第56話 特別な10人が味方の可能性はないだろうな

 召喚された日が同じ。最初のメンバーは当然だ。逆にずれていたらびっくりな話だよ。おそらく誰も気にしないだろう。

 どんな場所に案内されるかは分からないが、先ずは宴会でもやって歓待かんたいするな。

 そしてその後は講習が行われる。確か10人だったか、ベテランの強者が待機しているって言っていたな。

 早ければその辺りで気が付く。ベテランたちとの教習中に、そんな話が出ないとは考えにくい。


 いや、そもそも上に残っている連中は何者だ?

 普通に考えれば、負傷したり老いたり家族を持ったりして一線から退いた人間だ。

 だけど俺達スキル持ちがそうなる可能性はあるのか?

 無いと断定することは出来ないが、どうも違う気がする。


「上には10人残っていると聞いた。そいつらはどんな連中なんだ?」


「もうお気づきかと存じますが、初期の頃に召喚された古強者。中には百年を超す人間もいるとされています」


「ひゃ、百……!?」


「ええ。わたくしたち召喚者は、ここでは年を取らないのです。この世界にはこの世界のルールがあり、この世界の人間はそれに縛られていますが、我々は縛られてはいない」


「ああ、なんか最初に聞いたな、それ」


「それはある意味事実です。わたくしたち召喚者は、いくつかの点でこの世界の法則に則っていません。その一つが老いという訳です。時間の感覚がおかしかった事はございませんか?」


「ああ、あるな」


 すると、上に残っている連中はカラクリを知っている可能性がある。

 いや、そんな甘い次元じゃないな。どのくらいの頻度で召喚が行われるのか分からないが、百年ともなれば相当な数だ。その中から未だにこの世界に留まる数少ない精鋭たち……知らないわけがない。


 なら自分たちが召喚された日を聞かれても誤魔化すだろう。

 だが新人たちも、いずれは他の召喚者と出会う。そしてある日、ふとした会話から知る。召喚されたのが同じ日だという事を。


「過去、その点に関して言及した者はいるのか?」


「いたと思われます。曖昧あいまいなのは、皆元の世界に帰還した扱いになっているからです」


「よほど慎重な人間でない限り、そうなるな」


 説得された奴もいたかもしれない――いや、訂正だ。いてもいない。もしこれが真実だとしたら、彼らがそんな地雷を残すとは思わない。

 疑った時点であの帰還ゲート行きか、それとも……。


「ですがある日、大きな事件が起きたそうです」


「事件?」


「人の噂に戸は立てられません。本当に帰還できるかの問いは、召喚者の間で無視できない問題になってきたそうです。それに尋ねに行った人は全員帰還してしまったとなっていますが、その前にその疑問を残していた人も少なからずいたのです」


 有り得ない話ではない。

 皆を不安にさせないために、自分だけで聞きに行った者もいただろう。

 グループで聞きに行ったとか、グループ内で話し合って代表が行った……うん、この辺りは全部同じ結果になる。全員この世界から消滅だ。

 だけど、さほど親しくない人にこっそり話していた可能性はある。

 噂は人から人へ……長い時間を掛けて蓄積されていく。


「本当に帰還できるのか? その不安は、遂に爆発いたしました」


「何かきっかけがあったのか?」


「詳しい事は分かりません。およそ4年ほど前ですから、わたくしはまだこちらの世界におりませんでした。ただ、召喚者たちが一斉にこの国の元首に詰め寄ったそうです」


 元首……王政じゃないのか? 知らない事が次から次へと出てきて頭がパンクしそうだ。


 バシャッと音を立て、ひたちさんが水から上がる。


成瀬なるせさまは本当によろしいのですか?」


「あ、ああ。問題ない」


 全力で目をそらしつつ、そう答えるしかない。いや他に何が出来る。


「では失礼して」


 そう言って、全裸のまま火に当たる。俺の真横に座って。


 ――ぎゃあああああ!


「さすがに長話で冷えてしまいました。少し温まりませんと……ね」


 意味深な微笑みを向けてくるが、俺はもうショックで意識が飛びそうであった。

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