第6話 ギャル刑事を殺したホシ

 2021年5月15日

 富樫は大久保にある武藤探偵事務所で働いていた。出会ったときは若々しかった彼も、6月で60歳になる。

 ソファでボストンタイプの眼鏡をクリーナーで拭いている。

 彼にはウィリアムソンティーを土産として買った。

 ウイリアムソンティーは140年以上前からある歴史あるイギリスブランド紅茶。茶葉はケニアの直営農場で作られている高品質なブランドだ。

 残っているのはミルクによく合うブレックファーストと香りのいいアールグレイだ。

 可愛い象のイラストの缶が特徴的だ。

「武藤さん、白髪ぐらい染めたらどうです?」

「最初は染めてたが、金がかかるし面倒くさいからなぁ」


 警視庁特命捜査対策室で働く内向的な刑事の犬飼は、街へ出て捜査するよりもデスクワークを好む男であり、若い時代に、犯人ではない人物を誤って撃って以来外回りから外されたタフな刑事の葉崎とコンビを組んでいた。犬飼と葉崎は他の刑事、特に三井光みついひかると対馬哲也からは全く尊敬されない窓際刑事であった。

 特命捜査対策室は未解決事件を捜査するセクションで、2009年に警視庁に設置された。メンバーは40人だ。

 そんな2人をつけ狙う連中がいた。嶋野涼香と君嶋だった。


 北海道の中でも特に犯罪多発地帯と恐れられているすすきのにある、すすきの署は唯一の安全地帯であることから、“アパッチ砦”と呼ばれている。ここに10年も勤務しているベテラン刑事、江戸海荷は、新人刑事の雨宮流星あまみやりゅうせいと組んで犯罪に立ち向かっていた。


 5月20日、麻薬中毒者による警官射殺事件が起きる。その翌日に着任した新署長の犀川聡さいかわさとしは、皆の前で解決に向けた厳しい訓示を告げる。しかし、事件は解決のめどがつかないばかりか、海荷の仲間の刑事は暴挙を働く始末であった。


 5月29日

 麻薬密売人たちが、沢口病院の一室に人質にとってたてこもる事件が起こった。人質の中には、雨宮の恋人で女医の広瀬恵美ひろせめぐみもいた。

 襲撃は現地時間の午前9時30分ごろ開始された。エントランスで2人の女性事務員が射殺された。


 午前11時、20人の患者が兵士に雨宮たちよって救助され、このうちの新田正孝にったまさたかという肺炎患者が少なくとも5人の覆面をし銃を持った男がいることを述べた。

 雨宮らは犯人の逃亡を阻止すべく病院を包囲、封鎖した。夕暮れの直後に4人の犯人が殺害されたことで終結した。覆面をした襲撃犯たちはAK-47で武装し、体に爆発物を巻きつけていた。テロリストのうち4人はSATによって射殺された。残り1人のテロリストは自爆用ベストを起爆させるのに成功し、周囲の何人かの隊員を負傷させた。

 50人の死者のうち、32人が患者、12人が医療関係者、6人は警官だった。


 6月2日

 富樫はクラムチャウダーにハマっていた。

 アメリカ東海岸のニューイングランドが発祥地で様々な類がある。ニューイングランド風は牛乳をベースとした白いクリームスープでありボストンクラムチャウダーとも呼ばれる。マンハッタン風(あるいはニューヨーク風)は赤いトマトスープである。


 一般に、ボストン近辺に漂着したフランス人漁師の発案といわれ、その名もフランスの大鍋(chaudière)が語源とされるが、当時、彼らと友好関係にあったアメリカ先住民のミクマク族料理の翻案との説もある。

 作り方が簡単なため、家庭でよく作られるほか、アメリカのレストランや、日本の洋食レストランでも供されることの多い西洋料理の定番である。現代では、缶に濃縮したクラムチャウダーを詰めた物が、一般的にスーパーマーケットで販売されており、鍋に中身をあけ牛乳を加えながら温めるだけで作れる。近年では、乾燥させ粉末状にしカップに入れた物もあり、カップラーメン同様、お湯を入れるだけで作れる。


