第45話 宮池島親睦旅行、「如月家のクルーザーでいざ出発!」編

 8月6日金曜日。天候は曇り。今日から2泊3日の予定でトライアングル諸島の宮池島親睦旅行が開催されるのである。原駅にて隼人、友香里、華菜、それに特別参加の岸本和也、高坂恵美を愛車のホップワゴンにてピックアップした山岸先生は一路、内浦港に向けて出発する。

 出発した車は沼津港の前を通った後、内浦湾を望む海沿いの国道を走って行く。そして国道を走る事30分、車は内浦港の駐車場へと到着をする。と、そこには既に如月家の3人が待機していて、山楽部御一行の到着を出迎えてくれていた。

 車を降りた先生と部員達は、速やかに如月家の3人の居る所へと移動して行き整列すると、まづ最初にニッコリと笑顔を見せながら先生が挨拶をして行く。


「これはこれは、遅く成ってしまい申し訳ありません。おはようございます、私が山楽部の顧問を務めております山岸と申します。この度は、そちら様のはからいにより宮池島親睦旅行が開催出来る事と成りました。顧問として心よりお礼を申し上げます。有難うございます!」


 先生は深々とお辞儀をして、親睦旅行を現実のものへと誘ってくれた穂乃花の両親に感謝の念を伝えるのだった。その丁寧な挨拶を受け取った穂乃花の父、雅也と母、美沙はニッコリと微笑むと口を開いた。


「ご丁寧なご挨拶を有難うございます。貴方が山楽部の顧問であり担任の先生でもある山岸先生ですな。お初にお目に掛ります、私は穂乃花の父、雅也と申します。娘が日頃、大変お世話に成っております。

 今後も担任として部活の顧問として、娘の指導をお願いしますよ。今日からの3日間、皆さんと一緒に過ごさせて貰いますので宜しくお願い致します」


「おはようございます。わたしが穂乃花の母の美沙と申します。娘がいつもお世話になっております。この度、娘から宮池島での親睦会の話を聞きまして、皆さんのお役に立てればと考え、主人と一緒に宮池島の計画をさせて頂きました。

 至らぬ点もあろうかと思いますが、精一杯のおもてなしをさせて頂きますので、宜しくお願いします」


 雅也と美沙は、娘が所属する学校、部活動の為にも精一杯の協力をする決意の様で、先生と部員達に頭を下げて丁寧な挨拶を返すのだった。


「そちら様の丁寧な挨拶を受け取りました。こちらこそ今日から3日間の宮池島親睦旅行、宜しくお願い致します。それでは、部員達を紹介させて頂きます。今回は、飛び入り参加で部外者では有りますが、岸本さんと高坂さんが特別に参加をしております。

 この2人にも自己紹介がてら挨拶に加わって貰います。では、左に居る星野さんから挨拶の方、宜しくお願いします!」


 先生から今回の親睦旅行の立役者である穂乃花の両親に対して、お礼の挨拶をする様にメンバー達に声が掛かる。その一番手として隼人が一歩前に出て話し出した。


「山楽部の部長を務める星野隼人と申します。この度は、親睦旅行の開催に尽力を注いでくださり有難うございました。これから3日間、皆さんと宮池島親睦旅行を楽しく過ごして行きたいと思いますので、宜しくお願い致します」


「私は山楽部の副部長を務めております、沢井友香里と言います。あの有名なリゾートアイランドに行ける事と成り、本当に嬉しく思っています。これも、そちら様のご厚意があってからこそ実現出来たので感謝しております。今日からの3日間、宜しくお願いします」


「あたしは、杉咲華菜と言います。穂乃花さんとは部活動で知り合い、仲良くさせて貰っています。そちら様の尽力のお陰で、今回の親睦旅行が行われる事と成り大変感謝しております。宮池島は凄く行きたかった島なので、今からワクワクしております。宜しくお願い致します!」


 山楽部の3人が、穂乃花の両親への丁寧な挨拶を終える。あと残るは、特別参加の岸本和也と高坂恵美である。そして、まづは高坂恵美が一歩前に出て緊張した面持ちで挨拶に臨んで行く。


「わたしは、高坂恵美と言います。部活動はバレー部に所属して居るんですが、山楽部の女子達から親睦旅行に参加しないかと誘われまして、宮池島に行く事を夢見ていた事も有り参加する事を決めました。

 部外者の、わたしも参加させて頂き凄く感謝しております。今日から3日間、有意義な時間を過ごして行きたいので、宜しくお願いします」


 流石は高坂恵美、落ち着いた物言いいで挨拶を終える。1年1組の副学級委員長を務めるだけの事はある。そして最後に残るは、あの! 岸本和也である。その当人はと言うと強張った顔つきで一歩前へ出たのだが、暫くの間、沈黙の時間が流れたあと、ようやく口を開いた。


「お、俺は岸本和也と言います! クラスは1年1組であります。部活動は野球部に所属して居て、2年生に成ったらレギュラー入りを目論んでいる今日この頃です。

 星野さんから親睦旅行のお誘いを受けて、参加する事を決意しました。ふ、ふつつかもの俺ですが、皆さんと仲良く過ごして行きたいと思っております。宜しくお願い致します!」


 大好きな穂乃花と、そのご両親を目の前にしたのか緊張しながらも、何とか挨拶を終える岸本。その緊張しまくりの岸本の姿を見た穂乃花が、クスクスと笑いながら話し出した。


「岸本さん、凄く緊張をなさっているわね。挨拶だけでそんなに固く成らなくても良いですわよ。もっと、気楽に接してくださってください。その方が両親も、皆さんと接しやすくて良いと思いますわ。

