第42話 鬼ヶ岳登山、「山頂バーベキューでの楽しいひと時」編

 恒例の山頂昼食パーティーを行いたい山楽部御一行は狭い山頂の鬼ヶ岳で唯一、5人が円陣を組んで座れる場所を発見する。その場所は山頂看板が立つ場所の所であるので当然ながら登山者が居る事が多い。

 先ほど写真撮影を依頼した中年夫婦の登山者も未だその場所に居て、景色を眺めたり写真を撮っている。だが人一倍、食に執着する山楽部の面々は、その人目が付く場所でも臆する事はない様だ。そして御一行達は、昼食ポイントの山頂看板の所へと一斉に移動して行く。

 御一行達が移動して来た事に気が付いた中年夫婦の登山者は、何々どうしたの? またここで記念撮影のお願い? と言わんばかりの表情を見せながら口を開いた。


「あら、如何しました? またお目に掛りましたね。何かご用件が有るのですか」

「わたし達、ここの山頂看板の前で写真を撮っていたところでした。もしかして、ここでまた記念撮影のお願いに来たのですか?」


 御一行達の顔を見るなり山頂看板の前での撮影お願いなのかと、すかさず問い掛けて来る中年夫婦の登山者。


「お取込み中にお邪魔してしまってすいません。先ほどは写真を撮って頂き有難うございました。いえいえ、再度の写真撮影のお願いをしたくて、ここに来たのではないのです。実は、この山頂看板の麓の所で5人が円陣を組んで山頂昼食パーティーを行おうと思いまして、この場所に来た次第です」


「はい、何ですと? この狭い場所で皆さんが昼食を取ると。しかも今゛パーティー゛と言いませんでしたか。山の山頂の、しかもこの狭い鬼ヶ岳の山頂で5人が集まってどの様な昼食を取ると言うのですか? 察するに、おにぎりを食べるとか、カップラーメンを食べるとかの簡単な物を食する訳ではなさそうですが」


「そうね武志の言う通り、パーティーと言うからには何か特別な昼食が用意されているって事じゃないかしら。一体、どの様な物を作るのか興味が湧いて来たわ。宜しかったら教えてくれると嬉しいのだけど」


 山岸先生が口にした゛パーティー゛と言う言葉に反応した中年夫婦の登山者は、興味津々な表情を見せながら、御一行達に詰め寄って聞いて来る。


「いや~私が口にしたパーティーと言う言葉が気に成りましたか。そちら様のお察しの通り私達はこの山頂で、おにぎりやカップラーメンのシンプルな物を食べる訳では無いのです。実はこの山頂で、バーベキューを執り行うのですよ!」


「おお~それは驚きましたな。山頂でバーベキューを行うと言うのですか。それにしても如何やって、この狭い山頂で焼いて食べるのですか? 鉄板も要るし食材だって沢山必要でしょう。通常は山頂では、そんな大掛かりな昼食は食べないですから、あなた達の言っている事が不思議でなりませんよ」


「山頂でバーベキューを行うなんて、予想だに出来なかったですよ。如何やって、そんな大掛かりな昼食を作って行くのか気に成って来ました。差し支えなければ、用意して行く様子を見させては貰えないでしょうか?」


 山頂でバーベキューを始める事を聞いた中年夫婦の登山者は、如何やってこの山頂で用意して食して行くのか興味深々の様である。その問い掛けに対して先生は笑顔を見せながら口を開く。


「私達は登山で訪れた山頂では、手分けして持って来た食材を使って夏場はバーベキューを行っているんです。食べるのも山の楽しみの一つだと考えているから、何時も山頂昼食を楽しみにして山登りをしてるのです。

 そちら様が、私達の山頂昼食風景を気に成り拝見したい様ですので、お見せしても良いですよ。これから用意して行くのでご覧に成ってください」


「そうですか、準備風景を見させて貰えるんですね。では、お言葉に甘えて見させて頂きますよ。何だかワクワクして来ましたよ」

「何だか無理やり押し付けてしまったみたいで申し訳ないですが、どの様に用意して来てるのか拝見させてくださいね」


「話は決まりましたな。どうぞ私達の山頂昼食の風景を見ていてください。では山楽部の諸君、昼食パーティーに入ろうとしようか!」


「はい、了解しました! 女性陣の方達、聞いての通りです。皆んなで手分けして準備に入りましょう~」

〚了解しました。手分けして昼食準備に入りましょう!〛


 隼人の号令の元、バーベキュー昼食の準備に入って行く御一行達。各々のザックを開けて、食材袋の中から食材を取り出すと手際よく準備を始める。

 野菜を切る者、未だ凍っている肉を取り出して橋で解して行く者、肝心かなめの火元となるバーナーを取り出しセットして行く者、フライパンを取り出してバーナーに置く者、各々が見事な役割分担で手際よく準備作業を熟して行く。

 その準備の様子を見ていた中年夫婦の登山者は、御一行達の余りの手際の良さに驚きの表情を見せながら口を開いた。


「あらまあ! こんなに食材とお肉を持って来て有ったのね。そうか~5人で手分けしてザックに入れて担いで来たんだ。それにしても手際が良くて驚いたわ。きっと、これまでに何回かの準備経験があったからなのね」


「バーベキューを行うと言っていたから、焼く為の鉄板は如何やって持って来ているのかと思っていたのですが……こうゆう事だったんですね。まさか、大小二つのフライパンを重ねて持って来て有ったとは。これなら最小限のスペースで焼く道具を持って来れると言う事ですな」


「そちら様は、私達が知恵を凝らして手分けして山頂まで持って来た、食材と道具の数々に驚いた様ですね。この様にして山頂に持って来れるのも、5人の人数が居るから出来る事なんですよ。食材と道具の準備も終わりましたから、これから山頂バーベキューを開催しますが、もう少し様子を拝見していかれますか?」


