第34話 ロボボ
多くの機能に於いてロボは微生物を
一方では生命体でないと言うまさにこの一点に於いて、ロボは何らかの高みの見物を決め込むことも可能である。存在のための環境が整えられている前提に
「まあね」
「ワッフ」
「あら、余裕ね。自分たちが絶滅する筈はないと、そう思っているんでしょう」
「ンワ」
「でもさ、個々についてはあっという間に死んじゃうんだよね」
「ワンンヌ」
「何それ。つまりは形を変えながらも、粘り強く生き抜くって言うのね。余韻を残すって言うの」
人間や動物の心の問題、こころそのもの、心たちについて記述したり多少の議論をしたりはするものの、結局人間は殆ど何も解決しなかった。それが結果的には人間を守り、救ってくれたのだろう。もし心が完全に解明されて、仮にロボに心が移植されるような事があれば大変な事態に立ち至ると言う意見もあった。
そのような存在はもしかすると人間を遥かに超越すると言うのではなく、人間にとって不都合な程度の、単に
「いやよ、そんなの。そんなの嫌よ。ねえ、シロ。ちょっと真似てみました」
「ンワン、ンワン。ンワフ、ンワフ」
いわゆる鬼と言うものには心があるらしく、人間とは異なる種類の心を持ったその鬼を滅ぼすのには困難を極めたのかも知れず、彼らの心に働きかけて巧みにそれを
或いはロボはこの鬼に
定義にも
「つまり、ロボが人間にとっての鬼のようになって、恰もその様に振る舞うと言う事だったのかしら。泣く子も黙るロボと言う鬼に」
「オン、オン、オオン。オロロンロン」
ロボを鬼に
やがてロボの立場が人間のそれと同等以上ともなり、ロボと人間が議論して社会を運営し、またロボと人間とが結婚するなどして人間の領分が少しずつ
その涼やかな日の午後、お華さんはいつもの川沿いのキャフェテリアの屋外席にシロを連れてお茶を
「あらあ、
「お華も元気そう」
「あなたも元気そうで何より。何と言ってもこの十数年、互いに沙汰がなかったからね。あなたの事、とっても心配していたのよ」
突如現れた親友にお華さんは少々戸惑いながらも、当たり
「長らく連絡しないでごめんなさい。それがね、実は少々事情があって、この十数年ほどは出張もあって
「そうだったのね。私、茜が結婚したってまったく知らなかったわ。連絡もくれなかったし。でも、ご主人まで亡くして苦労したのね。本当に大変だったわね」
「うん、そうね。でもね、やっぱり地球ってホント、心が休まるわ」
「そうか。
「まあ、いいとこではあるのだけど、まだまだ
「ふーん、それじゃあETRって、やっぱり旅行ぐらいにしておくのがいいのかしら。ところで茜、ご両親はお元気なの、お父様ご病気がちだって言ってたじゃないの」
「うん。父は重い病気だったから、私がETRに行く前に亡くなっちゃったわ。母は元気で妹たちと一緒にいるの。それで、お華はどうなの」
「私はほら、見ての通りシロといつも一緒よ。まあね、私も例にもれず再婚したんだけれど、彼は実はロボ界ではちょっとしたエリートだったらしいの。縁があったのか、ぶらりと入ったロボ販売店で最も高価なものを
するとそれが掘り出し物だったって訳。もしかすると曲がったことの嫌いな、
「そう。でもそんな超エリートのスーパーロボが電源落とされちゃうって、
「まあね。もしかすると、何らかの形で有罪判決を受けたロボの場合、自殺もできないから、
「でもさ、ロボなら必ずしもお婿さんでなくてもよかったんじゃないの」
「うん、まあ、そうなのよね」
「ロボなら、結婚と言うよりもむしろ
「そうね、このシロだってそんなものよ。同居人って言うことでしょうけれど、本来家族ってそう言うものだからね。厳密には心理的な問題も含めて定義上の問題なのだけれど、砕けたところではそれでもいいし、言わば機能を限定する必要はないと言うことよね。まあでも、多機能と言う意味ではある面で人間の夫以上なのかもしれないのよね。
ちょっと議員にでも立候補させてみようかしら。そのうちに再婚パーティやろうと思ってるの。今度改めて紹介するわ」
お華さんは年を経て
「お華、ニャンコだなんて噓でしょ。そんな筈はないわ。と言うか、そんなの心理的に無理よ。あっちだって、きっとそんな制度みたいなものに
いやしかし、時代の流れはどこのどの時代においてもそうであったように、人々やロボを次第に優しい
「へえ、じゃあ、あんたがロボと結婚したように、ここでは婚姻そのものが時代とともにその
「ワンワン、ニャワン。ニャワン、ニャワン、ニャンニャン。ニャン?」
茜さんは
「ええ、そう。人間が行うところの種の保存のための婚姻と言う制度自体が骨抜きにされては形骸化して次第に
「うそよ。それって結婚が消滅って事なの。それとも制度の方なの。詳しく説明してよ、お華」
「人間側としては婚姻と言う制度を維持したい、存続させたいという保守的な欲求があったと言うのは当然理解可能でしょう。でもね、社会の様々な
「ふうん、何だかよく分からないな。でもさ、ニャンコの
「それやこれやで時代の経過とともに人間の婚姻制度の維持が困難になってくると、ロボ側としてはそれに乗じて法を法を改正させた上で、人間との婚姻に応じてもいいと言う、ちょっと
「ええ、まあね。でも、一体どうして婚姻制度が崩壊したのかしら。ちょっと理解に苦しむわ」
「それは先進国に限らず、自己充足型の人間が増えたと言うことかしら。生活力やそれを支える経済力が低下すれば婚姻を行うのが実際に困難になっていったらしいと言うのも聞いたことがあるけれど、必要性の観点と言うのもありそうね。もちろん、自由が欲しくて経済力もあっても婚姻不要と言う人もいたでしょうね」
「でも、そうなると、余計にあなたのロボ婚姻は意義が不明になってくるのじゃないかしら。まるでお遊びであるかのようにも思えてくるわ」
「そんなことはないわよ。さっきは少し冗談めかして言ったけれど、これでも私は真剣だったんだから」
「それにさ、もう
「うん。それで、その昔ロボがインフラとして考えられるようになって、都市そのものがあらゆる細部に至るまでロボで構成されるようになったでしょう。生産そのほか様々な労働自体がシステムとして人間抜きで行われるようになってみると、ご存じのように発生する収益が人間に分配される仕組みも整えられていったでしょう。そんな中、人間としてはロボ勢力の拡大を何としても押し留めておきたかった訳ね。その頃にはロボは人間たちを支えるという意義を
「ロボにおける自意識ね」
「そう。人間が大人になる段階でも見られるようなもので、人間にとっては
「ふうん、よく分からないけれど、それはそれとして、どう考えてもロボ側には人間との婚姻や、ロボ同士の婚姻は要らないのじゃないかしら。そんなの、ロボにとっては単なる書類上の
「そう。何と言ってもロボは
「自分たちが
「もともと彼らは道具として始まり、高度な機能をもつ
お華さんはそこまで言うと、ほーっと一息ついた。
「ワフ」
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