 6月25日

 小樽港で嶋野涼香の遺体が発見された。

 監察医の広瀬恵美ひろせめぐみは解剖室で遺体を眺めていた。

 首から上、顔面がタコみたいに真っ赤だ。

「鬱血してる」

 小樽警察署刑事課の里見優さとみゆうは「もしや、絞殺か?」と腕組みしながら言った。

 どことなく高倉健たかくらけんに似ている。

「その可能性は大いにあり得ます」

 里見が署に戻り、刑事課長の中川浩正なかがわひろまさに事件性があることを報告した。

 中川はまだ35歳。対する里見は59歳だ。息子は中川と同じ年齢だ。

「溺死じゃないんですか?遺体は海で発見されたんですよ」

「衣服を着たまま海になんか入りませんよ」

「事故ってこともあるだろ?」

「それは、まぁ……」

「それにしても嶋野って北海道出身だったんだな?僕はてっきり大阪の人かと思ったよ。警部補は大阪に行ったことあります?」

「10年くらい前に……串カツは2度漬け禁止ってルールが大阪にはあります」

「へぇ〜」

「いろいろ悪いことをしてきた人だ。恨みを持つ者も多いでしょうね」


 首相の六角若葉が暗殺され、六角の運転手だった沓掛透くつかけとおるは、六角没後に家族の力を借りて独立、麻薬ビジネスに手をつける。沓掛は、友人で傭兵の岸部修三きしべしゅうぞうを利用して現地でヘロインを直接買い付けるルートを確立、軍用機を利用して日本国内に運び込む方法で、安価で質の高い麻薬『グリーンスター』を売りさばき、『シールド』を率いるピラルクーと並び麻薬業界の大物として、一大勢力を築き上げる。


 一方、霞ヶ関近辺では警察組織の汚職が蔓延しており、まともな警官は働きにくい状態となっていた。私生活は乱れきっているものの、悪に屈しない正義感を持つ犬飼は、ある組織の胴元の車から押収した1億を盗まずに全て署に届けた結果、同僚からつまはじきにされる。

「俺たちは未解決事件だけ追ってればいいんだ。余計なことばかりしやがって」

 対馬から舌打ちされた。

 しかし犬飼のその正直さが評価され、麻薬取締部の戸田文子とだあやこにスカウトされる。

「沓掛たちを一網打尽にしたいのはやまやまだが、今の仕事を辞めるわけにはいかない」

「副業ってことじゃダメ?」

 犬飼は優秀なメンバーを選出し、特別麻薬捜査班を設立。霞ヶ関近辺にはびこっている『グリーンスター』の供給の元締めを検挙することを目標とした。一方で、汚職警察官である特別麻薬捜査官の山口桃子やまぐちももこは、麻薬で台頭してきた沓掛に目をつけ、早速賄賂を要求し金のなる木として沓掛を保護しようとしていた。


 犬飼の捜査により、『グリーンスター』の元締めとして桃子が捜査線上に浮上する。だが桃子は沓掛のやり方を踏襲し、あらゆる方面を買収して証拠無しでは検挙ができない状態となっていた。さらに勢力を広げる桃子であったが、成功によって多くの恨みを買い、次第に追い詰められていく。

 さらに追い討ちをかけるようにコロナが再燃、ヘロインの密輸送手段も絶たれてしまう。桃子は沓掛が終わったと察するとすぐに手を切り、沓掛の屋敷を家宅捜索して財産を奪っていった。これにより桃子は沓掛により深い恨みを抱く。


 その後、犬飼の執念の捜査により、『グリーンスター』の製造アジトが小樽にあることを突き止め急襲。犬飼達は麻薬及び証拠を手に入れ、ついに沓掛を逮捕した。逮捕後、犬飼は沓掛に対して、沓掛に協力していた汚職警官を密告する取引を持ちかける。桃子に深い恨みを持っていた沓掛は密告に協力する。


 五十嵐幸太郎をボスとする犯罪組織はコロナワクチンの密輸により莫大な利益をあげていた。地元の警察や裁判所を買収しているギャングたちが市民への殺人も厭わない状況に、政府はコロナにより隔絶された札幌へ財務省の福川寿明ふくかわとしあきを派遣する。大張りきりで自信満々の福川は、赴任早々、警官たちを引き連れて密造ワクチン摘発で手柄を立てようとするが、ギャングに買収されていた警官が情報を漏らしていたため失敗。さらに新聞記者の星聖人に失敗した場面の写真を撮られて世間の失笑を買い意気消沈するが、帰り道で会った元刑事の百地康弘に「手柄より何より命の方が大切だ」と教えられる。百地には可愛い部下を何者かの手によって殺された。犯人は未だにつかまっていない。


