第35話 ロ・・・(ボ)
「それでさ、こんな風にロボが高度化して
「ワン」
「それってSFじゃないわよね。フーン。でもさ、私がETR(地球外居留地)に行ってる間に随分変わったものね。素人が考えてもさ、ロボが人間の代わりを果たすと言うのは、人間にできないミッションの
「うん、それでね。ある時ロボ業者が思い付いたんでしょうけれど、恋愛の演習やら結婚の試行の際の仮想相手として、練習用ロボを提供するというサービスが始まったらしいの」
「へえ。練習用と銘打ってあるのなら、失敗したくないデリケートな方々にとっては便利でとても人気があったでしょうね。人間もバカねって言うか、哀しいわねと言うか。でもやはりそれにはそれなりの事情や需要があったのね」
「そう。練習用だから失敗しても何ら問題ないし、ロボ側も気にしない訳。何と言ってもあと腐れがないわ。でも、中にはその相手のロボ個体の中に人格の様なものを垣間見て、それに対して何らかの情緒、つまり恋愛感情を抱きかねないと言う事もあり得るわよね」
「へえ。でも、それって素敵ね。予定調和的でないって言うのか、想定外の面白さって言うのか。練習用だと思ったものが実はそれが最高にマッチングした、探していたものだったと言うのよね」
「そりゃあ、もちろんそのロボには機能として高性能で理想的なものが与えられている訳だし、免疫のない人が
「でも、さっきも言ったけれど、その練習用ロボを気に入ってくれる人がいるというのは何となく嬉しいような感じね」
「そうそう。ロボ業者も結構賢いからね。あらゆる
「フーン」
「
ロボが婚姻相手なら、
ここでまたもやお華さんは大きく一つ息をついた。
「ふう」
「ワフ」
「でも、お華。何と言っても高級家電よ。それだと堂々巡りみたいになって、そのうちに結婚における
「そう、そう、そうなの。でも、それは実際の人間が相手の場合でも同じでしょう。中々妥協できない人は結局結婚できないし、できたとしても離婚する可能性がある訳でしょう。それで、安きに流れるのはどの時代でも同じと言うことで、後は野となれ山となれね。需要が大きかったのが若い
「なるほど。それで、結局どうなったの」
「うん、ええと、面白いものではVR、つまり仮想ロボと言うやつだったかな。オンディマンドタイプ(OD)もオプション可能ってやつだったかな。ボタンを押せばVRODになって視界から姿を消してくれる、邪魔にもならず気にもならないと言うものだったかしら」
「へえ、それはとっても便利ね。私も欲しいわ。今度会わせてね、お華」
「ずいぶん昔からあったらしいのだけれど、どの時代でも旦那様は
「ふうん、ペットね。旦那さんってそれでいいんだね」
「うん。まあ、大昔と違ってそんなものよ。何と言っても管理費用込みだし、長期保証があるから故障時も安心で、酒もたばこも
「ふうん」
「
「ワン」
「ふーん、なんだか
「まあね。子供が要らない男性の場合、ロボ奥さんならヒトによってはまさしく家事専門の派遣タイプでもいいし。家電同様時期が来たり
んたくし》もあったのかも。まあ、ペットのロボワンコもその一つかしら」
「ワフ」
「なるほど。婚姻と言う概念に捕らわれることなく、それが膨らます観念についてもより自由にと言う事なのね。要するに必要なのは世間的な慣れなのかしらね」
「何と言ってもロボというのは許容度の高い対応をしてくれるし、どんな事も巧みに割り切ってくれて、おまけに細かい事には拘らないのよ。ロボ婿さんの場合は特にVRタイプが好まれるらしく、お金さえ稼いでくれれば、まさしく派遣で十分よね。警備機能も最強レベルに設定すればこんなに心強いものはないわ。その内にロボのロボによるロボ派遣会社や警備会社が隆盛したって言う事だったのかな」
「ワワン」
「ふーん、変なの。一家に一台、高性能父親型ロボ、派遣型もありと言うことね。色々と考えると、初期投資をしっかりとした上で時間をかけさえすれば、好条件の物件のロボが見つかるものなのね。なるほど、私も新しい旦那さん欲しいな」
「そうなって来るともう、奥さんやご主人だけでなく、決して飛躍でも何でもなく子供もロボで十分でしょうって言う感じじゃないのかしら。そう言うストーリーを演じる、言わばロボたちの物語なのね。これはもう、好いとか悪いとかって言う問題ではなく、この身、この社会、この世の問題ね。まさしくイエの
「ワフ」
「そうすると言うと、それってロボ家族じゃない。そもそも家族の構成員全員がさっきのVRODのロボからなる家族だったら、家族のみんながいるのかいないのかが分からなくなるわ。まるでドラマの設定のようで頭がおかしくなっちゃいそうだけれど、ほぼ
「そうね。人口減少の
「ワウワウ」
「ふーん、そうか。でもそういう演劇、どこかで見たことがあったような気もするなあ」
「人間だろうが、ロボだろうが国力の
「ウワン」
「ああ、あのネコね。いるのかどうか分からないけれど、いると仮定して、それでもどこにいるのか分からない上に、気にしなければいないし、思い及んだ途端に染んだり生きたり、死んだり、
「ワウワウ、ワンワン。バウワウ、ワン」
「そうそう。そうなったら、もういっその事この世そのものが仮想現実だって構わないんじゃないのって感じね」
「クウン」
「そうね。ねえ、実際そうなのよね。ごめんね、お華。もう、時間がないから言うわね」
「急にどうしたの、茜、意を決したかのように」
「落ち着いて聞いてね、お華。実は私、茜のVRなの。あなたが私の事を想ってくれたから、今私はここにいるの。
「いやだ、茜。ねえ、冗談はよしてよ」
「私はアカネ。さようならお華。またね」
「あっ、あかね」
「ウーワン、ウーワン。ワン、ウーワン」
「こら、ケンタウルシロ。あんたまで消えようとするな」
「クウン」
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