第303話 これは希望の光となるのだろうか
すぐさま、俺は軍務庁へと向かった。
しかしなぜ今になって停戦なのだろうか?
以前、散々に脅してどうするか決めろと伝えたのは8年前か。随分長くかかったものだが、攻めてくる様子が無かったからたまに様子を見る程度にしていた。
一瞬で日帰りだし、まさか向こうも時々確認されていたとは思ってなどいなかっただろう。
まあそんな訳なので、危険はないだろうと優先順位はかなり低めに設定していた訳だ。
俺が行くと、もう話しは通してあったのだろう。すぐに会議室へと案内される事になった。
それなりに大事だろうが、会議室に居たのはユンスと秘書の他には6名ほど。書類や地図とにらめっこ中だったが、あまり騒ぎになっている様子は無い。もっと慌てていてもおかしくは無いと思ったが、さすがに8年も関係を断っていると慣れてくるものだな。
「やあユンス。詳しい事を教えてくれ」
「ああ、お待ちしていましたよ。しかし相変わらず不気味な姿ですね。新人が怖がっていますよ」
まあ、いつもの様に幽霊みたいな姿だからな。
「後で説明しておいてくれ。それでどう見る?」
「いきなりそっちから聞いてきますか。正直言えば、我々としても何を今更といった感じですね。ただ南のイェルクリオとの交易は上々ですので、パワーバランスは大きく変わりつつあります。多分その辺りが理由かと」
確かに、今のラーセットは召喚者が入手したアイテムや鉱石など、希少な品物がごろごろしている。
当然ながらそれを南方国家が交易で入手している状況を見れば、北方国家としては面白くないだろう。
「だけどずいぶん時間がかかったものだな」
「様子を見ていた事は間違いないでしょう。彼らとしては、召喚者の力でラーセットが肥大化すれば、南方国家が何らかのリアクションを起こすと期待していたのでしょう」
「軍事的な圧力や経済封鎖といった悪い方面のだな。だけどそれは無かったわけか」
「その通りです」
南方の大国イェルクリオと周辺国家は、北とは真逆の対応を取った。
武力を完全に引っ込め、交易を中心とした平和的で良好な関係となっている。
以前俺が要求したイェルクリオの迷宮を探索する件に関しても、全面的に了承する協定が結ばれた。
実際には俺がたまに行く程度。しかも現地の人間はいけないような場所だから、トラブルどころか接触も無いんだけどね。
だが、自国の
何の問題も起きてはいないとはいえ、そもそも承認される事が異例中の異例だそうだ。
権力も何も無い閑職だとあの時に出会ったウェーハスって女性は言っていたが、まあ上手く説明してくれたらしい。
問題が起きたら責任を取らされたんだろうけどな。たまには感謝の挨拶にでも行くべきか。
「そんな状況ですので、マージサウルも少し焦っているのかもしれません。何せ一回攻め込んで撃退されていますからね。国教的にも、召喚者は認められない。ただそんな関係を続ければ、やがて南方国家の協力を得て北を圧迫する事もあり得ると考えたのかもしれません」
「何の力も持たない緩衝地帯が、いつの間にか無視できない状態になってしまったわけか」
なーんてすっとぼけるが、実際にはこの状態は知っていたんだよね。
俺が最初の召喚された時、既にラーセットは小国ながら、南北のパワーバランスを左右する存在になっていた。召喚者の働きによってね。
当時は苦々しく思っていたが、今この状況を作ったのは俺だ。世の中分からないものだな。
「じゃあ、状況としては納得できるんだな?」
「ありえない話では無いという段階ではありますけどね。疑念を上げれば切りがありません」
その辺りは専門家じゃないし、全部丸投げしておこう。
「それでなんて言ってきたんだ?」
「それなのですが、リカーンという国をご存知ですか?」
「攻めて来た時に、連合の一員だった国だな。ただ詳しくは知らないが」
正確に言えば、ラーセットと同じように首都1つだけを持つ小国だ。
独立自治の国家ではあるが、マージサウルの傘下にあるといっても過言ではない。
場合によってはラーセットもそうなっていたわけだが、南北の緩衝地帯として放置されていたのが現状だ。
だから
双方の大国にとっては、この国が滅んだ所で痛くも痒くもなかったわけだよ。
それはともかく、一応戦争した国だけにその程度の事は調べてあるが、この世界は国家間の移動が大変なだけにリアルタイムな情報はなかなか入らない。
それに召喚者の様に特殊な存在があるという訳でもないとなれば、あまり気にする必要も無かったという訳だ。
でだ――、
「その国がどうかしたのか?」
「今回の件ですが、正確にはマージサウルではないんですよ。話を持ってきたのはリカーンの方です」
「意味が分からん……」
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