急ぎ招集をかけます。ただ……」
「ただ?」
「リカーンに寝返った中に、教官組の
……本当に、参ったものだ。
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