第23話 神、ロボ、人間、愛
人間が広く言う愛というものには
「そうなのよ。人間の場合は見返りを求める愛が殆どだから、ややこしいのよね。難しいのよ、ウィンウィンがね。神様の愛や母親の愛のように純粋で与えるだけのものは単純なのだけれど、
「ワンワン、ワン」
確かにロボにとっては言語的にも
さらには、あらゆる事は愛であると言っても過言ではないなどと、本来は確たる定義やそこからの論理の積み上げこそが重要であるロボには、愛と言うものほど迷惑な
「そう、そう。
「ワンワンワワン、ワンワワワン」
人間はあらゆるものに神が宿ると言うが、それはロボにとって理解し難い理屈であるが、愛をはじめとして、そうした
「まあ、そうね。他にも
「ウワン、ウワン、ウワワンワン。ウワ」
人間が如何に
自己の不足を補うものとしての他者、友人であれ家族であれ、食べ物であれ、宗教であれそれらとの表面上のつながりが不要なのである。その社会に必要不可欠な有機的なつながりとその保守管理には不向きであるとは言うが、そもそもロボは本来本質的にオンラインであるため、繋がりなどと言うものに関するそんな心配は無要である。
ロボと人間が歩み寄るにはその間に在る大障壁を
「自動修復の自己充足型だから、そして人間の事、生物の事が分からない事だらけだったから、無理もなかったのよ。つまりはロボは愛であるとも言えたのかしら。それも最高の、一見冷徹な観のある至高の愛ね。神様のくれる愛のような、ね、ケンタウルシロ」
「ワンワン、ワウン、ワウワウワン」
生物の脳ならびに神経系の構築に模倣すると、回路を如何に
ロボにおける回路集積の場合、動物における神経細胞に対するグリアなどの支持細胞によるイオンや栄養因子そのほかの各種分子の放出、受け渡しや吸収などの補完的な機能連関などの複雑性の持ち合わせは無かった。それは神経細胞内の細胞骨格構成分子や細胞の中での最小単位を為す分子や機能性の構築を為す細胞膜やオルガネラに存在する分子たちが織りなす単一分子機構なども含め、様々なものが可変的かつ非常に精確な量子的振る舞いをなすように、無限に
「ちょっとムズイわよね。たしかに脳はナントカ液と言うミドリ色の保存液に浸かってるらしいのよね。もしかするとその中に無数の虫たちがいて、そいつらが寄って
「ワン」
それを如何に精巧で複雑であるとは言え、電線の集積回路のみによってそれだけの容量構成を単純化の上で模倣しようとすれば、それは非常に大きな容積を要してさえも困難なことであった。その多くの機能単位の独自性や各部位の間での反射的連関性が分子の量子的振る舞いの内に確立されたうえで、それらを巧妙にまとめて全体を統括するような、どこか傍観主義的でもある準客観主義的意思を備えたものがそのどこかに埋め込まれる必要があった。
「自然の一部でありながら、自然を統括した気分になってる人間みたいな存在かしら。よく分からないけれど、大変な事だけは分かるわ。そりゃ何億年もの、人間にすれば無限に近い時間を掛けて作り上げられ、練り上げられてシェイプアップされたシステムだもの。気が遠くなるわ。そんなものを作り上げるのは到底無理よ」
「ワンワンワワン、ウワワワーン」
「ここはやはり、
「ワウワン」
さて、ではこれを一体どのようにしたものであったろうか。脳や神経の回路のうち普遍性の高い大半の部分をクラウドに置く発想というのは、決して間違った選択ではなかったとも言える。その上でセンサやイフェクタなど、出先部分の特化させるべき能力のみを本体に仕組むのはこれもまた決して間違いではないだろう。そうすれば確かに人間に近づけられたかも知れないが、その場合いわゆるロボ的に、画一的になる嫌いがあったのも確かだ。
本来的に地上や海中、海底などの相に棲む多くの動植物たちは概ねそのように出来あがっている。地上にあっては陽光などの電磁波、重力や大気、地磁気を利用し、また水や土、火、さらには様々な元素をはじめ、大方の情報、エネルギーその他あたりにばら