 翌日、屈辱に耐えながら出勤した福川に、抗争の巻き添えになって死んだ少女の母親が面会に訪れる。改めてその悲しみを訴えられ、諦めないでと励まされた福川は、新たな決意を胸に秘書の宮本章みやもとあきらを呼び出す。福川は札幌を牛耳る五十嵐を逮捕する決意を宮本へ打ち明け、信頼できる仲間と班を編成するために協力してほしいと頼む。  

 宮本はかつて、五十嵐グループに潜入していた。

 五十嵐はの実力を知るゆえに躊躇う宮本だが、警官としての生き方を貫くことを決意する。警察学校の同期だった吉岡和泉よしおかいずみ、財務省から応援にきた簿記係の宍戸麗ししどうららといった個性派だが優秀な4人が揃ったところで、宮本が全員に銃を持たせて密造ワクチンの摘発に向かう。実績を挙げたの元にギャングから賄賂が贈られてくるが、彼は賄賂を拒否したため家族の身に危険が迫り、妻子と離れて暮らすことになる。


 家族と別れた福川は、麗のアドバイスで五十嵐を脱税の罪で起訴する方針を固める。福川一行は宮本の情報を元に、北海道警と協力して五十嵐ファミリーの密造ワクチン密輸の現場を押さえることとなった。

 銃撃戦の末にギャングたちを殺すことになったが、ファミリーの帳簿係と帳簿という証拠が手に入った。しかし、五十嵐は報復として麗と帳簿係の頭を銃で撃って殺害し、さらに部下の新島に命じて宮本も手にかけた。

「宮本武蔵の末裔とかほざいていたが大したこたぁねぇなぁ?」

 新島はドスでグサグサ!宮本の腹を刺した。

 新島はかつては介護士をしていた。

 証人を失った検察は及び腰となり起訴を取り下げようとするが、福川と吉岡は宮本の死に際のメッセージを頼りに、逃亡を図るファミリーの会計係を確保するため札幌駅に向かう。

 

 札幌駅は、札幌市並びに北海道の代表駅かつJR北海道最大の拠点駅であり、道内各地とを結ぶ特急列車、北海道の空の玄関口である新千歳空港とを結ぶ快速「エアポート」、札幌近郊の通勤・通学輸送を担う普通列車などが多く発着し、JR北海道の駅の中で最も利用客数が多い駅である。JR駅の駅番号は01とされており、道内各方面への起点と位置付けられている。また、JRの特定都区市内制度における「札幌市内」の駅であり、運賃計算の中心駅となっている。

 路線上は函館本線の単独駅であるが、列車運行上では2駅東隣の白石駅で分岐する千歳線・1駅西隣の桑園駅で分岐する札沼線(学園都市線)の列車も当駅へ乗り入れており、事実上3路線のターミナル駅となっている。

 札幌駅は交通の要衝としての位置付けが強いものの、繁華街・商業集積地としての位置付けは大通地区に次ぐ二番手という状態が長らく続いた。しかし2000年代初頭からは札幌都市圏への人口一極集中に加え、駅ビル「JRタワー」の開業(2003年)・駅周辺地域の再開発に伴い、札幌近郊のみならず道内主要都市からの利用客が増加している他、鉄道利用客に留まらず商業などの集積においても大通地区・すすきの地区を凌ぐ新たな拠点へと成長した。近年では若年層を中心に「サツエキ」という通称で呼ばれることも多くなっている。

 南口駅前広場を挟んで札幌市営地下鉄南北線・東豊線の「さっぽろ駅」(JR駅は漢字、地下鉄駅は平仮名が正式名称)と隣接しており、同駅が代替輸送の指定駅となっている。

 当駅では終電が全線同一時刻(23時59分)に発車する。


 列車の発車時刻寸前に現れた五十嵐ファミリーとの銃撃戦を経て会計係を確保した福川と吉岡は予定通りに五十嵐を起訴するように働きかけ、五十嵐の予備審問が開始される。


 予備審問で会計係が五十嵐の脱税を認めるが、五十嵐が余裕の表情を見せたため、福川は疑問に感じる。福川は、新島が五十嵐にメモを渡したことを不審に思い、彼が銃を携帯していることを理由に法廷から追い出し身体検査をさせる。

