第5話 1998年

 2月2日

 富樫は介護士として美樹本市にある介護施設『彼岸花ひがんばな』で働いていた。祖父が運営している施設だ。

 新島にいじまという元レスラーの先輩に「随分様になってきたな」と褒められた。

 ヌエって老婆が「財布がなくなった〜!オマエがやったんじゃろ!」と叫んだ。

 富樫はオロオロした。

「俺は何にもやってねーよ!」

「気にするな、この人いつもそうだから」と、新島。

 腹が痛くなって、トイレに行ったら下痢だった。

  この日、郵便番号の7桁化が開始される。


 連続殺人犯の猫神謙輔ねこがみのりすけは、美樹本署の葉崎博士はざきひろしによって逮捕され、裁判で死刑の判決を受けて処刑されることになる。


 死刑執行の日、葉崎や上司の深沢警部補などによる立ち会いのもとで絞首刑による処刑が行われたが、猫神は処刑間際に謎の呪文を唱え、自分で作った『みんな死ね』って歌を陽気に歌い、「早く殺せ」などと死刑執行人たちを挑発していた。


『みんな死ね』

 歌詞『火で死ね、水で死ね、刀で死ね、毒で死ね、弓で死ね、車で死ね、銃で死ね、みんな死ね』


 2月3日

 🔥夕方、京都府の天幻市てんげんしってところの一軒家が燃えているという通報が警察に入った。翌朝に実況見分を行い、完全に白骨化した一家6人の焼死体を発見した。当初は失火による事故死と思われたが、頭蓋骨が陥没しているのを発見したことで、一転して放火殺人事件となり捜査を開始した。


 2月5日

 🌊三重県にある水鬼町すいきちょうにある海水浴場で死体が見つかった。被害者は赤川直樹あかがわなおきという無職の老人だ。酒を飲んで海に落ちたと判断された。缶ビール1本飲んで、泳いだ人が溺死してしまうのは多くの場合、心臓発作ではなく、気道の蓋である喉頭蓋が麻痺しているために気道に水が入り、一瞬で意識を失ってしまうからである。

 

 2月7日

 長野オリンピック開幕。富樫は忙しくてそれどころじゃなかった。

 ヌエがまた、「盗みやがったな!」と人聞きの悪いことを言ってきた。ぶん殴ってやろうかと思った。

 🗡亜藤田武丸あとうだたけまるってスキーヤーが新潟県にある八重歯やえば村の山荘で死体となって見つかった。背中を刀で刺されておったそうな。


 2月9日

 🐍彩辻あやつじアリスって女優は、恋人の五十嵐幸太郎いがらしこうたろうと沖縄旅行のために沖縄県那覇市にやって来た。

 11時40分、五十嵐は「急用を思い出した」と大阪の自宅へ帰宅することになり、那覇空港に残った。 

 アリスは予定通り石垣空港行の飛行機に乗り、正午過ぎに石垣島へ到着した。石垣島に到着した一行はホテルに到着し、チェックインをしたが、すぐに突然アリスが大量の発汗、悪寒、手足麻痺で苦しみだしたため、救急車で八重山病院へ搬送された。だが、アリスの容体は急速に悪化して救急車内で心肺停止に陥り、直後に病院に到着するも、一度も正常な拍動に戻らず15時4分に死亡した。


 沖縄県警察は、那覇空港から急遽石垣島に来た五十嵐の承諾のもと、行政解剖(遺族の承諾による)を行った。解剖にあたった石田志麻子いしだしまこは、アリスの死因を急性心筋梗塞と診断したが、心臓の一部に小さなうっ血を発見するも、内臓には病的な異変のない状態であった。また、急死につながる明らかな異常が無かったことから、不審に思った志麻子は、妻の心臓と血液30ccを保存した。

 

  2月11日・静岡県掛川市

 🏹いい年になりながら人生に目的を見いだせない33歳の桜坂在昌おうさかありまさは、隣人の美しい男性、乙女一おとめはじめに恋をする。空虚な日々を送っていた桜坂の日常は一変したように見えたが、この日突然、一が失踪する。一を諦めきれない桜坂は、掛川市内を調査し探し回る。一は、億万長者やセレブと付き合っていたことが分かる。

 夜になってアパートに戻ってくると電気がついていた。

「ざけんな!」

 一は己の部屋で死んでいた。ボーガンが頭に突き刺さっていた。

 