 では改めて、皆さんおはようございます。今日から3日間の日程で開催される宮池島親睦旅行、楽しく過ごして行きましょう」


「き、緊張し過ぎてしまってすみません! 人前で話すのが苦手でして、しどろもどろに成ってしまいました。そんな風に、優しく言って貰えると嬉しいです。改めて今日からの3日間、宜しくお願いします!」


 緊張しまくりの岸本だったが穂乃花から優しい言葉を貰い、落ち着きを取り戻した様だ。岸本の愛嬌ある物言いは、その場に居合わせた一同を和やかなムードにされてくれるのだった。その和やかな雰囲気の中、雅也と美沙が口を開く。


「皆様、お初にお目に掛かります。私が穂乃花の父、雅也と申します。この度は、娘から親睦旅行の話しを聞き、皆様のお役に立てればと思い、全面的に協力する事を申し出ました。私どものクルーザーを移動手段として使い、別荘の方へとご案内します。

 海が綺麗な島ですので存分に満喫して欲しいと思います。今日からの3日間、皆さんと御一緒に過ごさせて頂きますので、宜しくお願い致します!」


「わたしは家内の美沙と申します。いつも娘がお世話に成っております。この度は娘が所属しております、山楽部の親睦旅行のお手伝いをする事に成り、大変嬉しく思っております。

 山楽部以外の方も2人参加しておられる様で、賑やかな旅行になりそうですね。わたしどもは、精一杯のおもてなしが出来ればと考えていますので、宜しくお願いします」


「宮池島の親睦旅行は、如月様の後ろ盾が有ったからこそ実現出来ました。心よりお礼を申し上げます。それでは、改めて皆んなでお礼を言わせて頂きます。今日から3日間、宜しくお願い致します!」


〚宮池島親睦旅行のお世話を有難うございます。宜しくお願いします!〛

 

 居合わせた一同は再度、雅也と美沙、穂乃花に深々と頭を下げて丁寧な挨拶をする。雅也と美沙、穂乃花もそれに応える様にお辞儀をして返すのだった。


「さあ皆さん、お互いに挨拶も終わった事ですし早速、クルーザーに乗船して頂きましょう。ここから50m歩いた先に停泊していますので、そこまでご案内します。どうぞ皆さん、私の後に付いて来てください」


「はい、それでは宜しくお願いします。皆んな車から荷物を下ろしてあるね。大丈夫かな、忘れ物は無いかな?」

〚大丈夫です。荷物の忘れ物は無いです!〛


「よーし、皆んな良い返事だ。忘れ物は無い様だね。では、如月さんの後に付いて移動するから、皆んな遅れない様に来たまえ!」





 挨拶を終え、登山道具+旅行カバンの沢山の荷物を持った山楽部御一行達は、如月家の所有するクルーザーの場所まで移動して行く。

 そして50mほど歩いて行くと、全長は15mほどであろうか、接岸されているクルーザーが見えて来た。流石は如月家、中途半端な小型クルーザーでは無く、まるで別荘感覚の大型のクルーザーを所有していたのである。

 この豪勢なクルーザーを目の当たりにした一同は、立ち止まって一様に驚きの表情を見せて居る。


「さあ、これが私の所有するクルーザーに成ります。名前が一応付けて有りましてね、MIASHONO号と言うんです。名前の通り、妻と娘の名前を取り入れてあるんです」


 クルーザーには自分の妻と娘の名前を取り入れてある様で、クルーザーを前に持ち主の雅也は誇らしげに言うのであった。


「これはまた、大きなクルーザーでございますな。奥様と娘さんの名前を取り入れてあるとは。女性らしい柔らかい表現の名前が、この優雅な作りのクルーザーにピッタリときますね」


「女性の名前を取り入れてある船の名前は多いのですよ。何故なら、昔から船乗りの仕事は危険と言われていまして女性を船乗りにはさせなかったんです。その為、船に女性の名前を取り入れて形容する習慣と成って行った経緯が有るんですよ。

 その名残が現在にも伝わっているのです。だから、私のクルーザー船にも女性の名前を付けた次第です。因みに船の初航海の事を処女航海と言うのは、女性の名前の船が多いからだと言う事なんですよ」


「そうですか、船の名前には女性の名前が多いとは思っておりましたが、その様な昔からの経緯があったとは知りませんでした。勉強に成りましたよ!」


「これは思いもよらぬところで、船の講義をしてしまいましたな。まあ、良い機会でしたから船の知識として覚えていてください。それでは皆さん、ブリッジを渡って船に乗り込んでください!」


 船の名前には何故、女性の名前が付けられる事が多いのか、その経緯を雅也からの講義で知る先生は新たに得た知識に感銘を受ける。その話のやり取りを聞いて居たメンバー達も、今まで知り得なかった事実を知り感銘を受けるのだった。

 そして一同は、雅也の後に付いて橋を渡りクルーザー船に次々に乗船を果たして行く。乗船した山楽部御一行達を待ち受けていたのは、これが船の中? と思わせる豪華な空間が広がっていた。船は2階建て構造に成っており2階部分は操船室、1階部分は入り口側にはリビングルーム、中央付近にはキッチンとシャワー室、その奥には寝室が設けられ、まさに海の別荘と成っていたのだ。

