第197話 最後の抵抗
本来ならば、首から上は千切れ、どこか彼方へと飛んでいっただろう。
「アブねぇな。もう少し年上は敬うものだぜ」
だが痛みがないのと傷を受けないのは全く別問題でしかない。
「やりま――」
勝ち誇った
そのまま空中を移動しながら、左右の連続蹴りからの踵落としによる叩きつけ。
勢いよく地面に叩きつけられ、土煙を上げながら吹き飛んでいく
最後の踵落としをした時に、ふくらはぎに湾曲した小剣が突き立てられていた。それは骨を貫き、反対側にまで飛び出ている。
――武器も使うか。
あいつが初めての
倒し方にこだわるような男ではない。何事も合理的に効率よくやる男だ。それでも、あくまで素手での戦いにこだわっていた。なんでも、自らの手でやる事に意義があるからだと言っていた。
その意味は結局分からずじまいだったが、こうして武器を使うようになったのだから、もう気にする必要が無くなったという事だろう。
これを成長と言って良いのかは、大いに疑問ではあるが。
立ち上がろうとした
幾ら電光石火と言っても、片足の上に両手が使えないのではどうにもならない。
しかもここは周囲の仲間からは遠く、通信機が使えない。だからこそ、あの召喚者達を襲撃する場所に選んだのだろう。
――ここまでだな。
目の前に、悠然と
一撃目の蹴りを、体を捻ってかわす。だがこの体ではもう無理だ。骨盤と背中を砕かれ、意識が遠くなる。
ああ、これが死か――。
多くの召喚者達の死に様を見てきた。帰還と称して、奈落へと落ちて行った召喚者も見てきた。今更、死を恐れる理由は無い。自分の番が来たというだけだ。
後悔はない。最初はこの世界に召喚された事に憤り、抵抗もした。
だがクロノスと二人だけで話し合った時に、腹は決まったのだ。善も、悪も、全てのみ込むと……。
最後に頭を踏み砕いた
もう逃げる事も戦う事も出来ないのに、
だがもういい。
当然家探しもして、記録装置は中身を確認する事無く全て破壊した。
だがそれで終わったわけでは無い。まだ持ち歩いているやつがいるかもしれないし、流通してしまった物を探すのはほぼ不可能に近い。ましてやセーフゾーンの町の数少ない娯楽として拡散してしまった物を探し尽くすのは不可能だ。
そう考えて、自然と笑みがこぼれる。
それがどうした――と。例え幾千年、幾万年掛かったとしても、必ずこの世から消し去って見せる。自分はこの世界に選ばれたのだ!
だが当の本人が生きている限り、新たな映像が作られないという保証はない。
早く――
そうだ。そうすれば不安も消える。それからゆっくりと、願いを叶えよう。
願いとは? 誰かと幸せになる事だ。本当に心から結ばれる事だ。
誰と? 思い出せない。
だが全てが終わった時に考えればいいだけの話だ。
次の目標に向け、
◆ ※ ◆
教官組。そして他の教官組と共に行動していたクロノスが、
教官組は緊急用の警報機を持っている。通信機と違い言葉は送れないが、信号だけなら何倍も強力だ。
その信号は一瞬であったが、送られてきたバイタル状態は致命傷を示していた。そしてすぐにそれは消失した。これで生きていたら、逆に驚いてしまう。
それは
同時に送られてきたバイタルサインが、装置の破壊者を知らせていた。
「弟子に殺されるとか、
そう言って動き出そうとするフランソワを、クロノスが肩を掴んで止める。
「教官組は
何かを言いたそうなフランソワだが、クロノスには逆らえない。立場的というより、崇拝する身としては。
「ですが、奴が
「……無いな。このような可能性は一切予定になかった」
「どちらにせよ事実は事実。このまま放置すれば作戦に大きな支障が出る事は確実です。ここはひとつ、お任せ願えないでしょうか?」
ここにいる4人の教官組の代表、
「何か策でもあるのか?」
「私の情報が確かなら……」
「分かった、任せる。だがこれ以上、教官組の損失は許されない」
クロノスの言葉に一礼すると、
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