第263話 あー罠ねハイハイ

 最後に残ったのは内務庁長官か。全身真っ白の白ずくめ。蝋人形のような男だった。

 さて――建物の中には……もういない。

 東西南北……距離は……。

 これが先輩のようなサーチ系だったら楽だったのだが、俺の場合は”そこはハズレ”という消去法だ。結構面倒くさい。

 それでも大体の範囲は絞れたのでそこへ飛ぶ。今度は話の通じそうな相手だと良いんだがな。





 そうして飛んだ場所は地下だった。

 出入り口はない。床は水平だが、天井はアーチ型。ドームのような形状だろうか。

 差し込んでくる天然の光は無く、並んだ円形の人工的な明かりが部屋全体を照らしている。

 そしてその中心に、目標の男がいた。狭い檻の中に入って。

 というか、正確には檻というより目の細かい金属の網の様なものか。

 形が崩れていないところを見ると、相当に硬いのだろう。

 いやなんだこの状況は?


「やはり瞬間移動が出来るのか。最初に現れた時からそうではないかと思っていたが、これは驚きだ」


「俺も驚いたよ。まさかこんな場所とはね。その檻、誰かに入れられたわけでないのだろう?」


「その通り。ここは結界だよ。お前のような怪物モンスターを倒すためのな」


 その言葉に合わせるかのように、四方の壁が空いて完全武装の兵士達がぞろぞろと出てくる。

 同時に鈍い音が響くが、やはり今気にするべきは兵士の方だ。

 革を重ねたような動きやすい鎧。金属の盾に剣や槍、そしてボウガンといった武器。それ自体はこの世界の基本装備だろうが、本当に基本すぎる。迷宮産じゃないんだ。


「ここでは全ての力が封じられる。このバルクマスコにあるセーフゾーンの中でも、特別な場所なのだよ」


 バルクマスコってのは、今更だがこの国の首都の名前だ。おさらいだが、大変動で迷宮が作り替えられても、セーフゾーンの位置は変わらない。

 ここはおそらく、首都の敷地内にあるのだろう。


 そういや転移するアイテムみたいな物があるんだったな。

 そして俺の出現に驚いた様子はない。

 となれば、外からここへは来る事が出来る。アイツの持っていたアイテムは、あの檻の中へ直通ってわけだ。

 だけど一度入ってしまったらもう力は使えない……罠としては上々だ。

 そしてもう外へは出られない。先ほどの鈍い音は、外部で大きな扉か何かを閉めた音か。おおかた、核シェルターの扉の様なものがあるのだろう。

 これで閉じ込めたつもりなんだろうな。


「悪名高き召喚者もこれで終わりだ。他国の本拠地に来た度胸は認めるが、蛮勇だったな! さあ、やれ!」


 合図と共に大声を張り上げ勇ましく迫って来る戦士たち。

 だが蛮勇とは彼らの事だろう。いや、無知を責めても仕方がない。

 彼らの命を容赦なく外す。人の声の代わりに倒れる音と金属が落ちる音が響き渡り、そのままドームは静寂に包まれた。


 内務庁長官は腰を抜かし、へたり込んでいる。

 相当に自信のある策だったのだろう。それに俺用じゃないな。いざという時の為に、用意周到に用意されていたんだ。

 もしかしたら、考えたのはこいつでなく、ずっと昔からある切り札的なセキュリティだったのではないだろうか。


 だけど意味はない。

 俺はこの世界の法則にも制約にも当てはまらない。召喚者なのだからな。

 腰を抜かした内務庁長官を前に、俺は少し考えにふけっていた。

 いや、外に出る方法じゃないよ、扉なんて外せばいいし、そもそもその必要もない。


 かつて黒竜が言っていた。あの青白い怪物モンスターの親玉や人間も、かつては迷宮ダンジョンの一員――星の一部だった。

 だが地上に出た事により、彼らは異物になったという。

 その時はあまり気にしていなかったが、確かに差がある。


 俺は昔、迷宮ダンジョン怪物モンスターをスキルで倒せなかった。

 まあ地上の生き物も無理だったけどね。

 今ではダンゴムシくらいは何とかなるが、それより大きければ無理だ。黒竜なんて絶対にダメだろう。

 こうして、地上の生き物の命を外せるようになっても、実はその点は変わっていない。

 迷宮ダンジョンの生き物は、何らかの力で星に守られた存在なのだろうな。

 もちろん、戦って勝つことは出来る。その辺りは弱肉強食といった所だろう。


 星の異物……人や奴もまた、この星の加護を失った哀れな存在なのかもしれない。

 その辺りが、奴等の本体を見つけるヒントになれば良いのだが。


 まあそれよりも今は、檻を外して現在この世で最も哀れな存在を引きずり出す。


「ま、待ってくれ。要求があるなら聞こう」


 ――これは本心からだな。


 最後に残った奴が話が通じそうで良かったよ。他にもいろいろと手を考えたが、最悪の場合はラーセットがこの国を占領すると言う手も考えてあったんだ。

 当然、10倍とも言われるマージサウル人を相当数殺さなければいけないし、その後は周辺国との泥沼の戦争に突入するだろう。

 正に最後の手段だ。そうならなくて良かったよ。

 こちらとしては上機嫌だが、それを察してもらっても困る。


「では先ほどの部屋まで戻ろうか。話の続きと行こうじゃないか」


 内務庁長官は声にもならない悲鳴を上げたが、知ったこっちゃない。俺はこいつの首根っこを掴んで、容赦なく最初の部屋へと飛んだ。

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