 この豪華な作りのクルーザーの船内を目の当たりにした一同は、暫しの間、感心した表情を見せてポカーンと口を開けたまま立ち尽くして居るのだった。


「おやおや皆さん、如何しましたか? ボーっとして立ったままではないですか。船内の作りに驚かれたのですかな。この大きさのクルーザーに成ると゛海を移動する別荘゛と言ったところですから無理も無いと思いますが。まあ、とにかくリビングルームに入られて、皆さんソファーにお掛けください」


 クルーザーの持ち主の娘である穂乃花は別として、別荘の様な豪華な作りの船内を見て放心状態に成ってしまう御一行達。通常の家庭ではこの様な豪華なクルーザー船とは縁が無いので、驚くのは無理も無いのである。

 雅也に諭されて、やっと我に返った御一行達は、案内されたリビングルームに入りソファーへと緊張した面持ちで着席して行く。


「皆さん、お座りに成りましたな。緊張なさらずに飲み物を頂きながら楽にしていてください。美沙、皆さんにお飲み物をお出しして!」


 緊張しまくる山楽部一同を解させようと雅也からの指示を受けた美沙は、キッチンに向かい取り急ぎ飲み物を用意して行き、皆んなの元へと届けるのだった。


「さあ皆さん、お手元にあるジュース類を持って乾杯と行きましょうか」

 雅也は、飲み物を持って乾杯をしようと皆んなに促す。すると、それに答える様に一同は目の前に置かれたコップを持つと手を高々と上げて行く。


「はい! 飲み物をお持ちに成りましたね。それでは乾杯の音頭を私が取らせて貰います。今日からの3日間、娘が所属する山楽部のお世話をする事と成り、私と家内の美沙は大変嬉しく思っております。家内の美沙と一緒に最大限のおもてなしをさせて頂きますので、宜しくお願い致します。それでは皆さん、乾杯!」


〚宜しくお願い致します。乾杯~!!〛


 雅也の乾杯の音頭と共に、一斉にコップを突き上げて乾杯して行く山楽部一同。そう、遂に如月家の強力なバックアップの元で宮池島親睦旅行が開始されたのだ。

 今までの強張った顔つきから一変して、朗らかな表情となった山楽部一同は、和気あいあいと飲み物を飲みながら談笑しているのだった。その打ち解けた様子を確認した雅也はホッと一息ついた後、口を開いた。


「皆さん、やっと朗らかな顔で話す様に成りましたね。私も一安心しましたよ。その調子で、我がMISAHONO号で寛いでください。美沙は皆さんの、おもてなしの方を宜しく頼むよ。それでは、私は操舵室へ向かい操船を開始します!」


 乾杯の音頭を終えた後、ジュースを飲みながら次第に打ち解けて、笑顔で話す山楽部御一行の姿を見た雅也と美沙は安堵の表情を見せて居るのだった。そして雅也は船を動かすべく、2階の操舵室に移動して運転席へと座って行く。

 席に座った雅也はアクセルレバーと舵取りハンドルを握り締めると、大きな声を上げた!


「よし! これよりMISAHONO号は出航します。出発進行~ヨーソロー!!」


 出発進行の声を高々と上げた雅也はアクセルレバーを前に入れる。するとスクリューが回り出して、ゆっくりと進み始めて行き微速前進を続けるMIASHONO号。暫くすると内浦港のヨットハーバーを抜けて外海へと出ると、煌めく駿河湾の大海原が目前に見えて来た。そして、外海に出たのを確認した雅也は再び声を高々と上げた。


「皆さん、我がMIASHONO号は外海へと出ました。これより速度を上げて滑走状態に入ります。宮池島までは3時間の船旅と成ります。途中に昼食休憩を取る時は船を停めて駿河湾上でのランチタイムを取る予定ですので、楽しみにしていてください。では、宮池島に向けて速度を上げます!」


 雅也がアクセルレバーを更に前側に倒して行くと、スピードはグングン上がり、その加速により水の抵抗を受けた船主があがり滑走状態へと移り、水しぶきを上げながら軽快な速度で大海原を駆け抜けて行く。

 こうして、宮池島親睦旅行は始まりを告げたのだった。そしてクルーザーが軽快な速度で疾走している頃、1階のリビングでは山楽部一同が賑やかに談笑していた。


「ねえねえ穂乃花のお父さんって、操船している姿をちらっと見て来たけど、゛海の男゛って言う感じの爽快な感じがして、凄くカッコ良いじゃない~」


「そうそう、何だか映画やドラマに出演しても良いぐらいな、ダンディーな感じが漂う殿方と言う感じがするわよ。何だか憧れちゃうわ~」


「わたしの父は゛普通のおじさん゛過ぎるぐらいの平凡な感じなの。穂乃花さんのお父さんの様な上品な身なりの人に成ってくれると良かったのになあ」


 友香里、華菜、高坂の女子達は、もっぱら穂乃花の父親のカッコ良さにメロメロの様である。まあ確かに、映画俳優ばりの顔立ちの良さと品のある身なりなのだから、無理も無いのである。


「皆さん、わたくしの父の事を、そんなに褒めないでください。余り褒めすぎると直ぐに調子に乗って有頂天に成ってしまいますのよ。ほら、今の話を操船しながらも聞いていたみたいで、鼻歌を歌いながら上機嫌に成っているわよ!」


 どうやら、穂乃花の父は調子に乗り易い様である。穂乃花はリビングの入り口に立つと父の操船している姿を指さしながら、その通りでしょ! とばかりに上機嫌の父を見つめているのだった。


「まあまあ、皆さん主人の事が気に成っているなんて。あの人は見た感じが確かにカッコ良い感じなので好印象を与えてしまう様ですが、実際の中身は自由奔放過ぎて身勝手な一面を持っていて、私と娘を困らせる事も多々あるのですよ。