「これから、いよいよ山頂バーベキューが始まるんですね。ここまで拝見したら、実際に食して行くところも見たく成って来ましたよ。お言葉に甘えて食している所も見させて貰おうか、美幸!」


「そうしましょうか、お言葉に甘えてバーベキュー風景も見させて頂きましょうか。……でも、食べてる様子を見ていたら、わたし達も食べたく成ってしまうわね」


「そ、そうだな、確かに焼き出して良い匂いがして来て、食べるところを見ていたら、我慢が出来づに一緒に食べたく成ってしまうよな。それでは皆さんに迷惑を掛けてしまうから、この辺でお暇する様にした方が良いのかな……」


 中年夫婦の登山者は、食べて居る様子を見ていたら自分達まで一緒に食べたく成ってしまう事を危惧してしまうのだった。バーベキューが始まったら良い匂いも立ち込めるし、その匂いで食欲がそそられてしまうから無理も無いのである。

 その、2人のためらう様子を見ていた山楽部の面々だったが、その中で友香里が口を開き話し出した。





「あの~もうこうなったら、私達と一緒にバーベキューを食して行けば良いと思うのですが。このまま、食べづにバーベキューを行って居る所を静観して見ているなんて酷だと思うんです。お二方にも参戦して貰ってみては如何でしょうか、隊長!」


「おお〜そうだな沢井の言う通りだな。幸せそうな顔でバーベキューを食して居たら、見ている人も食べたく成ってしまうからね。幸い食材と肉は、いつも通り沢山の量が有るから大丈夫だろう。

 これはもう、お二方にもバーベキューに参戦して貰おうかな。どうでしょうか、そちら様が宜しければバーベキューを御一緒しませんか?」


 突然、友香里が口にしたのは、2人の登山者も一緒に山頂バーベキューに参加して貰ったらどうかと言う事だった。先生も、その提案に賛同して了解すると、中年夫婦の登山者にお誘いの言葉を掛けた。

 そのバーベキューへのお誘いを聞いた2人は、キョトンとした顔をしてお互いに顔を見合わせて暫くの間、考えて居たが、気持ちが決まった様で口を開いた。


「いや〜これはこれはお誘いを有難うございます。たまたま居合わせた私達を歓迎してくれて、そちら様のバーベキューに加えてくれるなんて嬉しい限りです。どうだね美幸、お言葉に甘えてバーベキューに参加してみる様にしようと思うのだが」


「ええ、貴方の言う通り、お言葉に甘えてバーベキューを御一緒させて貰いましょうか。この展望の良い山頂でバーベキューが食べれるとは、思いもよらなかったです。皆さんと一緒に楽しく過ごしたいと思いますので、宜しくお願いしますね!」


「快い返事を聞けて良かったです。では山楽部の諸君、このお二方にもバーベキューに参加をして貰う事に成ったから宜しく頼むぞ」


「はい、お二方の参加を歓迎しますよ。僕は山楽部の部長を務めています星野と言います。宜しくお願いします」


「私は、副部長を務めさせて貰っています沢井と言います。今日はお二方と山頂バーベキューがご一緒出来て嬉しいです。宜しくお願いします」


「わたくしは、如月と申します。山楽部の山頂バーベキューは、沢山の食材とお肉を用意して有りますから、お腹がいっぱいに成ると思いますよ。一緒に楽しく食べましょう~」


「この山の山頂で有ったのも何かの縁だと思うから、ここで一緒にバーベキューを共にする様に成っていたと言う事ですね。お二方の事を歓迎しますよ。あたしは杉咲と言います。宜しくお願いします!」


 メンバー達も口々に歓迎の言葉を述べるのだった。その快い返事を聞いた中年夫婦の登山者は満面の笑みを浮かべて答えるのだった。


「皆さんが、私達の事を歓迎してくれて嬉しいです。こちらこそ宜しくお願いします。参加する事が決まったら急にお腹が減って来ましたよ」


「わたし達を歓迎してくれて有難うございます。皆さんとバーベキューを楽しみたいと思いますので、宜しくお願いしますね」


「そちら様の参加を歓迎しますよ。では、バーベキューを始めようと思いますが、お二方は私の右隣りに座ってください」


 先生から声が掛かり、指定された場所に座って行く中年夫婦の登山者。そして、メンバー達も次々と円陣を組んで座って行く。この狭い山頂の僅かな平坦な場所にコンパクトにまとまった7人は、いよいよバーべキューを食する事となる。


「皆さん、円陣を組んで座り終えましたね。では、山頂バーべキューを開催したいと思います。皆さんお手元の飲み物の入ったコップをお取りください!」


 先生から、お茶やジュースの入ったコップを持つ様にと声が掛けられて、皆んなは一斉に手に取って行く。


「はい、これより山頂バーベキューを開催します。こちらにおられる、お二方も交えて、皆んなで楽しく食して行きましょう。それでは~乾杯!!」

〚楽しく食べましょう! 乾杯~~!!〛


 先生の乾杯の音頭と共に、一同から乾杯の声が上がり、山頂バーベキューの火ぶたが切って落とされる。バーナーに火がともされて熱せられた2つのフライパンに、次々と野菜とお肉が投入されて行く。各々は、自分が投入したお肉と野菜をじっくりと温めて、良い焼き加減の頃合いを見計らって箸で掴むと次々に口の中に入れて味わって行く。

 焼いては食べ、また焼いては食べて、皆んなは幸せな表情を見せながら食して行くのだった。そしてバーベキュー開始から僅か30分後、野菜とお肉をほぼ完食して残すは締めの、焼きうどんのみと成ったのである。


「まさか山の上で、本格的なバーベキューを食べる事が出来るとは思ってもみなかったですよ。いや〜山を登って消耗した体力を回復するには食べるのも大事な事ですからね。バーベキューはその点では持って来いですよね!」