 新島の所持品の中から宮本の自宅の住所が書かれたメモ帳が見つかり、彼が宮本を殺したことを確信するが、新島は突然変異し、怪物になり廷吏を鋭い爪で刺し殺して逃走する。

 福川は不死身になる魔法を自分にかけ、新島を裁判所の屋上に追い詰め殺さずに拘束するが、新島が宮本の死を侮辱したことに激怒し、彼を屋上から突き落とす。

 屋上から戻った福川は、吉岡から「新島が五十嵐に渡したメモは買収された陪審員のリストだ」と聞かされ、福川は陪審員を入れ替えるように判事に要求する。判事はメモの信憑性を疑問視して拒否するが、福川は「五十嵐の帳簿に判事の名前がある」と脅迫し、陪審員の入れ替えを認めさせる。追い詰められた五十嵐の弁護士、清水愛太郎しみずあいたろうは有罪を認め、激怒した五十嵐は清水に殴りかかる。五十嵐に有罪判決が下った記事を読み終えた福川は、吉岡と別れの言葉を交わして札幌警察署を後にする。

 

 7月31日、札幌で440ポンドの爆発物を積載した車両に乗った吉岡和泉が銃を乱射しながら札幌中央銀行に突入して自爆し、銀行と周辺の8つの建物に被害を与えた。

 この爆発により、91名が死亡、およそ1,400名が負傷した。また、少なくとも100名が失明した。

 被害者の多くが通りすがりの人々や銀行周辺で露店を営んでいた人々であった。その後警察による捜査が行われ、爆発物が小樽から来ていたことがわかった。


 キムナイヌって怪物が石狩川の上流にある大雪山に現れた。犬の妖怪ではなく、山の人もしくは神という意味だ。足が早くて、熊さえも手掴みで喰うとされる。タバコが好きで、与えると人には危害を加えないとされる。しかし、朽ち木を倒したり、人を殺めることもあるそうだ。


 8月1日

 谷本は宝くじで1億円が当たったので、富樫をハメることをやめにした。

 猛暑だったので新しいエアコンを手に入れた。

 ワクチンも接種し、海外に出かけることも可能になった。


 海野郁夫うみのいくおは高齢者の成年後見人を務めていたが、その本性は利他精神に満ちた好人物などではなく、狡猾な詐欺師であった。海野はパートナーの河島梅子かわしまうみこと共に高齢者を搾取し、巨額の利益を上げていた。恐ろしいことに、その搾取の全ては法律に則って行われており、2人を罰することのできる者はいなかった。被害者は骨の髄までしゃぶり尽くされるのを待つより外なかった。


 そんなある日、2人は新田悦子にったえつこという高齢女性に次の狙いを定めた。悦子は身寄りのいない資産家であり、2人にとってはネギを背負ったカモだった。ところが、新田悦子に手を出したばかりに、2人は裏社会の大物、瀧田音吉たきたおときちに目を付けられてしまう。

 瀧田も悦子をカモにしていたのだった。

「頭の悪そうな奴らだ」

 介護士を装い、悦子の家に出入りしてる2人を瀧田は電信柱の陰から覗いていた。

 悦子の家は円山まるやまの麓にあった。

 円山は、北海道札幌市中央区にある標高225 mの山である。所在地となる地名も同名である。石狩平野に面し、札幌市の中心から西の近くにあり、札幌市民の行楽の場になっている。山の大部分は円山原始林として保護されているが、過去に人の手が入っているので厳密な意味での原始林ではなく、天然林にあたる。

 札幌市西部の山地の端にあたるが、山塊はほぼ独立している。北、東、西で平地に面し、南は双子山という低い丘に続く。山頂から北西に長い尾根が、西にはそれより短い尾根が延びる。登山道はこの尾根沿いにつけられている。一帯の町名は円山で、その西の市街には円山西町(1-10丁目)がある。

