第289話 今後の方針は決まったな

 俺の召喚計画を聞いて、3庁の長官たちは全員驚いていた。

 そりゃそうだろう。それまで少数精鋭で、確実に慎重に鍛えていくはずだったんだ。

 それが突然大量に召喚する事を容認――それどころか自分から言い出したのだ。まあ気持ちは分かるよ。

 そんな俺に、最初の疑問を感じたのはミーネルだった。


「神殿庁としては、召喚に関しては問題ありません。ですがよろしいのですか?」


「むしろ今回の大変動で、召喚者は多い方が良いと感じたよ。より多くの召喚者が多くのバリエーションを生み、また失敗も共有される。今回の大変動では残念だったが、他の召喚者がいれば防げたかもしれないし、生き残りも危険さを教訓とする事が出来た。だが俺の判断ミスで振り出しに戻ってしまった。その失敗からだよ」


「しかし、大勢を召喚した時にコントロール出来ない事を危惧なさっていたと思いますが、その点は大丈夫なのでしょうか?」


 そう、多くの人間を召喚すればトラブルは飛躍的に増える。

 少数であれば周囲からの圧力で従わざるを得ないが、召喚者の勢力が大きくなれば、そう簡単には従わなくなってくる。前の……というか最初に“素晴らしい品物を集めてくれば、特別な力を得て地球に帰る”って話を思いついいたクロノスはうまいこと考えたものだと思う。

 なにせ目の色を変えて働いてくれるし、余計なトラブルを起こす前に、そういった強力な召喚者はご退場いただくわけだからな。


 奪い合いを黙認したのも、おそらくその点からだ。

 そういった問題児は長くいれば確実にマイナスになる。

 早期に悪の芽を摘むのは、実はプラスとなっていた訳か。

 そして奪われる方はその程度の力しかなかったという事だ。諦めて次に期待して召喚した方が良い。

 うん、人道という言葉を無視すれば素晴らしいシステムだ。

 当時の俺と本気で腹を割って話し合いたいと思う。今となってはもう遅いが。


 だけどそれを導入するかはギリギリまで考えたい。

 これからはもっと多くの真実を知る者が必要になって来るだろう。まあ共犯者だな。

 その時に、嘘が多ければ多いほど信用されなくなってしまうからね。

 以前は特別な人間がクロノスを含めて4人。それに教官組が6人だった。

 数を合わせる必要は無いと思うが、やはりもう少し人手が無いとどうにも困る。


「その時は、俺が対処する。それより気になっているのは、問題を起こした者を送還するたびに、せっかく生贄になってくれた方の命が無駄になる点だ。そこが申し訳なく思う」


「それに関しては、一切考える必要はありませんよ」


 俺の言葉に応えたのは、軍務庁長官のユンスだった。

 そういえば、こいつを簀巻きにして川に放り込むのを忘れていたな。

 いや今はそれは良いか。


「召喚者一人で失われる命はせいぜい20人以下。それに対し、我ら軍部の者が迷宮に入って失われる命の方が遥かに多い。そして、手に入れる戦利品の質も量も比較にもならなりません。国家の事を考えれば、反対する理由はありませんよ。むしろ被害は減るのですからね」


「だが働く前から送還しなければいけない状況も増えるぞ」


「既に1回していますね。ですが残った人たちの活躍は凄いものです。例え1万……いや、10万の軍隊を投入しても同じ事は無理でしょう。他国が召喚者を恐れ、うらやむのも分かります」


「内務庁も異を唱えるつもりはありません」


「ゼルゼナも賛成か。少し意外だったよ」


「私をどんな目で見ていたんですか。召喚者が増える事は、我が国にとっても大きな利益です。仕事は増えますが、それはある意味喜ばしい事です。それより問題なのは、召喚庁の人員不足でしょう」


 それは確かにそうなんだよね。何せ日本語を話せる人間が少なすぎる。


「日本語教育は進んでいるのかい?」


「高等教育の選択に日本語教育を入れましたが、まだ完全とは言えません。教科書の作成も完全とは言えませんので」


 教育関係は内務庁の管轄だ。ある程度は俺や他の召喚者、それにケーシュやロフレも手伝ったが、なにせ全員とにかく忙しかった。せめてローテーションで教鞭を振るってもらえば楽になるのだが、召喚者にそんな事をやらせる余裕はない。

 ケーシュとロフレは召喚庁の仕事で限界だ。今でさえ残業続きなのに、とても出向させている余裕はない。


「分かった。しばらくはこちらで対処しよう。だけど言葉の断絶は必ず相互不信を引き起こす。これから召喚者が増えれば、それが顕著になる事は明白だ。急いでくれ。そこでだ、すまないがミーネル。何人か日本語を話せる子を教員として出向させてくれないか? もちろん信仰や日々の修行が大変なのは理解しているが、こちらの事情もんでくれるとありがたい」


「そうしたいのは分かるのですが、あの子たちもまだ修学過程なので……」


 そういやシェマンもそうだったな。俺があの子たちを抱いてからもう2年か。当時何歳だったのだろう……いや、考えない方が良いな。


「正式な教員や授業としてでなくてもいいだろう。臨時講義でもなんでも融通は付かないものなのか?」


「既に高等教育に進んだ子たちは、全員日本語を選択しています。やはりクロノス様は、皆の憧れですから。でもまだそんなに多いわけでは無くて」


 本当に何歳だったのだろうか。ちょっと怖くなってきた。

 しかし、やはり1を2にするのは簡単でも、0を1にするのは大変だ。

 これから召喚する中で、言語関係のスキル持ちがいる事を願おう。

 だけど祈るだけで終わらせるわけにもいかないか。

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