「旨いお肉と野菜を沢山食べれて、凄くお腹がいっぱいに成りましたよ。これで体力も回復したから、この後の登山にも立ち向かえそうですよ。ああ〜美味しかったです!」


「これはこれは、お二方は大分、満足された様ですね。我が山楽部の山頂バーベキューを堪能出来た様で良かったです。あっ! それはそうと、未だ食べる物が有りますよ。締めの、焼きうどんを焼く作業に入りましょう」


「おお〜未だ食べる物が有ったんですね。締めに、焼きうどんとは、これはまた楽しみなメニューではないですか。これは頑張って食べなければいけませんな」


「やはり、締めのメニューが有ったんですね。わたしは定番の焼きそばかと思っていたのですが、焼きうどんとはまた違った嗜好のものを食べれて嬉しいですね」


「そうですね今日は、いつもと違ったメニューにした方が良いと思いまして、焼うどんにしてみたのですよ。星野くん、君が持って来た食材袋を開いて、焼うどんを取り出してくれたまえ!」


「はい、僕が担いで来た焼うどんを、焼かせて頂きます。定番の醤油味ですから、あっさりとした味が楽しめそうですよ」


 沢山の野菜とお肉を食べ終えて、お腹がいっぱいに成った中年夫婦の登山者だったが、締めの焼きうどんが有る事を聞かされて、食べる気満々と成っった様だ。そして隼人が持って来た食材袋が開かれて行き、締めの焼うどん作りが始まって行く。


「まづは野菜をカットしなければですね。人参は、わたくしが切りますから、華菜はキャベツを、友香里は小松菜をカットしてください」


「オッケー、キャベツと小松菜は私と華菜にお任せ有れ!」

 女子達は、見事な連係プレーで瞬く間に野菜をカットし終えると、素早くフライパンへと投入して行く。


「はい、野菜を投入したわ。隼人、手早く野菜を炒めるのよ!」

「了解! 既にお肉は焼けて来ていますから、良いタイミングで野菜が投入されましたね。僕が腕を奮って美味しい焼うどんを完成させますよ」


 隼人は率先して焼きうどんを調理して行く。野菜とお肉の焼け具合を見計らって、うどんを投入すると混ぜ合わせて焼き上げて行き、一気に完成させるのだった。


「はい、焼きうどん一丁あがり! 名付けで隼人スペシャル゙です。お召し上がりください!」

 隼人は得意げな顔を見せながら、完成した焼きうどんの入ったフライパンを皆んなの前に差し出した。


「星野さんと言ったかな、手際よく調理をしましたね。ふっくらと焼き上がった感じが食欲を掻き立たせてくれますな。今すぐにでも食べたい位だよ」


「うどんの上に掛けた鰹節から、凄く良い匂いが漂ってくるわ。焼き上がりの色合いも良くて、食欲が増して来たから何だかお腹が減って来たわ。早く、皆んなで食べ始めましょう!」


 隼人が作った、焼きうどんの見事な出来栄えと香ばしい匂に刺激を受けた中年の夫婦は、食欲をそそられてお腹が減って来た様である


「星野にしては、上手く調理が出来たんじゃないかな。見事な出来栄えで、お二方から早く食べようと声が掛けらているよ。では早速、焼きうどんを食して行こうではないか!」


 先生から声が掛かり、一同は焼きうどんを一斉に食して行く。それまで食べて来た野菜とお肉で、お腹がいっぱいに成っていたハズなのだが゙デザートだけは別腹゙ならぬ゙締めのメニューは別腹゙状態に成ってしまった様である。

 皆んなは、その空白の出来たお腹を満たす為に、一心不乱に焼きうどん食べて行く。そして僅か5分後には完食してしまい、残った物はお皿とフライパンのみと成ったのである。


「やはり、締めのメニューは別腹だと言う事なのかな。皆んな、豪快な食いっぶりだったね。星野の調理した焼きうどんは本当に美味しかったよ。これなら山楽部の調理長に任命しても良いんじゃないかな」


「そうね隊長の言う通り、これだけ上手に調理が出来るなら調理長に任命しても良いんじゃないかしら。隼人に以外な才能が有った事に驚いたわ!」


「こうなったら、部長と兼任して山楽部調理長も務めて貰った方が良いわね。あたしは、そう思うんだけど、皆んなの意見はどんなものかしら?」


「わたくしも賛成ですわ。隼人は料理の才能も有りそうだから、調理長を襲名しても良いんじゃないかしら」


「うん、華菜の言う通り隼人が料理長で良いと思うわ。今後の山頂昼食の時は、隼人に率先して調理をして貰いましょう。そう言う事で私達、女性陣の意見がまとまりました。隊長、隼人に料理長を襲名して貰う事で良いでしょうか?」


「そうだな、調理で見せてくれた手際の良さと、出来上がった焼きうどんのクオリティの高さは特筆に値するから、料理長として相応しいのではないかな。星野は学級委員長、山楽部部長&料理長の3つの大役を務めて貰う様に成り大変では有るが、君ならこなして行く事が出来るだろう。だから、料理長の襲名を宜しく頼むよ!」


 隼人の見事な手さばきで出来上がった焼きうどんを堪能した先生と女子達から称賛の声があがる。そして、その腕前を見込んで料理長に襲名して欲しいと声が上がった。その言葉を聞いた隼人は目を丸くして驚いた表情を見せて居たが暫くの間、考え込んだあと口を開いた。


「皆さん、たまたま調理をしているところを見ただけで、僕に料理長に襲名して欲しと言うなんて驚きましたよ。先ほどの焼きうどんが余ほど美味しかった様ですね。まあ、そんなに褒めらてしまっては僕も後には引けないですよ。

 分かりました、ご期待に応えて料理長を引き受けますよ。今後の山楽部での調理は僕が率先して行います。でも、女性陣も調理の方のサポートを宜しくお願いしますね!」


「よし、よく言った! 流石は星野だけの事はある。勿論、君の調理の腕前を買っての事だから、皆んなからの期待の大きさが分かると言う事だよ。頑張って務めてくれたまえ!」


