第162話 その頃3人は

 西山龍平にしやまりゅうへいの宿舎から、6人の召喚者が外に出た。


「全員の顔も名前も知らないけど、全部で6人じゃないっけ? あれ全員で出ちゃったんじゃ?」


「そのようですね。敬一けいいち様のターゲットである水城瑞樹みなしろみずき様も確かにおられました」


「ひたちさんは全員把握しているんだっけ? アンタ達の組織も侮れないね」


「まあ組織と言いましても、表面上は敵対ではなく別行動しているだけとなっていますので。仲間の何人かはしょっちゅうロンダピアザで行動しているのです」


「結構いい加減だよね、召喚者の扱いって」


「まあ優遇されているといいましょうか……色々とあって、今の形になったようです。ただ詳しい経緯いきさつは――」


「要は特権だらけなのですよ、召喚者というものは。私の様な一般人からしたら羨ましいですよ」


 美和咲江みわさきえ南条ひたちなんじょうひたち、そしてセポナ・カム・ラソスの3人は、出て行った彼らの様子をアイテムで確認すると、丸くなって話し合っていた。

 場所は公園の一つ。目的の場所からはまだ5キロメートル以上離れている。

 さすがに視認できる距離で話し合ってなどいたら、一発で龍平りゅうへいに聞かれてアウトだ。

 そこで、こうして遠くから作戦会議をしていた。


 今までの情報から考えて、地上での活動では西山龍平にしやまりゅうへい他数名の少数で動き、残りは待機していると聞いていた。

 ただ一例、成瀬敬一なるせけいいちが現れた時だけは全員で行動したという。

 内容が内容だっただけに当然ではあったし、今回もその可能性は高いとは考えられていたが――、


「どうする? さすがに5人……いや、本人が抵抗したら6人か。それだけを相手にしながらターゲットを攫うのは無理だよ」


「そもそも西山龍平にしやまりゅうへいの戦闘力が桁違いですからね。彼一人を相手にするだけでも大変です」


「他はええと、広域探査エリアサーチ明暗反転ネガポジに……って考えても意味は無いね。下手に頭に入れておくと、逆に失敗するか」


「確かに咲江さきえ様のスキルもそうでございましたね」


「でもどうするんです? このままだと手は出せませんし、今の敬一けいいちさんが前と同じような行為に及ぶとも思えないのですが」


 確かに、以前の件に関しては相当に反省していた。

 またも高層ビルを破壊して大量殺戮を行う事は考え難い。

 となれば、絶対に阿鼻叫喚の大騒ぎとならないし、当然それだけ隙も生まれないわけで。


「とにかく分散するのを待ちましょう。希望的な観測ですが、全員で敬一けいいち様と戦う事は考えられないと思います。特に瑞樹みずき様は双方にとって大切なお方。一度敗れている西山にしやま様が、敬一けいいち様との戦いに連れ出すとは思えません」


「アイツにとって大切な人間で、西山にしやまは負けているんだろ? それだけに人質にするって可能性は?」


「無いでしょう。むしろそうしてくれた方が、敬一けいいち様にとっては簡単だと思います」


「何とも難しいね。だけどいつまでもここにいても仕方がない。いつでも動けるように、あたしらも追うとしよう」





 □     ◆     □





 龍平りゅうへいとしては、瑞樹みずきは絶対に置いて行きたかった。

 前回は押し切られた形になってしまったし、それ以前に敬一けいいち相手に負ける事は無いと思っていた。だが、今はそうはいかない。

 もう帰ることは出来ない。倒せば死ぬ。そのこと自体に微塵みじん躊躇ちゅうちょもない。

 ただそれだけに、いざという時に瑞樹みずきが邪魔をする可能性が高い。


 もし俺と奴、どちらを選ぶかの選択を迫ったら……答えはもう、決まりきっている。

 いざトドメとなった時に奴をかばったら?

 もしくは俺が倒されそうになった時に、彼女が静観していたら……どちらも、精神的に耐えられそうにない。


 瑞樹みずきが夢見るのは、奴と奈々なな、それに自分の3人で作る優しくて暖かな世界。そこに俺の居場所はない。元々無かったのだ。

 では諦めるのか? そんなみじめな選択をする人生など歩んでは来なかった。

 奴が邪魔なのなら、奴を殺せばいい。ここはそれが許される世界なのだから。


 だが『もし連れて行かないなら、一人でも行く』と言われてしまったらこうせざるを得ない。

 一応、同じ杉駒東すぎこまひがし須田亜美すだあみ岸根百合きしねゆりにお守を頼んである。いざとなったら2人に無理やりにでも連れ帰ってもらおう。

 それ以前に、周辺に幾人もの召喚者の気配を感じる。今は多くの者が迷宮ダンジョンに潜っているが、まだ数人が――いや、違う。これは教官組だ!

 彼等もいよいよ本気になったという事か。

 自分で始末をつけた方が安心だ。この目で最期を見られるのだから。だが結果が同じなら、それでもいい。

 確実なのは、これで敬一けいいちの命運も尽きたという事だ。

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