第210話 ここは見捨てるしかない

 周囲の連中は、まだ俺たちを気にしている様子はない。

 たった今斬った奴も再生しつつあるが、この様子だともう戦闘に関わることは無いだろう。

 ただこいつらを死滅させるには、以前に聞いたように本体を死滅させるか焼却などの手立てしかなさそうだ。

 ただ焼いて灰にしたら拡散しましたとかになったらいやだなぁ……。

 そう思いながらも、力の程度は分かった。後はもう斬り倒しまくるだけだ。


「こいつら、見た目は不気味だけど、ただの怪物モンスターだよ」


 そういった咲江さきえちゃんの周囲には、既に十数体の怪物モンスターが倒れている。

 となると、こいつら呼吸するのか。だとしたら、咲江さきえちゃんの敵では無い。

 ただ問題は、俺と違って召喚者のスキルには使用限度と言うものがある。

 使い続ければ疲労は蓄積し、また最悪の場合となれば精神が破壊される。まだ敵の全容が分からない状態であまり無茶をさせたくは無いな。


咲江さきえちゃんは身を守りながら最小限で。先はまだまだ長いからな」


「分かった。その分期待するよ」


 こうして俺達は、博物館の周辺に群がっていた怪物モンスターたちを一掃した――と言いたいが、日が暮れてもどんどん集まってくる。早くもきりがない。


「アンタたち、もしかしてラーセットの召喚者か?」


 微かな声が聞こえてくる。

 場所はてのひらも入らないような狭い隙間。更に奥まで1メートルはあるだろう石組の先。しかも周囲は真っ暗だ。

 だが聞こえる、視える。あれはおそらく空気を取り入れる場所だろう。

 それにしても普通の人間だったら――いや、その時はそれで良かったのだろう。


「そうだ。俺達はラーセットの召喚者だ。加勢に来た」


 中から安堵、歓喜、そして落胆と複雑な感情が渦巻いたのを肌で感じた。


「ここは大丈夫だ。それよりも、他の都市へと続くトンネルを守ってくれないか。あそこが陥落したら、もうお終いなんだ」


「分かった。だけど俺たちの最大の目標は奴等の本体だ。それさえ倒せば後はこの戦いは終わる。犠牲を出しながら戦い続けるよりも早い。それらしい奴はいなかったか? いないなら、連中がここに集まった理由に心当たりは?」


「すまない。俺達はただここを死守するだけだ。詳しい作戦も知らないんだ」


 この人達は、ここが神罰で消滅する事を知らないのか!?


「アンタたちは逃げないのか?」


「ここで俺達が逃げたら、それだけ民間人が逃げられない。ここが俺達の最後の場所さ。だけど、気を使ってくれてありがとう。召喚者にも良い奴はいるんだな。健闘を祈る」


 倒しても倒しても、ここに集まってくる奴らに終わりはない。

 だけど、あらかた倒し終わっても特別なやつはいなかった。というか連中の大きな流れが変わらない。ここに本体がいてピンチになれば、必ず反応が出るはずだ。出ないとなれば……。


 「咲江さきえちゃん、次の場所へ行こう」


「でも――」


「俺だって分かっているよ。だけど神罰の瞬間までここで戦い続けても、それはただの自己満足だ。誰も救えない」


 この博物館はまだ守り切れている。だけど、いずれは何処かの入り口が破壊され、中は蹂躙される。

 それでも、俺達はここを捨てて先へ向かわないといけない。

 もし、今の俺が彼らの為に出来る事があるとしたらそれは――、


「とにかく本体を探そう。セポナの言うように俺達じゃ倒せない相手でも、見つけさえすればその先を考えられるはずだ」


「そうだね。結局は、それが正しいんだよね」


 心の奥底では納得しきれていない事は俺にだって分かる。でも、ここで力尽きるまで戦ったって、何の意味もない。

 いつかアルバトロスさんとした話を思い出す。あの時の話とは、状況も前提も違う事だって分かっている。

 本体を見つけ、対処しない事には何も解決しない。だから仕方がないんだ。

 だけど、より多くを救うために少数を切り捨ててしまった事実に変わりはない。そして、時にはそれが正しい事を理解してしまったんだ。





 〇     ◆     〇





 敬一けいいちたちよりもずっと早くに出発したラーセットの軍勢であったが、到着まではまだ3日ほどの距離にあった。

 本来であれば、このまま素直に目的地へと向かい神罰で一掃する。そうすれば本体が何処にいようが関係ない。完全に終了だ。

 もし地下の迷宮ダンジョンに潜っていたら?

 あるいは賢く、実は外に居て指揮をしていただけだとしたら?

 どちらにしても、敵モンスターの群れさえ消滅させれば情勢も変わる。そこから改めて本体を見つけるのに、さほど苦労は掛からないだろう。

 なんといっても、こちらには多数の召喚者がいるのだから。


 ――その様な予定だったのだが……。

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