「これで隼人の料理長襲名は決まりね。今後の料理長としての活躍に期待しているわよ」

「いよっ! 隼人料理長。今後の山頂昼食での腕前を見させて貰うわ」


「隼人は、皆んなからの信頼を一身に受けているわね。それだけ隼人には、力量と技量が有るからだと思いますの。これからの活躍を期待していますね」


 先生と女子達からの熱いエールを受けた隼人は、恥ずかしそうな顔を見せながら、任せろとばかりに大きく頷くのだった。そして、その様子を見ていた中年夫婦も話しだした。


「彼の作った焼きうどんは絶品の旨さでしたからな。これからも、山頂昼食で調理の腕を奮って行ったら良いでしょう。部長と調理長を部活内で兼任して行くとは、これから大変ですな」


「星野さんと言いましたかね、美味しい焼きうどんを頂きましたよ。それに貴方は、学級委員長も務めているなんて凄いと思いますよ。周りの人達からの人望も厚いからこそ、役の要請も来ると言う事ですよ。だから皆んなの期待に応える為にも3つの役を頑張って熟して行ってくださいね!」


「星野よ、お二方からも頑張りのエールを貰って良かったな。皆んなの期待に応えられる様に部長と料理長、学級委員長の役を頑張って務めてくれたまえ」


「お二方からのエールも受け取りましたよ。皆さんの期待に答えられる様に頑張って行きますね!」

 一緒に居合わせた中年夫婦からもエールを貰った隼人は、より一層期待に答えられる様に気を引き締めて居るのだった。


「では、美味しいバーベキューも終わり、目出度く料理長も決まった事だから、そろそろ後片付けを始めるとしよう。皆んな、片付けに入ってくれたまえ!」


「私達も、食べさせて貰ったお礼と言っては何なんですが、後片付けの方も一緒に手伝わせて貰いますよ」

「美味しいバーベキューを食べさせて貰い有難うございました。後片付けも一緒に手伝いますね」


 先生の掛け声と共に、一斉に後片付けに入って行く山楽部御一行と中年夫婦の登山者。もう何度も山頂昼食後の片づけを行って来てるので、いつも通りの手際の良さで手分けして行動して行く山楽部御一行。中年夫婦もメンバー達に手ほどきを受けながら、和気あいあいと一緒に片付けをして行く。

 その2人の協力もあった為、なお一層のスピードアップがはかれて行き、あっと言う間に後片付けが完了するのであった。


「よ~し、後片付けが完了したな。お二人さんがお手伝いしてくれた事も有り、速やかに終える事が出来ました。有難うございました!」


「いえいえ、楽しく皆さんと山頂でバーベキューを共にさせて頂いたのだから、片づけを手伝うのは当然の事ですよ。こちらこそ、有難うございました」


「美味しいバーベキューを食べさせて貰ったんですもの、主人の言う通り片づけをお手伝いするのは当然ですよ。思いがけづ、バーベキューを共に出来て本当に良かったです。登山での良い思い出に成りました!」


「お言葉を有難うございます。たまたま居合わせた山頂で、こうして一緒に食事を共に出来た事を光栄に思います。お二方も、満足して頂けた様で本当に良かったですよ。それでは私達は、これから鍵掛峠を経由して癒しの里へと下山を開始します。そちら様は何方へ下山なさいますか?」


「はい、私共は雪頭ヶ岳に行き展望を楽しんだ後、癒しの里に下山をします。最終的には同じ場所へと着く様ですから下山したら、またお会いするかも知れませんな」


「そうですか、雪頭ヶ岳に行く登山道から下山するのですね。そちらの山頂は富士山と西湖を眺める絶好の展望台と成っていますよ。存分に展望を楽しんでから下山してください。では私達はこれで下山を開始します。皆んな、登山装備の装着は完了しているかな?」


〚はい、登山装備の装着は完了してます!〛


「よし、皆んな準備はオッケ―だな。それでは、鍵掛峠に向けて出発するとしよう!」

〚了解しました。鍵掛峠に向けて出発します!〛


 中年夫婦の登山者に会釈をした後、掛け声と共に下山を開始して歩き出して良く山楽部御一行。この山頂から西側に伸びている登山道を降りて行き一路、中継地点の鍵掛峠を目指して行くのである。

 すると、その時! 御一行達が下山道に足を踏み入れた時であった。「ちょっとお待ちください!」と、呼び止める声が後方から掛かったのだ。御一行達が振り向くと、中年夫婦が笑顔で近寄って来て話して来た。


「あの〜下山する前に自己紹介がてら、お渡ししたい物が有ります。ここで会ったのも何かの縁ですからね。私達はこう言う者でして、名刺を渡しておきますよ」


「そうしましょう、貴方の言う通りここで会ったのも何かの縁ですから名刺を渡して、わたし達の事を知って貰っておきましょう!」


 振り向きざまに近寄って来た中年夫婦は、自分達の事を知って欲しい様で、ポケットから名刺を取り出すと山岸先生に手渡すのだった。受け取った先生は、まじまじと名刺に見入って行く。


「どうもご丁寧に名刺を有難うございます。山梨県の北杜市で[ペンション花の妖精]を経営されている前田さんと言うのですか。これはまた自然豊かな場所でペンションをお持ちなのですね。そんな素敵な場所で泊まってみたいものですよ」


「そうなのです、木々に囲まれた自然豊かな場所でペンション経営をしています。始めてから10年に成るんですよ。家内と一緒に楽しくペンションを切り盛りしています。

 今週末は、久しぶりに宿泊者が居なかったものですから、今日は鬼ヶ岳登山に来れたと言う事なんですよ。宜しかったら一度、私どものペンションに宿泊してみては如何ですかな」