 この間なんて、何も私達に告げづにいつの間にか趣味の釣りに、このクルーザーに乗って一人で出掛けていたのよね、穂乃花!」


「そうなのです。お父様ったら、わたくし達が起きた時にはもう居なくて。所在が何処か気に成り電話をしてみたら、既に船の上で釣りをしていたのです。自由奔放過ぎて、困ったお父様なんです」


「え~それって凄い身勝手過ぎない? 最低限、家族には一言告げて行くべきだと思うわ。ちょっと、印象が悪くなって来たかな~」


「うわ~私には、その様な行動は我慢できないわ。ちょっと、自由奔放過ぎるわね。あとで、勝手な行動は慎みなさいって、あたし達が忠告して上げるわよ!」


「家族に告げづに趣味に走ってしまうなんて良く無いわ。華菜の言う通り、これは華菜と高坂さんと一緒に行って忠告をして上げた方が良いかもね。うん、思い立ったら今よ! 忠告しに3人で如月さんのお父さんの所へ行きましょう!」


「うん、そうしましょう! 思い立ったら今よね。行きましょう高坂さん」

「分かったわ! 操船室に急いで行きましょう」


 身がってな穂乃花の父を諭してあげるべく立ち上がり、2階の操舵室へ向かおうとする3人。


「あ〜ちょっと待ってください皆さん、本当に行ってしまわれるのですか?」

 穂乃花が制止を試みるも行動に移してしまう友花里と華菜、高坂。あっという間に階段を駆け上がり操舵室へと出向いてしまうのだった。


「女子達は、こうと決めたら即行動に移してしまいましたね。あの行動力には恐れいりますよ」

「俺も恐れいったよ。本当に凄い行動力だと思うな。でも、如月さんの事を思っての行動だから、良いんじゃないかな」


「すいません、如月さん。そちら様の家庭の事情に首を突っ込む様な事を、女子達がしてしまって。困った子達です。私が、連れ戻して来る様にしますよ」


 女子達の即行動に移す行動力に呆気に取られた先生と隼人、岸本。すると先生は、他人の家庭事情に首を突っ込もうとする女子達を止めに行こうと、席を立とうとする。と、その時! 美沙が制止する様に口を開いた。


「あ~良いですのよ、先生! 止めなくても良いですわ。主人は確かに勝手過ぎると思う時もありますが、あの自由奔放さが持ち味なのです。でも女生徒さん達は、その自由過ぎる面を正して上げようと思ったんでしょう。

 私と娘が言えなくても言えない事を伝えようとしてるなんて、何だか私達の気持ちを代弁してくれてる様で嬉しいですわ」


「お母様の言う通り、自由過ぎるお父様なんですの。そんなお父様に意見を言いに行ってくれるなんて、わたくし達の気持ちを代弁してくれてる様で何だか感謝したいくらいです。友香里さん達が言う事に、耳を傾けてくれると良いのですが」


「そうですか、女子達の行動を見逃してくれるのですね。分かりました、連れ戻さない様にします。あの子達なりに考えて話をしてくるでしょうから、戻って来るのを待っている様にしますよ」


 先生は美沙に言われた通り、女子達を連れ戻すのを踏みとどまる。そして落ち着きを取り戻して、またリビングへと戻り着席するのだった。と、この光景を見ていた隼人と岸本は、心の中でこう思っていた。


(ああ~何て健気な母子なんだ。行き場所も告げずに勝手に遊びに行ってしまう父親なのに、それでもかばって上げる様な事を言うなんて、女性の鏡の様な人だよな~)


(それにしても綺麗で優しそうなお母さんだな。如月穂乃花が、清楚でしたたかな女子に育ったのは、このお母さんが居てからこそなのが分かったよ。主人を陰で支える健気な女性と言った感じが男心をくすぐるよな)


 隼人と岸本は、自由奔放過ぎる父親でも理解をして準じる様な気構えを持っている如月母子に対して、関心して見守っていた。そして先生と隼人、岸本が落ち着きを取り戻してリビングのソファーに座って居る時だった。

 急にクルーザーのスピードが落ちて来たかと思うと、遂には船が停止してしまったのである。突然の船の急停止にリビングに居た一同は驚くのであった。

 すると2階の操舵室の方から、雅也を先頭にして女子3人組が後に付いて大挙して降りて来たかと思うと、リビングに駆けつけて来たのだ。





「あ~突然だが! 美沙と穂乃花に伝えたい事があって船を止めて急遽、この場に来させて貰ったんだ」


 雅也がリビングの入り口に仁王立ちの様にして立ちはだかって口にした第一声は、自分の妻と娘に対して何かを伝えたい、と言うものだった。その、真面目な顔つきで見つめる雅也を目の当たりにして戸惑う美沙と穂乃花。


「貴方、一体如何したのかしら? そんなに真剣な顔つきで私達に向き合うなんて。何か言いたい事でもあるのですか」

「お父様が、そんな沈痛な表情を見せるなんて意外ですわ。わたくし達に伝えたい事とは何なんですか?」


 真剣な表情を見せる雅也を心配した美沙と穂乃花は、一体如何したの? 何を私達に伝えたいの? と言う事を思いながら問い掛ける。すると雅也は下を向きながら、はにかんだ様子を見せた後、キッと上に目線を上げると話し出した。


