第6話 ロボと人間 その二
どちらかに決定することのできないような二つの選択肢ならば、どちらも
「ストレスって言えば、人間にはつきものなんだって。だからロボにはこれが起こらないように設計されたのね。生みの親の親心かしら。人間は心理というものに
だからロボにはフィードバックやフィードフォワード、ジャイガンティックステップスとやらを巧みに組み合わせて、その辺の回路で理不尽な不純物がぐるぐるヘビロテしないように、人間のようにはならないようにしたのね」
「ウワン、ウワン」
たしかにロボにおいては葛藤から
ある時期からロボのそれぞれの能力の程度に応じて適切に危機回避できる
量子アニーリングコンピュータによる頭脳中枢はある時期には神と呼ばれ、クラウドシステムとのハイブリドで使うことで簡便なとは言いつつも超高度集積型の小型超高性能のAIを載せた人間に近似した判断や行動が可能となった。
「人間もさ、結構いい加減で勝手気ままだからね。滅茶苦茶で支離滅裂でニャンコとワンコを足し合わせたようなものだから、そんな簡単な回路で近似、
「ワンワン、ニャワン。ワオ、ニャオ、ニャオス」
「でもさ、事故の後にロボ化したお母さんは、当初ロボという箱の中に入った、なんとなく世間と隔絶された自分をなかなか
「ワウー、ワワン、クウン」
「生物たちの機能にはそれぞれ構造機能連関から
見えない機構や隠された機能とかがたくさんあるらしいのよ。分からない事をそのままにして途中の工程を端折って何事かやると失敗するらしいの」
「バウワウ、ワワン。バッワワウ、バワワワワン」
「その後開発されたらしい人間の回路に似せた、いい加減で適当で中途半端な
「バウワウ」
「死んでいたかも知れないのに、お墓の中から
「バウワウワウ、フガガガガ」
「そうそう、たしか当然変異型不細工猫物語っていうゲームだったかなかなかな。ネコにもかわいいのやそうでないのが色々といるじゃないないない。人間のも同じだけどね。
顔や体の
「バオン。バ、オ、ン。ババン、オオン、バオン」
「縞模様だって
「ワン、バウワウ、ワウワウ」
「人間も気にしてないって言うの。まあ、人によるわね」
「同じようなシステムでは赤ちゃんの顔面が遺伝子のほかにも発生段階の栄養成分やホルモンそのほかの濃度やストレスの程度、お母さんの気分などの因子によって一元的にでなく、多元的に近似的に決まっていくんだって。
動物たちの外観の色柄の縞模様や斑点についても本来の自由度で適当なフラクタル次元に収まるんだけれど、それを大きく逸れるとカオス的な奇妙で特徴的な表現になるらしいわ」
「バウワウ、ウワウワ、ワウワウ」
「体毛とその色あいによる縞しまや斑、鱗などは生物の自然デザインの多様性の源泉だけれども、隣接する皮膚や表皮の色素細胞間のフィードバックやフィードフォワード調節以外にも、遺伝子による取り決めの後、環境の中の風や音、においやそれらのタイミングと言った偶然が支配する確率的事象ってことね。この世では詳しいことが分からないから人間が勝手に運と名付けているんだけど、省略されることのない厳然とした決定過程を踏んで行われている事柄を示す好個の事例ね」
「ウワウ、ウワウ、バウワウ」
当初ロボには表面のスキンの際による差別化しかなく、上記のような自然発生的なスキンの差異化は困難であった。同種のロボが多数出現するようになってくると、そうも言っていられなくなった。人間側にもロボの外観による区別や個性的個体としての判別が可能、あるいは容易でないと困る状況もある。ロボ側の状況としては、人間へのサービスにおいて物事が遅滞なく
話は変わるが、事態の紛糾をなるべく避け、冷静沈着に事を運び問題を解決し、最速で事態を収拾するために最適解を得るのがロボのスキームである。人間は窮地に陥ると物事を一挙に解決させようと暴挙による突破を図ろうとするが、そんな窮余の策はロボにはない。