「これはこれは、お誘いを頂いて光栄です。また機会が有れば、そちら様のペンションに泊まってみたいものですな。……そうだ、私も挨拶がてら名刺を渡しておきますよ。取り出しますから、少々お待ちくださいね」


 渡された名刺を見て、ペンションを経営している前田さんだと言う事が分かり、にこやかな表情を見せる先生。そして先生も自分の事を知って貰おうと、財布の中に入れて有った名刺を取り出すと、前田さんに手渡すのだった。


「私は清流学園高校の教員を務めています山岸と申します。山楽部の部活顧問も務めております。宜しくお見知りおきをお願いします」


「清流学園で教鞭を振るっておられる山岸良太さんと言うのですね。まだお若い先生で、清々しくて良いですな。また、機会が有れば何処かで会う時も有ろうかと思いますので、こちらこそ、宜しくお願いしますよ」


「そちら様の部活動は、今年度に出来たばかりと聞きましたよ。お若い部員さんに、お若い顧問の先生が就いていらっしゃるから、新しく発足した部活らしいフレッシュな感じがして良いんじゃないかしら。皆さんの力で、これから部活を盛り上げて行ってくださいね!」


「お言葉、有難うございます! まだ発足したばかりの山楽部ですが、若い力を結集して部を盛り上げて行く所存でおります。また縁が有れば、お会いする事が有るやもしれませんね。その時が来る事を信じておりますので、そちら様もお元気でいてください。

 道中お気を付けて。それでは私達は、これにて失礼致します。では山楽部の諸君、下山を開始しようではないか!」


〚はい、下山を開始しましょう。そちら様もお気を付けて!〛


「またお会い出来る事を楽しみにしてますよ。お気を付けて下山してください」

「下山の方が危険を伴いますから、十分に気を付けてくださいね。それでは、わたし達も下山を開始しましょう、武志!」


 先生も名刺を前田夫妻に渡し終えて、お互いに名刺の交換を済ませ終える。そして、今後にまたお互いに会える事を信じつつ、お互いに分れの言葉を告げると、自分達の進む下山ルートへと歩んで行くのであった。同じ登山と言う趣味を持つ者同士、山頂や小屋などで初対面で会ったにも関わらず、意気投合して話してしまう事はよく有る事なのです。

 山楽部御一行と前田夫妻の山頂での交流も、山の自然と景色の中で過ごすうちに気持ちがおおらかに成り、まるで知り合い同士で有るかの如く、和気あいあいに過す事が出来たのではなかろうか。





「よし! いよいよ登山道に入るよ。ここから鍵掛峠までの稜線は、急斜面あり、岩場あり、ロープ場ありの変化に富んだルートです。安全面に配慮しながら、各自がこの稜線ルートを乗り切って行ってくれたまえ!」


〚了解ましたした。十分に気を付けながら、稜線を降りて行きます!〛


 先生から、変化に富んだ稜線に突入すると声が掛けられて、メンバー達も緊張した面持ちで登山道を降りて行く。降り始めると直ぐに現れるのは、小石がむき出しに成っている急な斜面の登山道である。とても滑り易く、ちょっとでも気を抜くと登山靴が滑ってしまい転んでしまう危険性が有るのだ。


「皆んな聞いてくれたまえ。ここの登山道は小石がむき出しに成っているから、とても滑り易い斜面なんだ。ここは慌てず歩幅を短くして小刻みに、ゆっくりと慎重に降りて行った方が良い。少しでも気を抜くと転んでしまうからね!」


「これは滑り易い斜面ですね! これならゴツゴツとした岩場を降りて行った方がましな位ですよ。隊長の言う通り、歩幅を短くして小刻みに足を運んで降りて行きましょう」


 先生と隼人から安全に下山する為に、慎重に少しずつ降りて行く様にと注意が促されて、女子達も真剣な面持ちで滑り易い登山道を降りて行く。


「これは滑り易いわ! ちょっと気を抜くと、直ぐに登山靴が滑りそうだわ。やはり、歩幅を短くして小刻みに降りて行った方が良さそうね」


「そうね、歩幅を短くして降りるのが得策だわ。ただ、こうやって降りると、よちよちと歩いてしまうわ。この歩き方って何かの動物に似ていないかしら? ……そうだ分かったわ。この歩き方はペンギンよ、ペンギン!」


「華菜の言う通り、ペンギンの歩き方ですわね。確か、高根山の時に先生から伝授された歩き方でしたわ。こうゆう時は、ペンギンさん歩きをすれば、この様な滑り易い登山道も克服出来ると言う事なのですね」


 不安定で滑り易い急な登山道を降りて行くにばペンギンさん歩ぎが最適だと気づく女子達。この歩き方は、高根山を登る時に体力消耗を最小限にする歩き方だと言う事で、先生がメンバー達に教えた歩き方であった。

 この、歩幅を少なく体力消耗を抑える歩き方は下山する際にも有効で有り、滑り易い登山道においては足を滑らすのを抑制する効果も有るのだ。メンバー達はペンギン歩きを実践して行き、しっかりと地面を踏み締めながら、ゆっくりと登山道をお降りて行く。

 そして山楽部御一行達は、この歩き方が功を奏したのか一人も滑って転ぶ事無く、下山し始めて現れた最初の難所をクリアして降り切ったのだった。


「皆んな、滑らずに降りる事が出来て素晴らしかったぞ! この歩幅を短くして歩くペンギンさん歩きは、体力消耗を防ぐ効果も有るし、足を滑らす事を抑制する効果も有ると言う事なんだ。この様な滑り易い斜面を下山する事は、今後に行く山々の登山道にも有る事だから、今の経験を今後の糧として欲しいと思う」


「無事に一人も転ぶ事無く降りれる事が出来ましたね。隊長が教えてくれた、ペンギンさん歩きのお陰で事無きを得ましたね。この歩き方は、この様な滑り易い斜面でも効果が有る事が分かりましたよ!」