「あの~何と言うか、そうだな。美沙と穂乃花に伝えたいと事と言うのは……」


「伝えたい事とは、何なんですか貴方!」

「お父様、モジモジしてないで、行ってください!」


 柄にもなくモジモジと照れている雅也に対して、痺れを切らす美沙と穂乃花。その、睨む様な目つきで催促して来る妻子を見て、ようやく堪忍した雅也は意を決して本題の言葉を告げる。


「……うん、伝えたい事を言わせて貰うよ。今、穂乃花のお友達が来てね、諭されてしまったんだよ。彼女達からの忠告の言葉を聞いて身勝手過ぎる自分に反省しました。家族が居るにも関わらず、何も告げづに趣味に出掛けたりして勝手な行動を取ってしまい、申し訳なかったです。

 今後は、家族の承諾なしに趣味や用事に出掛ける事の無い様にして、心配を掛けない様に致します。美沙、穂乃花、今まで気苦労を掛けてすまなかったです!」


 雅也は頭を下げながら、思いのたけを妻と娘にぶつけるのだった。いつもは亭主関白で、自由気ままな雅也を見続けて来た2人は、その誠実な態度で謝る姿を見て戸惑っているのであった。一体、友香里と華菜、高坂恵美にどの様に諭されたのかが気に成るところである。


「貴方、如何なされたの? そんな事を言うなんて思いもよらなかったわ。勿論、私達は貴方が今、言われた事を歓迎しますわ。今後は、身勝手な行動は控えてくだされば、凄く嬉しいですわ」


「自分の身勝手さを悔いて詫びるなんて、わたくし本当に驚きましたの。自由奔放過ぎるところが、お父様には多々有りましたわ。そうしてくれれば、家内安泰に成って行くと思うから良いことですわ!」


「そうか、そう言ってくれると私も心強いよ。これからは今言った事を肝に銘じて、君達家族の事をまづ大事にして、身勝手な行動は控える様にして行くからね!」


 身勝手なところを悔い改めて真剣な面持ちで謝りの言葉を伝える雅也に、美沙と穂乃花は心底嬉しく思い歓迎をして、和やかなムードに包まれるのだった。すると、この雅也に心境の変化を与え、悔い改める事を促した立役者の女子3人組が口を開く。


「穂乃花のお父さん、あたし達の言う事に耳を傾けてくれて、自分の今までの行動を見直す様にしてくれたわ。話の分かる人で良かったわ~」


「家族の事をまづは気に掛けて大事に思う様にしなきゃね。わたし達の助言を聞いてくれた雅也さんは、これから良き父として如月家を支えて行ってくれると思うわよ」


「そうそう高坂さんの言う通り、良き父であり一家の大黒柱として如月家を盛り立てて行ってくれるわよ。それじゃあ話も付いた事だし、船を走らせる事を再開しましょう、雅也さん。さあ、皆んなで操舵室に戻りましょうよ!」


「これからの雅也さんは、家族の事を先ず第一に考えて行動する、家族思いの良い父親に成る事は間違いないわね。これで一安心したわ。さあさあ、雅也さん、操船の再開をしなきゃね。良い機会だから、船の操船の仕方も教えて貰いたいな。皆んなで操舵室へ急ぎましょう〜」


「そ、そうだな。美紗と穂乃花には、私からの悔い改める気持ちを受け取って貰えたから良かったよ。お〜し、それじゃあ心機一転が出来たところで、操船を再開するとしよう。今度は、どうやって操船しているのかを、君達に見せて上げるからね!」


 自分の身勝手なところに気付かせて、家族に侘びる事の行動を促してくれた女子達に、雅也は心底、感謝していた。そして心機一転、清々しい気持ちに成れた雅也は、上機嫌でリビングを後にして友香里と華菜、高坂を引き連れて、軽快な足取りで操舵室へと駆け上がって行く。


「普段は亭主関白で、聞く耳を持たない様な感じの主人が、素直に耳を傾けて反省の弁まで述べるなんて以外だわ。いつも生計を共にする私達では聞かない事も、第3者であるお嬢さん方が言うと効きめが有ると言う事なのね」


「わたくし達には、なかなか見せない笑顔を友香里さん達に見せていたわ。やはり身内以外の人の言う事には耳を傾けると言う事なのかしら。あらあら~操船室に戻った途端、賑やかな話し声と共に船が動き出したわ。何だか、お父様は凄く上機嫌の様ね」


「如何やらお父様は、女子3人組のパワーに負けてしまった様ですね。それにしても、どの様に言って諭したのか謎が深まりますが、改心した訳ですから如月家にとっては良い事ではないですか!」


 雅也の気持ちの変化は、女子3人組によるものが大きい事を感じ取る美沙と穂乃花。その事に感謝をしながら、今日の劇的な出来事を嬉しく思う2人の姿がそこにはあったのです。すると、その様子を見ていた隼人と岸本和也も、良かった良かったと頷きながら話し出した。


「如月さんのお父さんが、改心してくれたみたいで良かったですね。女子3人が集まると凄い力を発揮すると言う事ですよ。さあ、船のスピードも速く成って来ましたよ。なんだか僕は、海上を疾走する風を感じたく成って来ましたよ」


「女子達の巧みな言葉で、如月さんのお父さんを諭す事が出来たんだろうね。そのお手柄の女子達の居る所へ俺達も行ってみる事にしようか、隼人! 一緒に操舵室へと駆け上がって心地よい風を感じ取りに行こうぜ!」


 隼人と岸本和也は、お手柄の女子達の元へと向かうべく、海を疾走する風を感じるべく、リビングを出て2階の操舵室へと駆け上がって行くのだった。そして、残された美沙と穂乃花、山岸先生は、顔を見合わせて笑顔をみせながら口を開く。