 2月15日未明

 🚙美樹本市の幹線道路で交通事故が起きた。その際、ひとりの男性がその事故で亡くなり、轢き逃げ事故の公算が大きくなっていた。その男性とは葉崎に捜査のイロハを教えてくれた恩田涼介おんだりょうすけだった。

「恩田さん、どうして」

 署の地下にある霊安室に横たわる遺体にすがりついて泣いた。

「猫神の仕業だ……」

 深沢が震えている。


 焼死体の身元が判明した。

 叶京介かのうきょうすけ叶祐介かのうゆうすけ叶謙三かのうけんぞう叶薫かのうかおる叶鴻かのうこう叶博行かのうひろゆき。薫以外は兄弟。

「5人兄弟なんて羨ましいな」

 富樫は一人っ子だった。

 この日は夜勤で控室でニュースを見ていた。

 

 2月18日

 🔫香川県肘方村で、元漁協組合長の男性が頭と胸の2カ所を拳銃で撃たれ死亡する事件が発生。


 2月19日

  東和とうわ証券から不正な利益供与を受けていたとして国会に逮捕許諾請求の手続きが進められていた小池敏こいけさとし議員が東京都内のホテルで自殺。

 ゴミみたいな議員がいなくなってせいせいしたと富樫は思った。

「首吊りだったみたいぞ」

 新島がトイレ掃除の最中に言った。

 ヌエの部屋のトイレは鼻が曲がるほど臭かった。

 🦟

「何で冬なのに蚊がいるんだ?」と、新島。

「不衛生にしてるからでしょ?」

「蝿なら分かるけどさ」

 

 刑務所を出所したばかりのギャングの柴田湊しばたみなとは、妻を殺した新保一しんぽはじめを射殺。かつての仲間、天童零斗てんどうれいとと次の仕事を決行する。

 しかし、警官隊に包囲されて仲間が死に、自分も逮捕された。何者が密告したのだ。湊はかねてから、零斗が密告者だという噂を聞いていたが、その後、自分の新しい女、優子ゆうこが崖から自動車で転落死したと知り、彼への疑いをつのらせる。

 湊は零斗が密告者だと確信し、復讐を誓って入獄、同房の男に零斗を殺すことを依頼する。

 

 2月20日

 香川県坂出市で送電塔が倒壊する事件が発生。

 麹町忠太こうじまちちゅうたは目からビームを出せる特殊人間だった。零斗を殺すことはさほど難しくなかった。

 

 肘方村で、ある女性が達也たつやと呼びながら昏倒し、病院に運ばれた。彼女の身元を知る手がかりはなかったが、矢島正雄やじままさおは、麻酔療法によって彼女の身元を何とか探り当てた。


 彼女は織江おりえという看護婦で、越中島えっちゅうじま家に仕えていた時、達也という建築技師に惚れていた。達也は彼女に興味を示さなかったが、越中島家の主人である越中島満寿夫えっちゅうじまますおは織江に求婚し、彼女はそれに応じた。だが、織江を快く思わない満寿夫の娘・益子ますこが達也に求婚された時、彼女は発狂した。


 2月21日

 五十嵐幸太郎は北新地駅の前にいた。北新地駅は、大阪府大阪市北区梅田1丁目にある、西日本旅客鉄道(JR西日本)JR東西線の駅である。駅シンボルは、江戸時代に米市場が置かれていた堂島に近接していることに因み、『稲穂』である。駅カラーは茶色である。

 木枯らしが吹いている。五十嵐はスポーツ施設のビラ配りの仕事をしていた。通行人はほとんど無視していく。五十嵐は香川県肘方村の出身で、高校卒業後、漁師をして働いた。定置網漁では夜のうちから出港し、網の設置や引き揚げ、魚の選別、網の修理、漁船の清掃などを行う。

 まき網漁は数隻のチーム編成で行うのが一般的で、魚群を探す「探索船」、魚群を集めるために光を灯す「灯船」、魚を獲る「網船」、魚を運ぶ「運搬船」のいずれかに乗り込むことになる。夕方から出港し、夜間に1時間半程度の漁獲作業を複数回繰り返す。

 カツオ一本釣り漁は沖合漁業と遠洋漁業の場合があり、沖合であれば数日間、遠洋であれば1~2ヶ月に及び漁を続ける。

 上司の染谷智充そめたにともみつと馬が合わず、5年で辞めた。魚の量が少ないと殴ったり、酷いときは蹴ってきた。

 同僚の鈴木文夫すずきふみおが津波にさらわれて亡くなったときなんか、『馬鹿だから死んだんだ。馬鹿は死ななきゃ治らねーってよく言うだろ?』と、葬式のときに死者に罵声を浴びせていた。五十嵐はもう少しで殴りそうになった。

