第266話 今更だがこの世界の礼儀を学ばないとな
「そうか、ミーネルはもう産休に入ったのか。今何か月だっけ?」
「もう3か月になりました。9か月後が楽しみですね」
そうって微笑むが、心の中ではへーと思っていた。
3か月で産休に入るのも意外だが、妊娠期間は1年か。やはり微妙に俺たちとは違うんだな。
それにしても予想は付いていたが、姉妹セットでお相手してしまっていましたか。
大体みんな親族とは聞いていたからあり得る話ではあるが。
それにしても、髪の色や顔つきは結構違う。
というかこの国の人種的な特徴なのだろうが、髪の色はかなり個性的だ。
それに姉妹と言っても、父親なり母親なりが同じとも限らないわけだが、その辺りを聞くのは野暮ってものだろう。
「ああ、楽しみだな。それで今はシェマンが神殿庁長官な訳か」
「そう――ではありますが……」
ん? なんか歯切れが悪い。
「ここでは一応、神官長かシェマン大司教でお願いします」
「それはすまなかった。まだ慣れていなくてな」
図書室に見えるがここは宗教施設。ちゃんとルールに従わないとまずいか。
つかこの世界の礼儀作法って、俺全然知らないんですけど。
高校生の頃に召喚された時、この世界は敵だった。
無理やり召喚して将来を奪い、多くの人たちの命を奪い、
ダークネスさんの様に支援してくれた人や、セポナやひたちさん、
というよりも、俺自身が彼らからすればテロリストだったわけだしな。
だけど立ち位置が変われば視点も変わる。今は、このラーセットという国が好きだし、この厳しい世界情勢の中でも必死に生きようとする人たちが大好きだ。
俺は、これを恥ずかしいとは思わない。
あの時の俺とは、スタート位置も知識も、何もかもが違う。高校生の俺が自分の信じる道を進んだように、俺もまた俺の信じる道を進むだけだ。
「それでクロノス様、今回はどのような御用件で?」
「ああ、新しく何人か召喚しようと思う。今いる5人に、他の召喚者を教育する術を学ばせたいんだ」
「それは素晴らしいと思います。早速、志願者を募りましょう」
志願者か……胸が痛む。
上はこういっても、当人たちはハッキリと生贄と認識している。
当然自己申告制で残された者には十分な資金や待遇が与えられ、召喚者のもたらす富はこの国を豊かにするだろう。
だが命を使う事に変わりは無い。友が――家族が――召喚者のために命を落とす。
そして前回のような奴がいれば、その命は完全に無駄になってしまう訳だ。
この国にだって、気持ちよく思わない人間もいるだろうな。
「取り敢えず今回は少ない方が良い。そうだな……3人位が良い。今いる人数よりも多いと、暴発した時に手に負えなくなってしまうからね」
まあ、スキル次第では一人でもアウトな可能性はあるけどな。
「それと支度が出来るまでの間、基本的な礼儀作法を学びたい」
「クロノス様でしたら、堂々となさっているだけで良いのですよ」
「いや、南のイェルクリオに挨拶に行こうと思ってな」
その一言で、和やかだった空気が変わる。
「それは危険すぎます。クロノス様に万が一の事があれば、今のラーセットでは……」
シェマンは真剣だ。本気で俺とラーセットを心配してくれているのだろう。
けれど――、
「大丈夫だ。今の状態で、俺に危害を加えられる人間はいないよ。いるとしたら――いや、これはまた今度にしよう。とにかく、召喚の件は頼んだ。というよりシェマン大司教で大丈夫なんだよな?」
「それは失礼ですね」
目に見えてぷくーっと膨れる。何か可愛い。
「これでも基本的な事が出来るからこそ、ミーネル姉さまの代役が務まるのです」
両手を腰に当てて胸を逸らす。いやいや、大きな膨らみがこぼれるから気を付けて。
というか、この辺りの仕草は同じなんだな。
妊娠期間とか多少違っても、基本的な骨格は同じだ。まあそんな物なんだろう。
というか、検死とかしたことが無かったな。怪我人も医療知識よりスキルや薬で治したし。
案外どっかの骨が多いとか知らない臓器が……いやいや、これは医者になった悪い癖だな。そういった事は気にしない事にしよう。
同じ人間――その意識を徹底するべきだ。
「そういえば、久々にクロノス様のお顔を見たいです。軍務庁から愛人が派遣されている事は知っていますが、久々にどうです?」
いやどうですと言われても……と言うか愛人と周知されていたのか。
いやもう言い訳のしようも無いけど。
「シェマンは夫とか恋人とかはいないのか?」
「あはは。まだ15ですよ。そういった事はまだ先です。ただでさえ学業と兼任で大変なんですから」
いやちょっと待て。今更ながら色々とヤバい。あの時何歳だった? うん、聞かなかった事にしよう。
「取り敢えず、礼儀作法の方を教えてくれ」
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