 西から北へ、山裾を円山川が流れる。東側の麓にはかつて界川が流れていたが、後にほとんどが地上から消えた。

 山の基盤は第三紀中新世から漸新世に生成された西野層で、これを安山岩質の溶岩が第四紀初頭に貫いて頂上部ができあがった。

 もともとアイヌ人は、この山のことを「モイワ」(「小さな山」の意)と呼んでいたが、札幌中心部から見た山の形が丸いことから、明治時代に和人によって「円山」と名付けられた。「モイワ」の名は和人の誤解によって、円山の南東にある藻岩山に引き継がれることとなった。

 札幌に北海道の本府を建設するために訪れた島義勇開拓判官は、都市計画を練るため円山に登った。島開拓判官は、円山に神社を置いて宗教的守りとし、東に市街を設けることを決めた。1871年(明治4年)に、円山の北の麓に札幌神社が造られた。後の北海道神宮である。

 開拓使と以後の行政官庁は円山の山林の保護を基本政策とした。1872年(明治5年)に山頂からの石材切り出しが許可され、採石がはじまったが、翌年には禁止された。その1873年(明治6年)に円山の周辺での伐採は禁止された。一方、札幌神社の外苑、円山の西の麓には、1880年(明治13年)に円山養樹園という試験林が作られ、1891年(明治24年)に移転廃止された。山の方は1921年(大正10年)3月3日に、円山原始林として国の天然記念物に指定された。

 札幌市は養樹園の跡地に公園を設けることにして、1903年(明治36年)から徐々に円山公園の整備を進めた。1932年(昭和7年)から1934年(昭和9年)にかけて円山公園に運動場が作られた。1951年(昭和26年)には札幌市円山動物園が開園した。

 1914年(大正3年)に四国八十八箇所にならって88か所の石仏が設けられてから、登山が盛んになった。北西の麓にある大師堂はこのとき建てられた。多くの小さな石の仏像が北西の登山道の脇にある。また、一時は南の西の麓でスキーが行われた。

 20世紀に入ると麓に住宅が増え始め、1960年代に周辺はまったく市街地と化した。21世紀初めの現在では一部で中腹まで家が建てられ、山は住宅地に取り囲まれている。


 8月10日

 東京の投資会社『グリフォン』に副社長として勤務する清河貫一きよかわかんいちは人生を謳歌している。銀座に居を構える裕福な一家に生まれ、日本屈指の名門の東武高校を卒業し東武大学に入学。その2年後に大学院課程も修了した。

 現在は広瀬すずも住んでいる都心の一等地のアパートメントを借りている。

 昼間はジムに行って汗を流し、都内でも指折りの高級レストランで同僚達とテーブルを囲む。実際、その会社を所有しているのは他でもない貫一の実父であり、父親に任せきりだ。

 むしろ、『グリフォン』で働くエリートビジネスマンというのは建前で、貫一の本当の生活は夜に始まる。同僚達は皆、彼自身と同じく高学歴かつ高収入のエリート達ばかり。しかし、それと同時に彼らは哀しいほど浅はかで、同僚間の信頼や友情は殆どうわべだけのものである。共通のヘアスタイルやスーツのブランド、趣味を愛好する彼らのライフスタイルは、時としてお互い誰が誰だか分からなくなってしまうほど似通っている。確立された個々のアイデンティティーなどそこには無い。

 表面上は仲の良く、気さくな同僚達。しかし腹の内ではお互いが何を考えているか知っている者などいない。会社では皆、行きつけのレストランや名刺のデザインなどを比べ合い一喜一憂するばかり。そんな中、ある日貫一の前にルックス・学歴・身だしなみなど非の打ち所のない同僚、汀金太郎みぎわきんたろうが現れる。


 三井光は故郷の甘味処でカキ氷を食べていた。やっぱり、シロップはストロベリーだ。🍧

 懐かしい日々を思い出した。村崎親子、佐伯充、結城洋介の4人を殺した。

 村崎芽衣子は3年G組の担任だった。光は当時、芽衣子から数学のテストが0点ばかりだったので『人間のクズ』と馬鹿にされていた。29歳の今でも数学は嫌いだ。中学校の裏で死神に会った。