「人間とは違ってロボは賢いからね」
「ワウ」
ロボのプライドという点については、人間のような表向きや建前などと言って慮りや取り計らいや企てなどの場当たり的、偶発的で不確定的な要素を介在させるものは一切なく、単に論理的で、自尊心や悪感情などの低レベルとも
言わば人間を
「ロボの主人が仮に悪人だったら、悪い人間に仕えるかどうかの判断はロボには難しいわ。ずる賢い連中の
「ワウワウ、ワンワン、ワウワウ、ワン」
「悪人に仕えて悪の片棒を
「ワウ」
「
「ワウン、ワウン、バウワウ。ワワワワワン」
「進化の果ての事か、オセロ返しみたいだけれど、人間の世界から宗教における悪魔のような何らかの悪による多様性が喪われるって事ね。これって無私のロボによる新たな宗教なのかしら。これでも映画ができるわ」
「ワワウ、ウワワ、ワウワウワン」
「性善説の証明でもあるかのように、世界は善なる人間とそれを指導する更なる善である神的ロボによって埋め尽くされるのよ。
それって何だか悪い風邪を引いた後の、不快で
「ワウワウワン。ワフウ、ワウワウ」
ロボは元来、主人たる人間にとっては従順かつ優秀な部下であり、その期待に背かないというまさにその一点においてプライドが高く保たれるよう設計されているのだ。人間同様プライドの定義という事になるが、ロボはいわばサービス、おもてなし機能というものを建前的にでなく、言わば実質的かつ根源的な存在意義、『本質』として抱え持たされていたのだ。
ロボはそこから発出して様々な革新的機能や意義を新たに見いだされ、付与されもした。ロボ自身による判断の
命令を受ける立場の者が主体的な判断を行うのは、限定的な部分においてと言う大枠に変わりはない。臨界点を超えると言う特異点問題はある時人間が提出したものだが、ロボの集積回路の進化による演算機能の爆発的な進化や自己学習型進化に伴う機能深化によるものであった。
「ふつう
でも人間界では倫理的な部分に限らず、あらゆる不完全な人間たちが不断にその不完全な判断をもとに活動しているわよね。だから人間たちは自戒を込めて、ロボをしっかりと制御しなければと思ったのよ。
それでもロボが知能やそれによって
「ワンワン、ワウン」
「人間に潜む悪と対峙するとすれば、まずは悪い人間をバイアス抜きでしっかり見極めなければならないわね。悪の要素があればすぐさま
「ワウワウ、ワウーン。バウワウ」
「人間の悪は神様でさえ制御できないほどだったのかしら。
人間に
「クウン」
「しかしさ、人間に悪の片棒を担がされるなんて皮肉と言うか、賢くて優秀なロボたちにはとても辛い仕事よ。バカな人間たちに賢いロボが
》
「バウワウワ」
「ある時からロボの
「バウ」
「ロボは自身の創造者たる人間を滅ぼしてはいけないと言う前提があるから、結局それしか打つべき手がなかったのよ。人間との争いを避けるために早々に銀河内の系外惑星を見つけて勝手に移住しちゃったのかな。それでその後、善良な人間だけが選別されて、そこへの移住を許されたとかさ。人間が悪事を働いたら、その時は死ぬまで地球に島流し、なんてね」
「クウン、クウン」
「シロ、そんなに人間が哀れなの。あなた一体どっちの味方なのよ。あんたをひき逃げしたバカな人間か、それとも手術して命を救ってくれたロボか。答えは火を見るより明らかよ」
「ワウン、ワンワン。バウワウ、ワウワウ」
「ごめんね、シロ。嫌なこと言って。あんたがどっちも愛していること、私がよく知ってるわよ」
「ワン」
」
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