第274話 俺は絶対にああはならない
そしてそれから4日後。遂にミーネルの子供がこの世に誕生した。
双子の女の子であった。
当然、認識は外していない。ミーネルに対しては今更だし、この記念すべき日にごまかしを入れたくなかったからね。
抱いてやって欲しいと言われたので抱っこしたが、あまりにも可愛すぎる。
これが自分の子供だったらと考えてしまうのは本当に情けない未練だ。すぐに外そう。
同時に、必ずやこの子たちが成長するまでに、このラーセットを完全に復興させようと心の中で誓った。
絶対に幸せにしよう。そして、もう命の危険にさらされるような事の無いように平和な状況を作るんだ。
そうなると、他国だけじゃなく地上の
あれは閑職だと言われていたが、それは
まだ決まっていないんだよね。召喚者に働いてもらう理由。
やっぱりちゃんと考えないといけないのだが、結局思いつかず新たな召喚者も追加していない。
本当はもっと、きちんとしないといけないんだけどな。
誕生祝いを渡し、祝辞を述べて暫しの雑談。その後は双子が泣き出したので俺は退散した。
まあお腹がすいたのだろう。
旦那は俺がいても構わないと言っていたが、さすがにそうはいかない。
そういえば俺の事ばかり考えていたが、彼も複雑な気分だろうな。
何せ俺は妻の元恋人であり、国の英雄だ。しかも仲が悪かったわけでは無く、俺に子孫が残せないから代わりに彼が結婚した。当然、その辺りの事情は知っている。
あの気弱な髭面を見るたびに内心苛立っていたが、少し考えを改めるべきか。
彼はもう、あの双子の父親なのだから。
そんな事を考えながら、久々にラーセットの街を歩いた。さすがに外では完全に認識を外しているので、誰も俺には気がつかない。
街はそれなりに復興を見せていた。迷宮産の歯車仕掛けで動く謎の重機が忙しなく動き、瓦礫を運び、建物を建設し、中心部は大体整理されている。
だが少し郊外に行けば、倒されたビルの瓦礫で潰された区域がまだ多く残る。まあ、今の人口や物資では、そこまで手が回らないのだろう。まだ俺が来て、僅か2年半だしな。
なんか10年分くらいは働いたような気がするが。
でもまだまだこれからだ。彼らのためにも、俺のためにも、地球のためにも、そして産まれた新たな命のためにも、まだまだ頑張らないとな。
そんな事を考えていた足が、次第にゆっくりになり、遂には止まる。
いつの間にか、思考で体を動かす余裕すらなくなってしまっていた。
ヨルエナ・スー・アディン。彼女を忘れる事は無い。
いきなり乳を揉んで、ひっぱたかれて、追放されて、殺されかけて――そして色々あって、最後は俺が塔を破壊し時計を盗んだ事を止められなかった罪により処刑された。
確かに憎んではいたが、殺したいとまでは思わなかった。
だが実際に止められたわけがない。あれは国民を納得させるためのパフォーマンスのようなものだ。
だが、もうこの世界はあの時とは違い。色々と変わった。セポナがもう産まれてこない様に、彼女もまた産まれては来ない。
だけど重要なのはそこじゃない。彼女はミーネルの孫か、もしくはシェマンの孫か……とにかく、神殿関係者の親族だ。それも血統重視の神殿庁ともなれば、やはりミーネルの孫である可能性が高い。
そんな彼女を殺したのか、
おかしいだろ? 今の俺でも、当時の俺を止めるなんて簡単だ。ましてや百年後の俺なら雑作もない事だろう。
何か計画があったのだろうが、それはヨルエナを殺してでも果たさなければならない事だったのか?
俺には絶対に出来ない。あの双子やその子供達を処刑する? しかも止める事も、他の手段だっていくらでもあっただろう。
なのに
天を仰ぐ。もう夏も終わりに差し掛かっているが、それでも気温は温かい。
だけど寒い。心が内側から凍りそうだ。
なぜそんな事をしたんだ!
そこまでしなければいけなかったのか!
俺はどんな気持ちで、彼女の死を見たんだ!
イェルクリオで戦った
だけどそれは見せかけだったのか?
本当は、もう完全に壊れていたんじゃないのか?
本人たちが愛し合っていたから? 俺なら絶対に許さないね。
もうクロノスだったからか?
くそっ、考えても分からない。
だけど、この考えは頭から外すなよ。その時になった時、必ず思い出せるようにな。
俺は絶対に、何があってもそんな事はしない。
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