第226話 壊れちゃった

 倒しては戻り、また倒しては帰る。それを一昼夜繰り返した。

 何度も繰り返す内に、ミーネルもなんか慣れてきたような気がする。

 さっきなんて、トロンとした潤んだ瞳で出迎えてくれた。

 良い事なのか? いやまあそうだと思っておこう。


 それにしても、街は酷いものだ。散乱する瓦礫、転がる死体。跋扈ばっこする怪物モンスターたち。

 どれほど倒してもきりがない。

 たまに人型かどうかに関係なく人語を話す奴もいたが、それももう何体倒したのか。

 と言うか、こいつらと戦うのは何度目だ?

 そんな自問をするが、いや初めてだよ。だって俺は戦闘員じゃなかったのだから。

 だけどなんか、剣で戦っていたような気もするんだよな。


 幸い、剣は直ぐに見つかった。兵士の死体が持っていたからだ。

 なぜか一瞬だけ拾う事を躊躇ちゅうちょしたが、今はそんな事を言ってはいられない――いや、やっぱり以前にも全く同じことを考えた気がする。

 ――が、まあ気にしても仕方がない。目の前に敵が迫ってきているのだから。


 それにしても、本当になぜなんだろうな。

 普通は見知らぬ場所に来て、燃え盛る街を見て、かつて逃げ回り、研究していた怪物モンスターを見て、さあ戦えと言われて普通に戦える人間なんていないぞ。

 いや、まあいいや。そんな疑問は今は外そう。

 次元変異とか言われたが、こう言った考えなんかも外せる所を考えると、実体は少し違うのかもしれない。


 そんな事を、襲ってくる怪物モンスターを切り倒しながら考える。

 斬れば斬るほど、何かを思い出せそうな気がする。

 それにまだ体が重いし頭もボーっとするが、段々と体が軽くなってくる様な気がする。

 そういや、召喚して暫くは……なんだっけ?


 何度目かの帰還を果たした時、彼女ミーネルは下着姿のままベッドで待っていた。

 最初っから下着姿みたいなものだったが、まあ長いネクタイの様な前のアレが無くなっているな。


「お待ちしておりました……ど、どうぞこの体を、お好きなようになさってください……」


 その言葉で考えていたことは全部とんだ。そして、俺達は結ばれた。

 なぜそうなったかは覚えていない。なぜそうしたのかも覚えていない。

 でも自然にそうなった……そうとしか言えなかっただろう。

 それだけ、彼女が魅力的だったんだよ。





 それからも次々倒しまくった。

 普通ならボスがいて、それを倒せば終わりなのだろう。

 だけどそれっぽい奴がいない。中ボス的に強い奴――というか特殊な個体はいるが、幾ら倒しても減る様子がない。

 これは日本で……だけじゃないな。世界中で起きた事と一緒か?

 だとしたら個人が幾ら倒しても無駄なのか?

 敵は信じられないほど高い壁を越えて次々と増えてくる。

 あちこちで人々の抵抗を感じるが、それもどんどん少なくなっている。

 無駄なのか? もしかしたら、俺はあの世界で死んで、地獄に落ちたのか?

 そして此処でも、絶望を味わいながら死んでいくのか?


 いや、諦めるな。

 根拠はない。だけど出来る。俺には出来る!

 スキルを制御するアイテムだったな。確か同じものはこの世に2つと存在できないが、壊れたら幾らでも出てくるはずだ。

 なら、限界までいこう。いや、その先まで。

 500メートル――1000メートル。ダメだ、全然足りない。まだまだこの都市すら囲めない。敵はその外にも沢山いるんだ。


 頭の中で、何か声が聞こえたような気がする。

 強化? 選択肢? 何かを選べ? 幾つもの言葉が重なって全然分からない、もっとはっきりわかるように説明しろ。

 だが選ぶとしたら、今欲しい力は――範囲だ!

 5000メートル――1万メートル。範囲が広がっていく。その範囲にいる怪物モンスターを全て消し去る。

 だが残っている奴もいる。こいつらのどれかが本体か?

 各所に点在しているが……この距離から行けるか? いや、やる。距離なんて外す。


 目標までの間にある空間を外す。目の前に現れたのは、最初に見たような人間型。

 だがこちらに気が付く前に、切り刻む。それでも再生しようとするが、今の俺なら対処できる。

 ここではない何処かへ飛ばす。時空の彼方へと。


 だけどまだまだ敵はいる。雑魚を一掃した時にかなり弱らせたが、それでも相当数が残っている。

 全部倒さないと。ここで全て――、

 そこで何かが、パキンと音を立てて割れた。それがスキルを制御するアイテムであることはすぐに分かった。

 マズい、新しいのを貰いに行かないと。

 だけど体がぐらついてまともに動かない。こいつはマズい、失うとこうなるのか。

 あの時、木谷きたにには本当に悪い事をしてしまったな。

 いや、でも木谷きたにって誰だ?

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