「このペンギンさん歩きでの降り方は、下山で滑らない様にするには効果的な降り方だと言う事が分かりましたよ。今後の登山にも役立てて行きましょうね」


「隊長が教えてくれた歩き方は、疲れを軽減してくれて、足を滑らすのを防ぐ効果も有るのですね。この歩き方を、これからも実践して行き、安全に登山道を下山出来る様にして行きますわ」


「小石がゴロゴロしているから、登山靴が踏ん張りが効かなくて、ちょっとでも気を抜くと転んでしまうところだったわ。これも、ペンギンさん歩きを実践したお陰だわね。とにかく第1関門を突破したと言うところかしら。この調子で、この先の稜線歩きも頑張って行きましょう!」


 先生から伝授されていた゛ペンギンさん歩き゛を実践して、滑り易い急な斜面を降り切った事でメンバー達は安堵の表情を見せる。そして、その安堵感にしたって居るのもつかの間、先生はこの先の稜線を指さしながら口を開く。


「まだ、第1関門を突破したに過ぎないよ。この先は険しい岩場も多く、ロープが張り巡らされている箇所も有るんだ。この後も難所が控えているから、くれぐれも気を抜く事無く登山道を降りて欲しいです。では早速、岩場の稜線歩きに突入するから、皆んな私に付いて来なさい!」


「間髪入れづに早速、進撃命令が隊長から出ましたよ。皆さん、隊長に遅れる事無く十分に安全面に配慮しながら、岩場の稜線歩きへと進んで行きましょう!」


〚了解です! 岩場の稜線歩きに向かいます〛


 先生と隼人から声が掛けられて、女子達の大きな掛け声と共に岩場の稜線歩きに突入して行く山楽部御一行。ここから先の鍵掛峠までは、急な斜面の上に険しい岩場に掛けられたロープを伝って降りて行く難所も有り、気を抜く事は出来ないのである。

 歩き始めると直ぐに、ゴツゴツとした岩場の間をすり抜ける様にして登山度を降りて行く御一行達。そして15分ほど歩んで行った時であろうか、周りの木々が無くなり目の前の視界が開けて来て、見通しの良い岩場の上に一同は到着する。

 その岩場はV字状の様に裂けており人がやっと通れるほどの隙間しかなく、しかも急な崖上の斜面と成っている。ゆえに、狭い崖斜面に成っているので降りて行く為の補助ロープが張り巡らされていたのである。


「お~し! 遂に第二関門が現われたな。この狭い急な岩場を降りて行く為には、このロープを伝って降りて行く様に成る。皆んな、高根山の急斜面のロープ降りを思い出すんだ。しっかりと気を引き締めて、ロープを伝いながら降りて行く様にしなさい!」


 山岸先生は第二関門のロープが張り巡らされた岩場を降りて行く為に、メンバー達に高根山のロープ降りを思い出して降りて行く事を告げる。そして間髪を入れづに、直ぐさまロープを掴んで降りて行く先生。


「このレベルの急斜面に成ると後ろ向きで降りるのが適切だ。皆んな、私の降り方を手本にする様に。私がロープを降りたのを確認したら、次の人が降りて来るんだ!」


 先生はロープを掴みながら後ろ向きに成って岩場に足を付きながら、スルスルとV字状になった岩場を降りて行く。流石は登山のベテランだけ有って、崖斜面のロープ降りをものともせづに第二関門の岩場降りを完了する。


「よ~し! 私は降りるのを完了したぞ。これから先も一人が降り切ったら、次の人が降りて来る様に。では、次は杉咲だな。ロープをしっかり掴んで足元を良く見ながら、岩場にしっかりと足を着いて降りて来る様に!」


「は~い! 杉咲華菜、ロープ降りを開始します」

 先生から激励の言葉を貰った華菜は、後ろ向きでロープを掴むと岩場を降り始めてて行く。


(あの高根山の崖斜面を降りた時の様に降りて行けば良いのね。後ろ向きでしっかりと岩場に足を着きながら、ゆっくりと降りて行くのよ。そうそう、安全に降りて行く為には、冷静沈着が大事だわ!)


 華菜は、急な岩場のロープ降りでも動揺する事無く、慌てづに足を着く場所を確認しながら岩場を降りて行き、先生の待つ場所へと到着する。


「あたしは何とか降り切ったわ。次は穂乃花の番よ! 足を着く場所をしっかりと見極めながら降りて来ると良いわよ」


「アドバイスを有難う華菜! わたくしも降り始めますわ」

 華菜からアドバイスを貰った穂乃花は、手を挙げて合図するとロープを掴み降りて行く。


(うわ~岩場と岩場の間が凄く狭くて、身体がやっと通れるくらいだわ。ここで足を滑らしたりしたら、体も岩に当たってしまうし、足だってぶつけてしまうわ。華菜の言う通り、足をしっかりと着く場所を見極めて行く様にしましょう)


 穂乃花は、ゆっくりと岩場に足を着く場所を見極めながら降りて行く。そして順調にロープを伝って降りて行き中間地点を過ぎた時であった! 

