【 水城瑞樹奪取作戦 】

第156話 最低な人間である事は間違いなさそうだ

 ロンダピアザは高く大きな壁に囲まれた都市だ。いうなれば城塞都市だが、そのスケールが違いすぎる。

 何せ高さは5千メートル級。何処もこんな感じだそうなので、地震でも起きたら世界が終わりそうだ。

 だけど幸いな事に、この世界で地震というものは迷宮ダンジョンでしか観測されていないという。


 そして都市周辺には幾つもの小さな町や村が点在している。

 以前にも聞いたけど、外で作業をする人たちの拠点だな。

 地上に出た迷宮ダンジョンの出入り口やモンスターの警戒、林業や野生動物の狩猟など、外でやる事は様々だ。

 特に野生動物の肉は超高級品らしい。まあ、モンスターが徘徊する中で鹿やウサギを捕る大変さを考えれば納得だ。


 まあそうなると、当然首都と外との間には出入り口が存在する。当たり前だな。

 ただ全方位に等しくあるわけじゃない。あったら城塞型の意味がない。

 そんな訳で俺達は、周囲に出入り口の無い壁の前まで来ていた。

 翡翠色をした綺麗で艶やかな壁。中にある巨大ビルと同じ素材だ。

 地震はなくとも風はある。上空ともなればさぞかし強風だろう。それでもビクともしないのだから、相当硬いのだろうな。もしくはすごい弾力があるか。まあ俺のスキルには関係ないが……。


 壁の構造を外しながら、ゆっくりと中へと進む。

 あの時の様にドカンと破壊して大惨事を起こしたくはないし、そんな事をしたら一発でばれる。当然、即Uターンだ。来た意味がない。

 てなわけで、人が通れるくらいのトンネルを慎重に掘り進んだのだが、こいつが想定以上の難関だった。


 外して崩せば道が開くと思うじゃん?

 ところが崩しても砂粒状になって僅かに広がるだけ。ほぼ変わらぬ質量がその場に残るのだ。

 いつかのように下も崩せばと思ったが、こいつは地面の上にどんと立っているわけではない。底も同じ材質だ。意味がない。限界まで掘り切ってしまったらどうなるのか……うん、考えたくは無いな。


 そこで崩した端からバケツリレーで壁の素材を外へと捨てる。だがこいつはヘタな金属よりも重い。ふうふう言いながら夜中まで掘り進んだが、まるで先が見えない。

 そう言えば地下部分は大変動が起こった時にどうなるんだろう? なんて考えてもみるが、現実逃避に意味はない。


「この壁って、厚さはどのくらいあるんだ?」


 今更ながらに、肝心な事を聞いていなかった事を思い出して呆れてしまう。

 こういうのを行き当たりばったりというんだな。


「場所を全て覚えているわけではありませんが、おそらく300メートルくらいかと」


「それは出入り口の薄くなっている部分ね。この辺りは400~500メートルはありますよ」


 聞かなきゃよかった意外な事実。まあブロック塀じゃないんだから数十センチとは思わなかったが、精々10メートルくらいと思っていた自分を呪っておこう。


「上に行けば上に行くほど薄くなっているけどね。どうする?」


 どうするも何も――いや、登ろうと思えば俺ならいけるか。

 というかそこまで行くならもう穴をあける意味ないじゃん。

 穴開けたら逆に目立っちゃうじゃん。

 大体どうやって瑞樹みずき先輩をそこまで登らせるんだよ。

 ――却下。


 そんな訳で1日無駄にしてしまったが、翌日は早かった。俺のスキルで重さを外す。

 なぜこんな簡単な事を初日に気が付かなかったのだろう?

 言うまでもない、体の負担が大きいからだ。意識的に外していたのだろう。スキルではなく、本能的に。

 というか、俺が重さを外したとしても他の人にまで有効だっただろうか?

 考えてみれば試してはいない。初めての試みだ。だが直感的にダメだったような気がしていた。

 で今は出来ている。いつから可能になったのだろう?

 実は最初からできたとか? まあ考えても仕方が無い。


 そんなわけで夕方にはあとちょっとの距離まで掘り進んだ。

 目立たないようにしただけに穴は狭い。必然的に肌と肌が触れ合う訳で、その度にスキルを使った負担が軽減された感覚がある。

 本当に助かる。最初に出会ったセポナもそうだが、ひたちさんにも……いや、この事を知っていたダークネスさんにも感謝。もちろん咲江さきえちゃんにもな。

 それにしても、ダークネスさんはなぜそんな事まで知っていたのだろう。本当に謎の多い人だ。


「まあ、今は良いか」


「ん? どうしたの?」


 セポナから、少し早い夕飯を受け取る。といっても、携帯用のパンに外で捕まえた鳥を焼いて挟んだだけだがな。

 それでもセポナからしたら御馳走らしい。


「ああ、ダークネスさんの事をふと考えていたんだ。村は大丈夫かな」


「大丈夫ですよ。平八へいはち様の強さはあの村では別格です。クロノス様と渡り合ったとも聞いています」


「クロノス?」


「地上の十人で、その中でも最高位の存在です」


 御大層な名前だが、当然本名じゃないだろうな。

 地上の十人の最高位……要はまとめ役か。なら、相当に強いのだろう。単純な力ではなく心がだ。

 この世界に召喚されて数十年。いや、もしかしたら百年を超えているという人物かもしれない。

 その間に何度も反乱は起きたという。だが全て鎮圧した。いったい、どれほどの同胞の血にまみれた人生を送ったのか。

 それだけじゃない。他にも多くの召喚者が騙されて命を落としていった。それを見て、それでも実行してきたんだ。

 相当に精神が強く無ければやってはいけないだろうな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る