 🧛「人間を殺したら褒美をやる」

 結城は芽衣子と同じアパートに住んでいたから餌食にした。

 甘味処を出て、中学校の裏に行ってみた。

 蝉がジージー鳴いている。

 🧛「三井君、久しぶりだね?」

 タロットカードを1枚引ける。

『皇帝』のカードを引いた。正位置に出た。

 正位置の意味

 支配、安定、成就・達成、男性的、権威、行動力、意思、責任感の強さ、軸。

 逆位置の意味

 未熟、横暴、傲岸不遜、傲慢、身勝手、独断的、意志薄弱、無責任。

 

 一人の男性が王冠をかぶり玉座に腰掛け王笏を手にしている構図は、タイトル通りこの男性が「皇帝」であることを示す。


 マルセイユ版タロットでは、男性はこちらに体の左側面(無意識の側)を向けゆったりと足を組み、自分の内面をさらけ出すことになんらためらいを見せない堂々とした態度であるが、身体や玉座の向きなど全体の構図が左(象徴的に過去・内面)を強調していることから、一見すると隠者などと同様にやや後ろ向きな、内向的な印象を受ける。しかし、「地上的な現実」を表すとされる球体と、「霊」を表すとされる十字架を取り付けた黄金の王笏は男性の目線と同じ高さに掲げられている。これは社会を常に先見的立場から先導する理想的な指導者を描き表し、男性=父権とあわせて「社会的権力の象徴」として解釈を行っていくのが一般的である。


 また数字の「4」は、4方位(東・西・南・北)、四大元素(地・水・火・風)、古代の4つの性質(温・乾・湿・冷)、四季(春・夏・秋・冬)、四則演算(+・−・×・÷)などを示し、「皇帝」が古来より人間の霊的、肉体的生活を方向づけてきた偉大なる「4」を与えられた揺るぎない権力者であることを表している。


 ウェイト版タロットではマルセイユ版と大きく異なっており、体を真正面に向け、毅然とした態度で王座に座っている外向的な男性の構図が描かれる。皇帝が身に纏っている装束は赤色となっているが、この色は魔術師と同様、血潮と男性原理に結び付けられ、ここでは血気盛んな戦士、闘争、激情へと派生する。右手に持っている王笏は十字と円で構成されるエジプト伝来のアンクを彷彿とさせるもので、「生命力」「多産性」を表す記号として扱われ、男性原理と女性原理の結合を暗示するものなど様々な説がある。皇帝の座っている角ばった台座には、黄道十二宮の一つとされる白羊宮(牡羊座)を表す4つの牡羊の頭が描かれている。この4ヶ所を全て線で繋げば「四角形」が出来上がり、ここに前述の「4」という数字が強くかかわるとされる。またこの札そのものには描かれていないが、女帝が対応する女性原理を表す金星(♀。ハート型の盾に描かれている)に対し、皇帝が対応するのは男性原理を表す火星(♂)である。男性原理とは、活力、獲得、武力に通じるエネルギーである。背景にそびえ立つ岩山は、現実社会の厳しさや、日々を生き抜くための戦いを示す、人間の試練を象徴するものとなっている。


 なお、占星術によれば火星は白羊宮、牡羊座を支配している惑星でもある。


 三井は特命の室長になった。  

 君嶋と結託して、犬飼と葉崎を抹殺することを企んだ。

 

 対馬哲也はギャルを殺した犯人は三井だと確信した。村崎芽衣子が残したダイイングメッセージ、『三光』は三井光を意味していた。


 夏休みを目前に控えたある夜のこと。美樹本病院で助産師として病院で働く海老島渚えびしまなぎさの元に身元不明の少女が運び込まれた。彼女は子どもを身ごもっており、女の子を産んだ後、息を引き取ってしまう。

 手術に立ち会った渚は、彼女のバッグから日記を取り出す。孤児となった赤ん坊のために、少女の身元を割り出そうと考えたのだ。日記は英語で書かれており、そこには『ウルトラマリン』というレストランのカードが挟みこまれていた。渚は、カードを頼りに軽井沢にあるレストランを訪ねる。


 店の前で、渚はひとりの謎めいた男と出会う。鮑旬あわびしゅんという名前のその男は、悪名高き長野マフィアの運転手で、組織の跡取りである伊倉洋いくらひろしのために働いていた。