「キャー! 足が滑ったわ。痛ーーい!!」


 と、大きな叫び声と共に、穂乃花は岩場に着いた足を滑らせてしまう。崖斜面の岩場なので足を滑らせた結果、穂乃花はロープを掴みながら岩場で宙吊り状態の様に成ってしまう。逆に考えれば、ロープを掴んで手を離さなかった為、滑落を免れたと言う事なのだ。その様子を下で見ていた先生が声を上げる。


「如月、大丈夫か! そのままロープをしっかり掴んだ状態を維持しながら足元を良く見て、安定した岩場の箇所を見極めて再度足を着くんだ!」


「はい、分かりました! 落ち着いて足元をよく見て、しっかりと安定している場所に足を着きます」


 先生からアドバイスを貰った穂乃花は、ロープをしっかりと握り締めながら足元に目を注ぐ。そして、安定して足を着ける岩場の窪みを見つけた穂乃花は、両足をゆっくりと着いたのであった。


「よし! しっかりと両足を着けた様だな。それで良いぞ! では、ゆっくりと足元をよく見て降りて来るんだ」


 穂乃花は両足を着けた事で、宙吊り状態を回避する事に成功する。そして大きく深呼吸して気持ちを落ち着かせた後、しっかりとロープを握り締めて、ゆっくりと足を着きながら岩場を降りて行き、先生と華菜の待つ場所まで降りて来たのである。


「ふう~何とかこの岩場を降りる事が出来ましたの。足を滑らして宙吊り状態に成った時は、どうなる事かと思いましたわ。でも、そんな時こそ冷静に落ち着いて行動する事が大事だと言う事が分かりました」


「如月、足を滑らせた時に強打していた様だが、身体には怪我は無く大丈夫かな?」

「身体の方は大丈夫? 擦りむいた所はないかしら。今一度、身体が問題なく動くか、痛い所が無いか見て欲しいわ!」


 先生と華菜は降りて来た穂乃花を心配そうな表情で向かい入れ、身体に怪我がないか問い質す。すると穂乃花は、足を屈伸したり両手をグルグル回したりして、自分の身体に異常がないか様子を伺う様子を見せるのだった。


「足を滑らせた時に腿とお腹をぶつけましたけど、足もちゃんと動くし身体も自由に動かせます。……ただ、流石に強くぶつけた腿が痛いです。それと、ぶつけた辺りのタイツが切れかかっていますの。まあ、このタイツが怪我を防いでくれたと思えば良しとしますわ」


「そうか、とにかく大きな怪我に成らなくて良かったよ。タイツは擦り切れてしまった様だが、この布1枚が怪我を防いでくれたと言う事だな」


「流石にぶつけた所は痛みが有る様だけど、大きな怪我では無く大事に至らなくてよかったわ。ホッと一安心と言ったところね」


 穂乃花はぶつけた所の痛みが有るものの大事には至らなかった様で、その場に居た3人は顔を見合わせながら安堵の表情を見せる。そして、穂乃花の安全を確認した先生は、崖の上で待機している友香里と隼人に声を掛けた。





「お~い! 2人共聞いてくれ。如月はぶつけた腿に痛みは有る様だが、大事には至らなかった様だ。安心してくれたまえ! では、岩場を降りるのを再開するんだ。次は沢井だな。足元をしっかり見ながら岩場に着く場所を見極めて慎重に、ゆっくりと降りて来るんだ」


「友香里! 中間地点に有る左側の岩場が滑り易い様ですわ。だから出来るだけ、右側の岩場の方に足を着いた方が安全だと思いますの。慎重に降りて来てください!」


「分かったわ! アドバイスを有難う。特に中間地点が滑りやすそうね。その辺りは慎重に足を着く場所を見極めて降りて行くわね」


 先生と穂乃花からアドバイスを貰った友香里は、顔をポンっと叩いて気合を入れると、ロープを掴んで岩場を降り始める。


「友香里! 穂乃花の言う通り、中間地点の岩場を抜ける時に十分気を付けて、安全に降りてくださいね」

 降り始めた友香里に、激を飛ばして励ます隼人。その励ましを受けた友香里はニッコリと微笑むと、ゆっくりとしたスピードで岩場に足を着きながら降りて行く。


(うわ~岩場に挟まれて降りるから、本当に圧迫感が有って精神的に参るわね。この辺りが穂乃花が足を滑らした中間地点だわ。ここは一度動きを止めて、足を着く場所の確認ね。……左側の岩の方は苔が付着している様ね。これでは滑るのも無理は無いわ。やはり右側の窪んだ所に足を着くのがベストだわ)


 友香里は中間地点に来た時、左側の岩場に苔が付着しているのを見つける。どうやら穂乃花が足を滑らしたのは、この苔が有ったからの様である。友香里はその苔の有る場所を避けて、右側の岩場の窪みに足を着いて慎重に降りて行く。そして足を滑らす事無く、無事に難所の岩場を降り切ったのであった。


「良かった~足を滑らす事無く、降りて来れたわ。しかし、中間地点の岩場は緊張したわよ。岩に苔が付着していたのを見つけたのよ」


「下から見て居てヒヤヒヤしたけど、友香里が何事も無く岩場を降りて来れて良かったわ。ホッと一安心ね!」


「やはり、わたくしが足を滑らした岩場には、滑る原因の苔が生えていたのね。どうりで滑る訳だわ。この事を、隼人にも知らせた方が良いですわ」


「何事も無く降りて来れて安心したぞ。そうか、やはり滑る原因の苔が付着していたと言う事か。如月の言う通り、この情報を上に居る星野に届けて上げるんだ、沢井!」


 足を滑らす事無く岩場を降り切った友香里を、安堵の表情を見せながら迎える先生と華菜、穂乃花。どうやら滑る原因が苔に有った事を突き止めた様で、その情報を隼人に届ける様にと促された友香里が声を上げる。


「隼人、良く聞いて! 穂乃花が足を滑らせた原因は岩に付着していた苔に有る様なの。その場所を避けて右側の岩に足を着く事が得策だわ。だから中間地点に来た時は一度止まって、足を着く場所を見極めてから慎重に降りて来てね!」


「分かりました! 情報を有難うございます。中間地点の岩場には苔が付着している箇所が有るんですね。その情報を元に、慎重に足を着く場所を見極めて岩場を降りて行きますよ」


 隼人は友香里からもたらされた情報に感謝の言葉を送って笑顔を見せると、ロープを握り締めて岩場を降りて行く。


(友香里から、良い情報を貰えて良かったよ。まさか苔が岩に付着しているなんて。でも滑る原因が分かった事は、最後に降りる自分にだからこそ知り得た事なんだ。その情報を得たからには、滑らずに岩場を降りて行くんだ。

