第291話 この世界やっぱりヤバいのではないか

 黒竜の表情は分からないが――、


「それは戦いの口上か? それとも神への祈りか? どちらでも好きにすると良い。その程度なら待ってやる」


 何と言うか、本当に怪物モンスターにしておくのは惜しいな。

 いっそ外に出したら相談役にでもなってくれないだろうか?

 そんな事も考えたがダメだな。外に出たやつは狂って異物になると聞いている。

 人間が狂っているとは思わないが、彼らから見ればそうなのかもしれない。

 以前に会話した時も、生き方や死に対する感覚がまるで違ったしな。

 まあ、こうして会えるのだからわざわざ危険を冒す必要はないか。


「いや、そういうのじゃないんだ。いくつか質問させてもらって良いかな?」


「意味が分からぬ」


「気にしなくていいよ。答えたいなと思ったら答えてくれていい。一つ目が、ラーセットを襲った怪物モンスターの事だ」


「そんな名は知らぬ」


「そりゃそうか。ラーセットって言うのは国の名前だよ」


「興味が無い。そのような名前、すぐに忘れるであろう」


「じゃあ質問を変えよう。昔この迷宮から出て異物になった怪物モンスターで、世界滅ぼす力を持った奴がいると言っていたな。あの時は話が途中で終わってしまったが、今度はちゃんと聞きたい。それは青白く、脱皮する怪物モンスターを従える奴か?」


「お前の言う事はよく分からぬ。人と話すのは初めてだ。あの時? 何のことだ」


 あー、考えてみれば初対面か。というか、俺が話すまで人間と会話したことも無かったとは。

 というか、こうして話をする事自体がおかしいか。

 とはいえ――、


「その辺は事情があるので気にしないでくれ。実はその怪物モンスターを探しているんだが、まるで見つからないんだ。お前はこうしてちゃんと見つかるのにな」


「お前の話を着ていると混乱する。もう始めてもいいか?」


 言葉は質問だったが、もうすぐ横に振り回した尾が迫ってきていた。

 だが――、


「もうちょっとコミュニケーションを覚えてくれ。力の無い時にこんな事をされると困るんでね」


 尾に触れ、切れ目を入れる様に外す。そして勢いも。

 それはまるで最初から切れていたように。勢いの全てを失ったまま床にボトリと落ちた。

 噴き出す血を見ながら黒竜は沈黙していたが、多分何をされたのか分かっていないのだろう。


「戦うなら後でちゃんとやるから、今は質問に答えてくれ。俺にとってはかなり重要な問題なんでね」


「……良かろう。数百年前にここを出て異物となったもので、今も現存しているのは3体だ。どれも幾つもの国を滅ぼしている」


 いやちょっと待て。本当にこの世界ヤバいんじゃないのか?


「だがそれらがどこにいるかなど知らぬ。興味もない」


 まあ、以前話した時も突き放したような感じだったな。

 迷宮ダンジョンから出た奴は、こいつにとって本当に異物――ゴミみたいなものなのだろう。

 だが大変動と共に死と誕生を繰り返すこいつらにとってみれば、死ねばこの世から消滅する奴など、たとえどれほど強かろうが知った事ではないのか。


「一応だが、見つける手段はないのか? あと弱点があれば知りたい」


「本当にぶしつけで理解出来ぬ人間だ。空を飛ぶものは今も世界の何処かを飛び回っているだろう。あれは地上に降りる事は無い。ただ気まぐれに地を焼くだけだ」


 いきなり迷惑この上ないのが出たな。ラーセットに来ない事を願おう。


「次が変幻自在の流体形をしたものだ。どのような隙間にも入り込み迷宮ダンジョンにも入って来る。だが全体の総量は変わらぬ。そのような形をしても、見つけるのは容易であろう」


 総量ってのは質量だろうな。変わらないって事は、分裂したりは出来ない。流体って割には、案外切って倒せそうだ。

 さっきの奴に比べれば幾分マシだろう。


「そいつはどのくらいの大きさで、色は?」


「赤く、総量はお前たちの単位で言えば1兆トンだな」


 高さ1メートル位と考えると、青森県がすっぽり飲み込まれる大きさか。やめてください死んでしまいます。何処がマシだよ。

 当たり前だが幾つもの国を滅ぼして今も現存している奴ってのは、本当にろくでもないな。

 だがこれらは両方とも違う。


「最後がお前の言うものだろう。大きさはお前よりも少し大きな程度の球体だ。周辺の異物を自らの眷族へと変え、育った眷族もまた新たな眷族を増やす。そうやって無限に増殖する」


「何のために?」


「異物の考えなど知らぬ。お前らはなぜ増えるのかも分からぬ」


 それが事実だとしたら……いやこいつは嘘をつかないだろう。

 育った眷族とやらは、完全に脱皮した奴だと予想できる。しかし本体だけではなくそいつらからも増えるのか。ゾンビみたいだと予想した児玉こだまの考えも、案外間違っていなかったな。

 それにしても分からないな……。


「もう話などどうでも良かろう。我は使命を果たすのみ」


 尻尾を容易く切り落とされたのに、恐れる様子は無い。まあこいつらはある意味不死だからな。

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