「とうとう如月さんを除く、全員が操舵室へと行ってしまったな。こんなに大勢の取り巻きが居たら、雅也さんは操船しづらく成ってしまうのではと心配してしまうよ。だけど、楽しそうな声が上から聞こえてくるから大丈夫かな」


「何だか、お父様の弾んだ声が聞こえて来ますの。皆さんが周りに来てくれて、注目を浴びているから嬉しいんじゃないかしら。この調子で船を快調に走らせて行ってくれると思いますわ」


「あんなに上機嫌で話す主人を見たのは初めてですわ。山楽部の皆さんに囲まれて、ヒーロー状態に成ってしまっているかもですね。さあ、船も順調に航行している様ですし、そろそろ昼食の準備に入ろうかな。

 昼食は内浦港と宮池島との中間地点を過ぎた辺りで船を止めて食べる様に成りまわ。あと30分も航行すれば、停泊地点に到着するわね。穂乃花、キッチンに行って昼食の準備に入りましょう」


「そうですか、今から昼食の準備に入られるのですな。そうと分かれば、私に出来る事があればお手伝いしますが。お皿運びでも、何でも致しますよ!」


「あら先生ったら、そんなに気遣いなさらなくても。せっかくの船旅なんだから、景色を眺めながら寛いでくだされば良いのに。……でも~せっかくの申し出だから、お言葉に甘えようかしら」


「今回の親睦旅行は如月家の協力が有ってからこそ実現出来ました。そのお礼も含めて、少しでもお役に立てれればと思っているので、遠慮なく私を使ってください」


「そうですか、そんなに私達一家に感謝しておられるのですね。娘が所属する部活動の為ならお安い御用ですよ。ん〜と、そうですわね。せっかくの申し出だからお言葉に甘えて、お手伝いをお願いしようかしら。では、こちらのキッチンの方へ来てください。お手伝いの方、宜しくお願い致します」


「先生! お手伝いの申し込み、有難うございます。既に下ごしらえはして有るのですが、お弁当箱に詰める作業や飲み物の準備も有って、9人分を用意するのに手間暇掛りそうなところでしたの。先生が手伝ってくれれば、作業が捗りそうだから、宜しくお願いしますわ」


「そうと決まれば早速、行動に移りましょう! 助っ人としてお役に立てれるよう、頑張らせて頂きますよ」


 先生から、昼食準備の手伝いを申し込まれた美紗と穂乃花は歓迎の意を伝える。そして先生は、如月家のお役に立とうと、やる気満々の表情を見せながら、2人の後に付いてキッチンの中に入って行くのだった。

 幸いにも風も少ない安定した天気が続く為、船体も安定した状態で駿河湾の大海原を高速滑走して、船首は波を切りさき、爽快な水しぶきを上げながら航行を続けて行く。2階の操舵室では山楽部の面々に囲まれながら、雅也が上機嫌で操船の仕方を実演して見せていた。

 その操船の仕方を教授された皆んなはフムフムと頷き、感心した表情を見せながら、雅也と一緒に操船している気分でワイワイ楽しく過ごして居る。     

 1階のリビングの奥にあるキッチンでは、美沙と穂乃花が昼食の準備を行って居た。そして急遽、手伝いに名乗りを上げた山岸先生が、2人から指示を受けながらコップを出して飲み物を注いだり、出来上がった食材を重箱に詰める作業を世話しなく行っている。


 そんな、如月一家と山楽部御一行達を乗せたMISAHONO号は一路、宮池島を目指して順調に航行して行く。そして1階のキッチンで昼食の支度が終わり、リビングのテーブルに配膳が完了した時であった。フルスピードで航行していたMISAHONOが、段々とスピードが落ちてきて船が停止したのだった。

 すると、停止したのと同時に2階の操船室から雅也を先頭に居合わせた全員がリビングへと降りて来た。どうやら、予定していた昼食ポイントの所まで航行した為、船を停止してリビングへと駆けつけた様である。





「あら、貴方! まるで見ていたかの如く、凄いタイミング良く降りて来たわね。たった今、昼食の準備が完了したところだったのよ」


「いや~グッドタイミングだったね。予定していた昼食地点まで航行したから、船を止めて降りて来たんだよ。こんなにタイミングが良いと、私達が昼食作りを覗いていたかの様に成ってしまうがね」


「まあ、そうだったんですか。私達が用意している昼食の匂いが上に居る皆さんに届いてしまったのかもですね。まあ、呼びに行く手間が省けて丁度良かったわ。さあ皆さん、お待ちかねの昼食の時間ですよ。席に座ってくださいね!」


「お母様の言う通り、匂いに引き寄せられたのかも知れないですね。この昼食の用意を先生も手伝ってくださったんです。お陰で、早く用意する事が出来ましたわ。さあどうぞ、皆さん席に座ってください。如月家、特製弁当をお召し上がりに成ってくださいませ~」


「おお~そうですか! 先生も昼食の支度に加わっていたのですね。手伝って頂き有難うございます。感謝いたしますよ、先生。では皆さん、お好きな席に座ってください。ランチタイムの始まりと行きましょう!」


 タイミングを見計らった様に降りてリビングへと駆け付けて来た雅也と山楽部の面々。まるで昼食の匂いを嗅ぎ付けて来たかの様である。その用意された昼食を見て、腹ぺこの若者達は食欲をそそられた様で、雅也の手招きされたリビングの席へと、速やかに移動して席に座って行く。 