 よし! 中間地点に来たから一度止まって安全確認だ。……なるほど、確かに左側の岩場には苔が有るよ。その場所を避けて、この右側に有る岩の窪みに先ずは右足を着いたら、次にその下に有る岩に左足をついてっと! うん、これでそのまま下に降りて行けば大丈夫だ)


 隼人は事前にもたらされた情報を元に、苔の有る岩場を避けて足の付く場所を見極めながら降りて行き難所の岩場降りを通過して、待ち構える先生と女子達の元へと辿り着いた。

 先に降りた人が知り得た登山道の危険情報を、後から降りて来る人へと伝えるのは大事なのである。それにより、他の人が再び危険な目に合わない様にする事が可能に成るからなのです。


「ふう〜足を滑らす事なく、安全に降りて来る事が出来ました。これも、先に降りた人から登山道の状態や様子を聞けた事が良かったからですよ。有難うございました!」


「無事に到着出来て良かったわね。隼人が最後に降りて来たから、この岩場の危険情報を1番知り得ていたと言う事ね。その事が功を奏したのよ」


「そうそう華菜の言う通り、最後の人が情報を沢山知り得てから降りられるから、得をしてると言う事よ。それで滑って転んだりしたら恥ずかし事に成ってしまうわ。まあ、先に降りた私達に感謝しなさいね!」


「後から降りて来る人に、わたくしが身を持って危険個所を教えた形に成りましたの。だから結果的に他の人の為に身体を張った様なものね。自分はぶつけた所が痛いけど、皆さんの安全に貢献が出来たと思えば良いですわ」


「何だか僕がズルをして、岩場を降りて来た様な感じの言われ方をしてますね。でも、最後に降りて来た人の特権の様なものだから良しとしてください。先に降りて情報をくれた女性陣には感謝しております!」


 難所の岩場のロープ降りを終えた隼人だったが、最後に降りて来た人は危険情報が沢山得られている事を、皮肉交じりに言われてタジタジに成っているのだった。その様子を見ていた先生は、隼人を擁護する様に話し出した。


「まあまあ、そんなに星野を攻めるのは止めなさい。登山は細い登山道を通って行く訳だから、横一列に並んで降りれる訳では無いからね。縦に隊列を組む関係上、最初の方に歩く人は危険個所に遭遇する確率が、どうしても高く成ってしまうんだ。

 先に歩く人は身を持って危険と向き合い、危険な情報を後方に居る人に伝える事の役割も担っているからね。だから後方に居る人は危険情報を有難く受け取って、安全に登山を遂行して行く様にするんだ!」


「隊長ったら、隼人に助け船を出したりして優しいのね。今の話を聞いて居ると、やはり一番最後の人は危険情報を仕入れて登山出来るから得をしていると言う事ね。隼人はいつも最後尾を務めているから、羨ましい限りだわ」



 いつも隊列の最後尾を務めている隼人が危険情報を一番得ている事を、華菜は羨ましそうな目つきで見ているのだった。その痛い視線を受けた隼人は困った顔を見せて居たが暫くの間、考え込んだあと口を開いた。


「そんなに、ひがんだ顔で僕を見ないでくださいよ。確かに一番後ろに居る人は登山では危険情報を得やすいですよね。まあ僕は、サブリーダーとして最後尾を任されているから、その辺はご理解してください。

 それか……どうでしょう、次に難所が有った時は、僕は隊長の後に付いて歩いて行くと言う事で如何でしょうか? 今度は僕が、身を持って登山道の危険情報を皆さんにお伝えしますよ!」


「へえ~良いんじゃないかしら。そうよね、たまには隊列の前の方を歩いて身体を張って得た情報を、あたし達に教えくれると有難いわ!」


「何だか、華菜からの圧に負けてしまい、隊列の前へ行く宣言をしてしまった感じね、隼人。まあでも、たまには隊列の前で難所をいち早く体験してみると良いと思うわ」


「華菜から、上目遣いに睨まれてる隼人の顔が印象的だったわ。友香里の言う通り、華菜の圧に負けてしまった様な感じだけど、率先して先陣を切りたいと言うんだから頼もしいと思いますの」


 隼人は、いつも隊列の最後尾に居るのではなく、自分も先陣を切って難所に向かう事を告げる。すると女子達から温かい歓迎の言葉が発せられて、その場には和やかな雰囲気が漂って行くのだった。


「良かった良かった。隊列の順番の事で険悪な雰囲気に成るところだったが、星野から時には先陣を切る宣言が出たので事なきを得た様だな。この先にも難所が有るかも? 知れないから、その時が来たら星野が先陣を切ってくれたまえ」


「もしかしたら、この後も難所が待ち受けているんですか? 隊長の意味深な言葉が気に成るんですが、本当にその様な場所が現われた時は僕が先陣を切らせて貰いますよ」


「これは頼もしい言葉を聞けて良かったぞ。その時が来たら宜しく頼むぞ、星野! それでは難所のロープ降りも終わった事だし、分岐点の鍵掛峠を目指して下山を再開しようではないか。では皆んな、出発するぞ!」


「では女性陣の皆さん、頼もしい男性陣がこの先の登山道もエスコートして行きますよ。出発しましょう!」

〚はい、エスコート宜しくお願いね。まづは鍵掛峠を目指して出発~!!〛


 女子達の高らかな掛け声と共に、分岐点である鍵掛峠を目指して再び歩き始めた山楽部御一行。先生が意味深に口にした、この先に難所が有るかも? の言葉が気に成るところではある。

 一体どの様な難所が待ち構えているのか、それとも何か名所の様な場所が有るのか? それは次回のお楽しみと言う事で、今後の御一行達の動向を見守って行きましょう~!!










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