第217話 終わり
クロノス……それが偽者とか沢山いるとかでない限り、こいつが召喚者たちのトップ。
そして今の召喚システムを作ったやつでもある。
「もしアンタが本物なら、是非聞きたかったんだ。なぜ召喚システムなんて作った!」
「お前は馬鹿か。召喚システムが作られたから、俺がこの世界に召喚されたんだろう」
その通りでございます――じゃないよ。
「俺が言っているのは、多くの人を召喚し、騙して働かせ、そして用済みになったら始末する。俺が以前出会った教官は、ラーセットの為だと言っていた。この国を円滑に発展させるために、やらなきゃいけないんだってな。だがそれは本当か!? そんな事をしなくても、ラーセットは発展できたんじゃないのか?」
「そうか……そんなやり取りがあったとは知らなかったよ。やはり思うようにはいかないものだな。だがそれは朗報でもある。やはり幾らでも手の打ちようはあるという事だ」
「何を言っている? 質問に答えろよ」
「そうだな……答える義務はある。だがこの街の状況を見ただろう。ここはもう長くはもたない。他の都市への門が破壊されるのも時間の問題だ。だから信号を送れば、即座にこの都市は消滅する。
「その前に、俺が本体を見つけて倒す!」
「残念ながら時間切れだ。そしてそれはもう分かっていた。それでもこの状況を作ったのは、自分を信じていたからだよ。どれほど不可能と思われても、必ずや俺は成し遂げるであろうとな」
「聞いていたよりも、随分とナルシストなんだな。だが、それで失敗していたんじゃ立つ瀬が無いだろう」
「全くだ。確かに言う通りだよ。だけど、どんどん良くなっている……そんな気がするんだ」
「俺には状況はどんどん悪くなっているようにしか見えないがな」
「そうだな……常に真っ直ぐ良い方向に向かうなんてことは無いと思う。だけど俺は知っているんだ。段々良くなっているとね」
こいつの言っている事は今一つよく分からない。
認識が阻害されているのか、位置も良く分からないし声も変だし何処から聞こえてくるのか分からない。
だけど段々と把握できてきた。
けどどうする? 戦う? あんまり意味はないよな。
腹は立つが、こいつ殴っても仕方ないし。なら……。
「そう、戦っても意味はない。ここはそうだな……俺を捕まえて人質にして、神罰の使用を遅らせるって所か」
ドキッ!
心を読まれている? こいつのスキルかアイテムか……実際そうなら最悪だ。よほどの実力差で上回っていれば幾ら読めても意味がないスキルだが、相手の方が強かったらどうしようもない。
というか、俺より弱い可能性は無いな。
「そう、どうにもならない。安心しろ、そこの
「そりゃどうも!」
ここだ! という場所に殴りかかるが、虚しく外れる。やはりあてずっぽうではダメか。
だけど、無駄だと分かっていてもやらずにはいられない。
「時間がない。ここまでに分かっている事を伝えよう」
「伝える事があるのなら、もっと早くにするべきじゃなかったのか?」
何とか捕まえたいが、手は空を切るばかりだ。
「伝える事は伝える。理由は自分で考えると良い。これは口伝だ。すべて覚えろ。まず最初に全てを伝えて協力を仰ぐ――失敗。全ては伝えないが、協力して研究する――失敗。先ず鍛え、十分に強くなってから協力を仰ぐ――失敗。召喚者全員に協力を仰ぎ一丸となって行う――失敗」
こいつは何を言っているんだ。
「普通の召喚者として扱う――失敗。自分で考えるように誘導する――失敗。裸一貫で放り出して成長を促す――失敗。何一つ干渉しない――失敗」
「何を言いたのか知らないが、成功が一つもないじゃないか」
「それはそうだ。まだ一度だって成功と呼べることは無い。だが本当に、心の奥底からそれを願っているよ。特に今回は期待した。放り出して成長を促してみたがどうだい。予想より遥かに早く戻って来ると、大神殿から秘宝を盗み、自らの意思で研究し始めた。良い所までいっていたと思うんだ。だけどダメだったな……
「また随分と酷い言い草だな」
話しているだけでイライラして来る。何なんだこいつは!
「運命なんぞで俺と
「そうなったら止まってしまうんだよ。この流れがね。当然、そうなっても俺は終わらない。今後も戦いも研究も続けるさ。決して諦めることは無いし、それは許されない。だけど、時間切れの最後は必ずこうなる。戦うかどうかは別だがね。ただそうでなければ、希望は途切れてしまうだろう」
本当に意味不明だ。もっとわかるように話せよ、クソッ!
「いつか分かる。そして分かった時、それはいつかではなく今になる。今回は俺の失敗だな。
突然、目の前に気配を感じる。
なんだ! いるのか!?
「これは返そう、さようならだ。もう俺たちは二度と、永久に出会うことは無い。だけど俺にもお前にも、まだやるべき事は残っている。頑張れよ。負けるなよ。折れるなよ。必ず希望はある。そう信じて進め」
左手の甲に、チクリと痛みが走る。
その瞬間、体が軽くなる。気分が和らいでいく。全てのしがらみから解放された気分だ。
体が光に包まれていく。これは――、
その後、イェルクリオの首都、ハスマタンは光に包まれた。その様子は、筒から立ち上る光が星を衝くかのようであった。
その後には、何一つ残らなかった。
だがそれを
残された人々がどうなったのかも、
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