「皆さん、速やかに席に座られた様ですね。それでは、ささやかですが、妻と娘が腕によりをかけて昼食を用意してくれました。お口に合うかどうか分かりませんが、どうぞ召し上がってください!」


「これはこれは、昼食まで用意してくださる、そちら様のご好意に感謝致します。有り難く食べさせて貰います。諸君も、ご好意に感謝しながら食して行く様に。それでは、頂かせて貰います」


〚昼食を用意をしてくださり、感謝しています。有り難く頂かせて貰います!〛


 先生と部員達から感謝の言葉が述べられ、頂きますの言葉が発せられて、一斉に重箱の蓋を開けて如月家特性の゛重箱弁当゛がお披露目と成る。重箱は2段重ねに成っており桜柄&桜を形どったお重箱で、ピンクのグラデーションに桜の模様が描かれて、見る人をパッと明るくさせてくれるデザインである。

 その重箱の1段目には、これまた鮮やかな色合いで作られた゛ちらし寿司゛が見る者の食欲をそそらせる。2段目には、3分割の仕切りが設けられ、一番大きい仕切りには海老のシーザーサラダが、残る2分割にされた仕切りには沢山の唐揚げと、トロ~リとろける様な黄身が乗せられた゛卵のせハンバーグ゛が2つ入れられていたのである。

 この彩りも鮮やかで視覚的にも刺激を受けた上に、開けた瞬間に立ち込める料理の匂いに刺激を受けた一同は、更に食欲がそそられた様で、満面の笑みを見せながら重箱弁当を食べ初めて行く。

 美味しい物を食べている時は、一心不乱に食べて行くので無口に成るものであるが、そんなに無言で食して行かなくても良いだろうと心配に成るほどである。そんな調子で食べて行くので、僅か20分ほどで如月家特製、重箱弁当を食べ終えてしまうのだった。


「皆さん、何も喋らずに黙々と食べていて、あっと言う間に完食しましたね。余りにも無口で食べておられたので、お口に合わなかったのでしょうか?」


「お母様の言う通り、何も喋らずに食べていたと言う事は、料理の味が口に合わなかったのでしょうか? もしかすると、わたくしが下ごしらえから全て作った、卵のせハンバーグの味が濃かったせいなのかしら」


 美沙と穂乃花は、皆んなが余りにも無口で昼食を食べ終えたのを見て、自分達の手作り弁当が、余り美味しく無く口に合わなかったのではないか? と疑問に思い問い掛けるのだった。すると、その問い掛けに一早く答える人物が。そう、如月穂乃花に想いを寄せている、あの人物が口を開いたのである。


「いいえ、そんな事はありません! 最高に美味しい重箱弁当でしたよ。まづ1段目の、ちらし寿司は、桜柄と桜の形で作られた重箱に合わせる様に、ふんだんに桜でんぶが酢飯の中央に盛られ、それを取り巻く様に錦糸卵が隙間なく敷き詰められ、そして最後の外周にはキュウリと海老とサーモンが散りばめられて、それはもう鮮やかな色合いの盛り付けが食欲をそそらせてくれました。

 その鮮やかな盛り付けで視覚に刺激を受けた後に食した、ちらし寿司は、絶妙な酸っぱさ加減で作られた酢飯と食材が合わさって、口に入れた瞬間に美味しさで口の中がとろける様でした!」


 いきなり、如月家の重箱弁当を褒めちぎる言葉を口にする岸本和也。その外見上のチャラい出で立ちでは想像もつかない様な料理に対しての批評を口にする岸本に、褒められている美沙と穂乃花は勿論、回りに居た山楽部の面々も驚きの表情を見せているのだった。そして、岸本の料理の批評はまだまだ続く。


「それに、何より一番美味しかったのは゛卵のせハンバーグ゛なんです。このハンバーグの絶妙な焼き加減は、硬くも無く柔らか過ぎる事も無く、ふわふわの焼き加減なんです。そのふわふわの食感のハンバーグの上に乗せられた半熟卵の黄身が溶けだした時、ハンバーグの肉に絡み合って口の中がとろける様な食感に襲われてしまうんです。

 美味しさの波状攻撃を受けて、俺の脳内は完全に麻痺してしまいましたよ。もうこんなに旨い、卵のせハンバーグを食べる事が出来て本当に幸せです。流石は如月穂乃花さんが作られた手料理なだけの事はありますよ!」


(おいおい和也ったら、柄にもなく料理の批評が出来るんだな。まるで評論家が話す様な口ぶりじゃないか。人は見かけによらないものだな。特に、如月さんの作った卵のせハンバーグの事をべた褒めしてヨイショするところなんて、しっかり自分の事を2人にPRして印象を与えようとしてるよ。しかし、如月さんの事をフルネームで呼ぶなんて! 

 なんて馴れ馴れしいんだろう。でも和也が言うと、悪気はないから自然に受け止められてしまうんだよな。まあ如月さんが好きなんだから、とにかく好印象を与えて、お付き合いが出来る様に頑張るんだ、和也!)


