第75話 再会を喜ぶ気持ちなど欠片もない

 まあこれだろうなと光るパネルに触れる。

 入ったのは小さな小部屋。大きさはトイレの個室ほどだ。だけどもっと分かり易く言えば、エレベーターと言えば良いだろう。


 知らない文字に分からない記号。出鱈目デタラメに触れただけでは何の反応もない。

 だけどセポナの姿を思い浮かべると、押す順番が分かる。失敗する可能性を外した結果だ。


 ポチポチとパネルを操作すると、周囲の空気が変わる。

 仕組みは全く分からないが、場所が変わった様だ。テレポーターみたいなものなのだろうか。さすがはファンタジー的な世界だな。というかこれはSFか?


 外に出ると普通の廊下。灯りなど何もない。だけど明るいし熱も感じる。これは太陽の光だ。

 入った時から分かっていたが、この壁は外の光を通す。

 だけど召喚された時は夜だったのだろう。人工的な光を感じた。それでも今と変わりがない程に明るかったな。大したものだ。


 直通のルートは無く、こんな移動を何度も繰り返す羽目になった。

 いや、もしかしたらあったのかもとは思うが、言うまでもなく警戒済みだろう。案外バリケードとかが組まれているかもしれない。

 そう考えると、多少は遠回りになったとしてもトラブルを避けられるのはありがたい。


 それにしても、勘違いでなければどんどん高度が上がっているぞ。

 外から見た時は相当な高さに見えたが、実際に何階層あるのだろうね。

 つか急激に上り過ぎたせいか耳鳴りと頭痛がする。もしかしたら、これ高山病の症状じゃないか? 本当に何メートルあるんだよ。バベルの塔でも乱立しているのかこの街は。


 そんな不平不満を感じながらも、美しいレリーフが掘られた立派な扉の前に辿り着いた。

 扉には宝石も埋め込まれ、何かの紋章をかたどっている。どことなく魔法陣に見えなくも無いが、この教団の聖印か何かだろうか。一応大聖堂らしいからな。


 扉を開けると、勢いよく二人の男が斬りかかって来た。

 儀式用にも見える湾曲した宝剣に、見覚えのあるローブ姿。あの時外周を囲んでいた連中だ。

 あの時も何となく感じていたが、もしあそこで暴動とか起こしていたら皆殺しにされたのだろう。


 ……アホらしい。


 だがそんな状況でも、俺が感じたのはそんな事だった。今更、普通の人間の攻撃が何になる。

 当たる可能性を外し、横薙ぎに剣を振る。

 彼等には状況が理解できなかっただろう。宝剣は意思あるように俺の体を避け、俺の剣は何の抵抗も無く二人を一太刀で両断した。


 倒れる二人には目もくれず、俺は真っすぐに進む。

 ここは間違いなくあの時の場所。この部屋に入ると、まるでついさっきの事のように思い出す。

 ここでは体の時が経過しない。多分心の時もまた、あの時のままなのだろう。

 そう考えると百年もこの世界にいる奴の事も気になるが、今はどうでも良いか。


 目の前にはまだ十数人のフード連中……おそらく教団の武装兵士だろう。

 そしてその先には、全裸に剥かれたセポナとあの時の女神官が立っていた。


「久しぶりだな。まさか再会するとは思っていなかっただろう?」


「そうですね。ハズレの貴方が戻って来るなど、神すらも予見しなかったでしょう」


 ……いきなり神を否定するとは意外だった。案外信仰心は低いのか? まあ、宗教観も色々だろうけど。

 それより問題はセポナだ。全裸の上に、お腹には奴隷印。同意の元だったのか無理やりなのか――まあどっちでも良いが、まるで大切なものを汚されたような衝動が心の底から沸き起こる。


 付けた理由は単純だ。話の信憑性を確認する為だろう。

 それだけに、俺の事はもう全部知られていると考えてよさそうだ。

 だがそんな事は些事にすぎない。


「聞きたい事は色々とあるが……そうだな。先ずはセポナを返してもらおう」


 まるで彼等には、俺が瞬間移動したかのように見えただろう。

 沢山いるフードの男の一人の前に俺は移動していた。契約者を探すのと、その確認と、移動の手間の全てを外したのだ。

 こんな使い方をしたら、ひたちさんに怒られるだろうな。だけど他に、この憤りを表現する方法がない。

 そう考えながら、目の前の男の首を跳ね飛ばした。


「奴隷印は消させてもらう。それなりの覚悟はしていたのだろう?」


 我ながら悪役っぽいなとは思うが、この位はしてやらないとな。

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