「この記載の件はまったくその通りね、私たちは再利用されたもの達で出来上がっていると言う訳ね。でも、分解されないゴミもあるわ。分解されたら再合成されるのでしょうけれど。堆積されたら化石化したり、圧し潰されて分解されるかもね。神様に
「ワオワオ、ワウフ」
人間を含んだ生物たちのアナログ性は細胞内外を
「そうなのかしらね。細胞とかタンパクとか、ホルモンとかイオンとかさ、そのほか様々なものをロボに組み込んで再現するって無理っぽいからね。だってそれって作って貯蔵してタイミングよく分泌してだし、さらに使ったら今度は回収して分解して廃棄したり再利用しての繰り返しだし、面倒くさくて気が遠くなるわ。
自家発電はできるけれど、例えばものを燃やした時に私たちはその熱を利用したりはしても、煙や煤やガスを回収して無害化などしてないでしょう。ぜんぶ自然が処理してくれているんだもの。ずいぶん昔には少しだけ自動車の排気ガスの処理をしていたらしいのだけれどね。それだってそのシステム内で完全処理した訳ではないから、ゼロエミッションが持て
他にもさ、たとえば木の葉やミミズのようなシステムですら人間には作り出せないから、ロボへの搭載は困難だったのよ。逆を言えば、木の葉やミミズはそれほどすごいシステムなのよね。況やイヌや人間においてをや、ってところかしらね」
「ワウン、ワウン、ワフフフフン」
「あら、得意げね。人間だってイヌだって、まだまだロボには負けないわよ。だから、そんなロボたちがここに一緒にいて、あなたがそれに序列付けをしたとして、仮にロボがあんたや私より上位だったとしたら愕然とするわよね。そんなはずないとは思うけれど、いや、あるのかしら」
「ワンワンワ、ワンワ、ワンワ、ワンワンワ」
「あら、回文ね。つまり口幅ったい言い方をすると、ヒトやワンコは個々の能力自体はそう高くはないけれど、結構機能の汎用性が高いのと、自由度が高くてやや万能って事よね。もう一つ、みんなで力を合わせることが出来て、力を百層倍できるって事かしらね。ほら、他人の背中に載ると高いところに手が届くでしょ。あれよ。だからさ、生物は或る意味、究極のロボでもあるのよね」
「ワーン」
生物の細胞の研究の中で、さまざまな臓器における幹細胞と言う
細胞工学の領野において高度にピュアで万能性の面でも問題のない始原的な基底的細胞に大いなる意義があるものと期待され、始原細胞への人工的な
生体の細胞の内外で行われている無数の一々の事柄は本来鏡張りで為されているにも拘らず、実際には解像できないほどの極微細かつ超高速事象であって、それらは目にも止まらぬ素早さであるため
ある複数の監視装置があらゆる時点の世界中に存在するあらゆる通りを
細胞の遺伝情報の受け渡しと言う点については、細胞分裂の際に結果として観察されるのは、例えばゆっくりとした振り子が数往復する間に数百メートルにも及ぶ一対の遺伝情報の細くしなやかでやわらかな暗号紐を、10㎝径のボールの中でそれぞれが千切れずに絡まらないようにしながら、ほぼ間違いなく複製して暗号紐をもう一対つくり、それを新たに
「ふーん、まったく気が遠くなるわよ。往復運動を回転運動に変換する昔ながらの普通のレシプロエンジンでは、ピストンの動きは1秒間にせいぜい数100往復らしいの。ロケットエンジンの推進スピードが毎秒数キロメートルだけれど、これでも気が遠くなる感じね。さらに、生体内の量子エンジンの場合の回転数は毎秒百万往復から数億往復らしいの。つまり、私たちの定規でこれを測ったり、目で見たりするためには、うまく言えないのだけれど、悲しい事に時間を永遠の半分ほどに引き延ばすしかないのよね」
「ワンワン、ワンワン、ワン」
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