 続く岸本の料理の批評は想いを寄せる穂乃花が作った、卵のせハンバーグであった。穂乃花の母も目の前に居る事から良い印象を与えようと、誠意一杯の誉め言葉で穂乃花を褒めちぎる。見かけでは想像できない岸本の姿を見ていた隼人は、感心した表情を見せながら、大好きな穂乃花と仲が良く成れる様に心の中でエールを送るのだった。


「あらあら、貴方は凄く料理の批評が上手いわね。確か~岸本さんと言ったかしら。そんなにお褒めの言葉を貰えて、腕によりをかけてお弁当を作った甲斐がありましたよ」


「岸本さんは、料理の味が良く分かる方なのね。わたくしの作った卵のせハンバーグの事を、そんなに褒めてくれるなんて凄く嬉しわ。真心を注ぎ込んで作ったから旨さが倍増したのかしら。美味しく食べれた様で良かったですわ!」


「本当に、美味しいお弁当を食べれて良かったです。俺は、美味しい物は美味しいと言ったまでです。それだけ、丹精込めて作られたお弁当が美味しかったと言う事ですよ。他の皆さんも、きっと満足されていられますよ」


 大好きな穂乃花と母である美沙からお礼を言われて、顔を赤らめながら有頂天に成る岸本。その様子を見ていた他のメンバー達は苦笑いしながら口を開く。


「そうですね、本当に美味しいお弁当でしたよ。岸本さんに、言おうとしていた事を全て言われてしまいました。本当に評論家なのかと思うほど見事な食レポを行ってくれましたよ」


「プリプリとした海老が入っているシーザーサラダは凄く食感が良くて、美味しく食べれましたよ。わたしは山楽部以外の部活から飛び入り参加しておりますので、部外者であるにも関わらづ、こんなに丁寧なおもてなしをしてくださり有難うございます」


「まあまあ高坂さん、部外者なんて言い方は止めてくださいね。今日から3日間の親睦旅行は、山楽部の一員に成ったと思って行動を共にして欲しいわ。だから、高坂さんと岸本さんは、おもてなしを受ける権利を持っていると言う事よ。

 それにしても、旨すぎるお弁当で美味しく食べれて良かったです。有難うございました!」


「今日は飛び入り参加した2人が加わって、素晴らしい親睦旅行に成りそうね。こんなに美味しい重箱弁当を食べれて私達は幸せ者だわ。如月家のご好意に改めて感謝しております」


「皆んな、如月家がご用意してくれた昼食を堪能出来た様だね。こんなに真心のこもった手料理は、食べる者を幸せな気分にさせてくれて、美味しさも倍増すると言う事だよ。

 山楽部の顧問として、如月家の昼食のおもてなしに感謝しております。では改めて皆んなで、感謝の言葉と頂きましたを言いましょう。美味しい昼食を有難うございます。頂きました!」


〚昼食を有難うございます。美味しかったです。頂きました~!〛


 一斉に感謝の言葉と頂きますの声を発する、山楽部一同。如月家特製の美味しい重箱弁当を食べ終えて、その表情は満足感に満ち溢れているのであった。


「皆さん、家内と娘が用意した昼食にご満悦の様ですな。ここから宮池島までは、あと30分位の航行で着く様に成ります。食後は、リビングで寛ぐも良し、航行する操舵室から海の風を感じながら大海原の景色を眺めるのも良しです。それでは私は操舵室に戻り、船の操船に入ります。皆さんは、存分に船旅を満喫してください」


 昼食を終えた後の、山楽部一同の満足感に満ちた表情を見た雅也は、美紗と穂乃花が用意した昼食がお口に合ったのだと思い、安堵の表情を浮かべる。そして、食後は寛ぐ様にと労いの言葉を皆んなに掛けると、雅也は操舵室へと戻り操船を再開させるのだった。

 エンジンを再始動させスピードを上げて駿河湾の大海原を軽快に疾走して行くMISAHONO号。軽快な大海原の風があたる操舵室には、美紗と穂乃花を除く先生と山楽部の面々が、雅也を囲む様にして陣取っていた。皆んなからまたまた囲まれ、操船をする自分が注目の的に成っている事に、ニコニコ笑顔を見せながら上機嫌で山楽楽部の面々と接している雅也。

 時には、身振り手振りで操船技術を教えたり、時には皆んなと鼻歌を歌ったりして終始賑やかな操舵室であった。そして順調に大海原の航行を続ける事20分。突然、山岸先生が、船の行く手を指さしながら大きな声で叫んだ!


「皆んな、船の行く手を見るんだ。島が見えて来たぞ! あの尖った円錐形の山が宮池島のシンボル、野元岳なんだ。遂に、目的地の宮池島まで来たんだ。もうすぐ上陸が出来るよ!」


「おお~宮池島が見えて来ましたな。流石は先生、真っ先に野元岳を発見して島を確認するとは。恐れ入りましたよ。我がMISAHONO号は、あと20分程で島の北東部にある平賀港に入港する様に成りますよ!」


 宮池島を発見! と言う先生と雅也の大きな声を聞いた美沙と穂乃花も、1階のリビングから素早く出て操舵室へと駆け上がって来た。操舵室には総勢9名の乗組員が集まり、段々と近づいて来る宮池島の勇姿を大海原を疾走するMISAHONO号から見つめ、これから上陸する宮池島に思いを馳せて居るのだった。

 とうとう南国のリゾートアイランド、トライアングル諸島の中核を担う宮池島へと真近な所まで辿り着いた山楽部御一行。まもなく上陸する宮池島には、どんな景色が、どんな綺麗な海岸が、どんな山々の自然が待ち受けているのだろうか。期待に胸を膨らませる御一行達。

 宮池島で過す3日間の親睦旅行は、島に上陸してからが本番である。その島での3日間の生活に、期待に胸を膨らませる御一行達。と言う事で、次回からは始まる島の生活で織り成す、山楽部一同の人間ドラマを楽しみにしていましょう~!!












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