 鮑はエンジンのかからないバイクを前に困惑する渚を車で家まで送り届ける。


 やがて少女の日記を読んでしまった渚の伯父が、彼女にこの事件から手を引くよう忠告する。日記には長野マフィアが関わる人身売買についての恐ろしい事実が記されていたのだ。かつて流産した辛い過去を持つ渚は子どものことだけを考えており、「日記」と引換に少女の身元を教えてもらう、という取引をマフィアと交わすことに。取引の場所に現れたのは、鮑だった。日記を渡す渚に彼は少女の身元は伝えず、今回の事件は忘れ、自分たちには近づくな、と渚に忠告する。渚は時折優しさを見せてくれる鮑に図らずも惹かれはじめる。

 渚は鮑からウルトラマリンの意味を教えてもらった。

「ウルトラマリン」とは「海を越える」という意味である。天然ウルトラマリンの原料となるラピスラズリは、ヨーロッパの近くではアフガニスタンでしか産出せず、それが地中海を超える海路で運ばれたため、「海を越えて(来る・来た青)」という意味である。

 青色のウルトラマリンのカラーインデックスジェネリックネームは Pigment Blue 29、カラーインデックス番号は77007である。天然ウルトラマリンは複雑な組成の天然鉱物顔料であり、硫黄を含んだケイ酸ナトリウムの錯体 (Na8–10Al6Si6O24S2–4) である。青金石(ラズライト)と呼ばれる青い立方体状の鉱物を含んだ石灰岩を原料として製造できる。しばしば、結晶格子の中に塩化物イオンが存在する。顔料の青色は不対電子を持つラジカルアニオン S3− によるものである。

「きっとあの店のボスは海外進出を願い、あの名前をつけたんだろうな?」

 渚は鮑の隣でマカデミアナッツアイスを食べながらウンチクを聞いていた。

「旬って鋭いね?てかさ?アレなんだよね?鮑ってアレルギーがあるんだよね?」

「何だよ唐突に?」

「こーゆー仕事してるとさ?アレルギーとか詳しくなるわけよ。米とか卵にもアレルギーがあるんだ」

「渚はアレルギーあるの?」

「アサリ。間違ってもアサリスープなんて飲ませないでよ」

「変な目で見るなよ?そりゃ、こーゆー仕事してるけどさ?オマエを殺したりしないって……」

「何で黙るの?」

「キレイだなと思って」

 よく、ドラマとかだとキスをしようとする瞬間チャイムがなったりするけど、そんなことはなく舌を絡め、甘い夜にとっぷり浸った。

 

 8月20日

 葉崎と犬飼は高松市内にあるイタリア料理店で昼ご飯を食べていた。店内には生簀があり、魚が泳いでる。🐟

 鮮魚のカルパッチョは美味かった。🌿🍀🍅🐟

「2007年って何があったっけ?」と、犬飼。

「食品表示偽装や年金記録問題、テレビ番組の捏造などがあったな?確か、あの年の漢字って『偽』だったような?」と、葉崎。

「よく覚えてるな?クラムチャウダーのチャウダーって食事って意味があるんだって」

「へ〜」

 そのとき無線がピーピー音を立てた。

「はい、犬飼」

《対馬だ。内海港からドラム缶が上がって、中から腐乱死体が見つかった》

 犬飼は吐き気を催した。

《それと、三井には充分に注意しろ?》

「どーゆー意味です?」

 犬飼は対馬の推理に納得した。

 次の瞬間、レストランが木っ端微塵に吹き飛んだ。

《どーした!犬飼!おい!》


 対馬は野次馬の1人が怪しい動きを見せたので追った。野次馬はカーキ色のハンティングベストを着ていた。狩猟時に使うベストで、複数のポケットや薬莢を入れる部分がついている。野次馬は道の駅小豆島オリーブ公園に逃げ込んだ。オリーブの木やハーブが植えられ、ギリシャ風の風車がクルクル回っている。

 乾いた銃声が響き、対馬の背中を射抜いた。血飛沫を口から迸らせ、仰向けに倒れた。観光客の悲鳴が響き渡る。

 野次馬はパルテノンみたいな建物に隠れていた。狙撃銃を下ろし、無線の向こうにいる奴に話しかけた。

「君嶋だ。標的を始末した」




 

 

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