第93話 ひたちさんの仲間たちと合流しないと

 時間の感覚が狂いまくっているが、ひたちさんが――というよりそのお仲間が正確に日時を把握してくれているというので安心だ。

 あれから2か月と少し。俺は迷宮ダンジョン内に作られたソルデという町にいた。


「寂れた感じはするけど、規模的にはどうなんだ?」


「ここはかなりの深度ですので、栄えているとは言い難い場所です」


「まあその方が良いか」


 大きな岩が積み重なったような地形。今までのつるつると滑る地面と違って、歩くたびにじゃりじゃりと音がする。

 単なる砂……と言うより、砂鉄の一種か? ちょっと独特な感触だ。

 外の地形とはまるで違うが、逆にここが地形の変わらないセーフゾーンであることを如実に表していた。



 見たところ、住人全員カーキ色のローブにフルフェイスのマスク。丸いレンズにガスマスクが付いており、無茶苦茶不気味だ。

 だがあれは彼らにとって必須らしい。

 俺達召喚者は迷宮攻略のために呼び出されるだけあって、そもそもの身体能力が高い。

 しかもスキルまである。そして長く使っているとスキルが体に馴染むというか、色々と出来ない事も出来るようになってくる。

 身体強化などは顕著けんちょだそうだけど、それ以外のスキルも使っていないときでも何らかの効果が残るという。


 そんなわけで新人ならともかく、ひたちさんの様なベテランや俺にはあの手の装備は不要だ。

 使ってみたい気もするがな……。


 所々にある固形燃料の炎に照らされた様子からすると、建物はどれも岩を刳り貫いて作ってあるようだ。

 当面の追っ手を撒くことには成功したので、今はひたちさんの仲間たちとの合流が最優先となる。

 そのためにこうしてセーフゾーンからセーフゾーンへと移動しているわけだ。

 もちろん、ショートカットしながらな。


「とりあえず宿を取りましょう」


「宿なんてあるのか?」


「代表に食料や道具などを渡せば、空いている建物などを貸して頂けます。召喚者はそうやって探索を続けるのですよ」


 へえ……と思うが、ここは結構深い位置らしい。ここまで来る召喚者は少ないし、地上まで戻るには何か月――いや、これはなにかと構造が変わる迷宮ダンジョンでは計算しようが無いな。


「以前の状況では、ここまでは最短で8か月かかりました」


「ここはもう半年ルールの外か。それに今の迷宮ダンジョンだと、もっとかかりそうだな」


 ここまで来られるのは、相当なベテランなのだろうな。

 ん? そうなるとここの住人達はどの位住んでいるんだろう?


「この辺りの人間っていうのは、ずっとここで暮らすのか?」


「召喚者の方が持ち切れないアイテムを入手した際に、荷物持ちポーターとして地上に出る事はあります。ですが個人で出る事はありません。多くが怪物モンスターの餌食になるだけですので」


 となると、ここで生まれた子供なんかは一生ここで過ごすこともあり得るのか。

 中々に厳しい世界だ。


 部屋……というより借りた建物は3階建ての中々に良い建物だった。

 ボロボロではあるが布団もある。


「ここが残っていて良かったですね」


「確かに人の手が入っている情景は心が休まるな。久々にゆっくり休めそうだ」


 セーフゾーンの町は不安定だ。

 基本的にどこも怪物モンスター対策はしてある。死にたくなんて無いからな。

 だがそれでも絶対はない。全滅はもちろん、維持できない人数まで減ってしまい放棄された町もある。

 それでもこんな所で暮らすのは、脛に傷をもつ者であったり、召喚者のおこぼれに期待して一攫千金を望む者たちだ。


 基本的に召喚者は、アイテムやそれに関する材料などを集める。単なる貴金属や宝石などは有れば良い程度で、彼らほど重視していないのだ。

 だからそういったものは気前よくくれるし、召喚者に付いて地上に出れば大儲けという訳だ。生きて出られたらの話だけどな。


「それでは、先に済ませますか? それとも水を汲んできましょうか?」


「いや、先にやろう」


 まるでそれが当たり前のように、俺はひたちさんとセポナを抱いた。

 何か月にも渡る暗闇の進行。いつ現れるとも分からない怪物モンスターや、地形が作った自然の罠。そして食料や水が尽きる恐怖。

 奈々ななの言う事は間違っていなかったし、責める事も出来ない。

 そもそも俺自身、スキルを使いっぱなしである事は変わらないのだ。いつ気が狂ってもおかしくはない。どうしても、定期的に心の平穏を必要としてしまっているのだった。

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