第302話 やっぱり女の子だねえ

 なんて話を、10日後に風見絵里奈かざみえりな児玉里莉こだまさとりに話した。

 丁度、第10期生の1回目の迷宮ダンジョン研修から戻ってきていたからな。

 場所は召喚庁の事務所。丁度ケーシュとロフレは書類を置きにそれぞれ軍務庁と内務庁に移動中だが、すっかり職員も増えてここはかなりにぎやかだ。

 この二人と肉体関係は一切ないが、何せもう長い付き合いだ。夫婦間――ではないが、ケーシュやロフレの話なんかもよくする仲である。


 というか、俺は女性経験の方は豊富だが、実際に一緒に暮らすとなると色々と話は別なんだよな。

 何せ普通に女性がいる家庭を体験した事が無い。ずっと父子家庭だったし。

 そんな訳で、彼女たちの誕生日や同居記念日などには、何を送って何をすべきかなんかもずっと相談してきた。

 こういった事は、ひたちさんが詳しかったんだけどなぁ。


 それにしても、二人ともすっかりこの世界に馴染んだものだ。特に服装が。

 風見絵里奈かざみえりなは黒の三角帽子にマント。その下は平らな胸をギリギリ隠す程度のビキニにネクタイ。下は学生っぽいブレザースカートだが物凄く短い。


 児玉里莉こだまさとりは黒のレザーアーマーと言えば聞こえはいいが、どう見てもタイツの無いバニー服。少しかがむと薄い胸の先っちょが見えてしまいそうだ。

 まあ流石にニップレスは付けていると思うが。


里莉さとりちゃんは付けてないよ?」


 余計な情報をありがとう。なんか妙に先端に意識が集中してしまった。


「また見事に視線が来たねぇ」


 面目ない。


「クロノス様のスキルに関しては、まあ色々と聞いています」


「女性がいないと死んじゃう病って、マジじゃなかったら殴ってるわー」


 児玉こだまは相変わらず容赦がない。というか病気じゃねぇ。


「何度も話しただろ。俺のスキルは強力な分、制御が無茶苦茶難しくてね。下手をすると、俺が消滅してしまう。それを防ぐためにも、女性との関係が必要不可欠なんだよ」


「事情が事情だし、どうしてもって言うなら私たちが相手してあげてもいいけどね」


「えっ!? “たち”って私も含むの!? それに幸次こうじくんはどうするのよ」


「え、なに? 児玉こだまって付き合っている男子とかいるの?」


「おっさんが男子とかいうの気持ち悪い」


 酷い言われようだ。


「まだ若いんでおっさんは無しだ。大体20代だぞ、俺は」


「その割には華やかさが無いよね」


「それは色々体験したからだよ。普通の人間が遊んでいる間もずっと研究に没頭してたし、その後の話もしたろ」


「でも、若い子とお付き合いしたいのなら、もっと若作り位すべきだと思います」


 風見かざみも要所要所で辛らつだな—。


「まあそれは置いといて、幸次こうじって5期生の橋本浩二はしもとこうじだよな? でもあいつって……」


「うん、沼古ぬまこ綺梨きらりとも関係を持ってるよ。だからまあ、付き合っているって訳じゃないのよね」


里莉さとりちゃん結構乙女だから、ライバルがいても一途なのよね」


「殴るよ」


里莉さとりちゃんに殴られたら死んじゃいます」


 フム……沼古ぬまこ綺梨きらりってのは、橋本浩二はしもとこうじと同じく5期生の沼古伊佐美ぬまこいさみ大窪石綺梨おおくぼいしきらりの事だな。

 以前もそうだったが、この世界では性に関しては結構オープンだ。

 常に生と死が隣り合わせだからな。生存本能や吊り橋効果、そしていつも一緒にいる運命共同体、更には年も取らなきゃ妊娠もしないってところが、一線を越えやすい要因なんだろう。それにしてもあの児玉こだまがねぇ……。


「何ニヤニヤしてるの」


「だってさ、はじめて召喚された日の事を想うとさあ。色々と成長も嬉しかったが……そうかー、男が出来たか―」


「だから違うって。そんな事言うと相手してあげないよ」


 そう言われると俺が飢えているようでちょっと失礼だが、したくないかと言われるとしたい。

 ではあるが――、


「気持ちは嬉しいが、俺はまだ大丈夫だよ。だけどそうだな、いざという時は土下座でもして頼むとするよ」


「その時にはそんな気分じゃないかもね。というか残念だったねぇ。絵里奈えりなの初めての相手になれたかもしれないのに」


 それはちょっと魅力的な提案だ。

 いや別に、俺は初めてにこだわったりはしないけどな。

 というか、二人一緒にする予定だったのか。本当にオープンだなー。

 けれどまあ、今は良いだろう。


「もう二人とは長い付き合いだが、一度もそういった目で見た事は無いよ。魅力が無いって訳じゃないぞ、一応な。だけどそれ以上に、同志として見ていたんだ。だから気持ちは嬉しいが、今は気持ちだけ貰っておくよ」


「まあそういう事にしておきましょう」


「私はちょっと安心。まだ心の準備が出来ていなかったから」


 そんな他愛のない雑談をしていた時、ケーシュが血相を変えて入ってきた。


「クロノス様、大変であります」


「何があった?」


「北のマージサウルから停戦協定の使者が来たとの事であります」


 そういやなし崩しに静かになっているが、特に何らかの協定や条約を結んだわけでは無い。

 停戦協定すら結んでいない。書類上では、まだ交戦中という事になっているわけだ。

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