 五十嵐は場所を移動することにした。

 曽根崎にやって来た。

 新御堂筋を境に東が一丁目、西が二丁目となる。一丁目は西天満六丁目(もとは梅ケ枝新地)の西隣にあたり、南は曽根崎通、北は寺町通りまで。二丁目は梅田一丁目(ダイヤモンド地区)の東隣にあたり、南は曽根崎通、西は御堂筋、北は扇町通まで。また、南西に北新地の一画を成す「曾根崎新地」が隣接する。

 一帯は繁華街として栄え、ラブホテルや風俗店も多い。『曽根崎心中』の舞台になった露天神社(通称:お初天神)は当地にある。

「ディッシュレスで〜す!」

「あっ、ビラもらえる?」

 痩せ細ったゴボウみたいな奴が近づいてきた。

「ありがたい!全然客がかからなかったんです」

「こう見えても刑事なんよ。このまえホシに逃げられてのぉ……足腰鍛えないとあかんと思ってたんよ」

 男は嬉しそうにビラを受け取った。

 と、そのとき!地響きがして鬼が現れた。

 五十嵐は幼い頃、祖母から聞いた昔話を思い出した。

 1100年ころ、難波にいた長者のもとに男性がやって来て長者の娘との結婚を願うが、そのとき家の天井裏から「この娘はおれがもらう娘だ」と怖ろしい鬼のような声が響く。おそれおののいた男性が逃げようとすると「命を取ろうか、顔を取ろうか」と再び声が響いて来たので、長者の親たちがとっさに「顔」と答えたところ男性は何物かによって顔を吸われてしまい、端正だったその顔は鼻のまわりに目鼻の寄ってしまった全く別の顔になってしまった。

 天井裏から響いて来た鬼のような声の主が「すいこみ」であると考えられるが、姿かたちはどのようなものかは不明である。

 鬼はさっきの男に「命を取ろうか、顔を取ろうか」と尋ねた。腰を抜かした男は、「かっ、顔」と返事すると。鬼の口から風が現れ、掃除機みたく目、鼻、耳、口を吸い取った。数分後にはのっぺらぼうだらけになっていた。

 五十嵐は染谷をトカレフで撃ち殺したときに死神から奇妙な銃を手に入れた。その銃は、アクケルテというキルギスの民族叙事詩の主人公マナスの持つ百発百中の白い銃だ。

 五十嵐はキルギスに旅行したことがある。🧳

 キルギス共和国は、中央アジアに位置する共和制国家。首都はビシュケク(旧名フルンゼ)。かつての正式国名はキルギスタンであり、改称以降も別称として公式に認められている。

 内陸国で、カザフスタン、中華人民共和国、タジキスタン、ウズベキスタンと国境を接する。西部のバトケン州内にはタジキスタンとウズベキスタンの飛び地がある。旧ソビエト連邦の構成国であり、ソ連から独立したウズベキスタン、カザフスタン、トルクメニスタン、タジキスタンとともに独立国家共同体(CIS)に加盟する。

 敦煌ドゥンファンで南北に分かれた「シルクロード」は喀什カシュガルで合流後、再び南北に分かれる。南の道はタジキスタンに向かうが、北の道はキルギスの南部を通過する。首都ビシュケク近郊のトクマムの町には、バラサグン遺跡が残る。ここには砂漠を進む商隊の灯台として使われたと推定されているブラナの塔が残る。また周囲にはキルギス各地から集められた石人があり有名。

 伝統的なキルギス料理では羊肉や馬肉を用いることが多く、様々な乳製品を多用する。料理技術や主な材料はキルギスで伝統的に行われてきた遊牧民的な生活様式に大きな影響を受けている。したがって、料理技術の大部分は食品の長期保存という観点に則ったものである。羊肉はキルギス人が最も好む肉であるが、キルギス人の多くは羊肉を日常生活で十分に用いることができているとは言えない。

 キルギスでは多くの異なる民族の様々な料理を見ることができる。ビシュケクやオシ、ジャララバード、カラコルといった大都市では、様々な国の国際的な料理を見かけることができる。路上の屋台や農村部では、コットンシードオイルや羊脂を用いた標準的なキルギスの料理を見かけることが多くなる。地域の人々は地方の羊脂を用いた料理は美味で健康に良い料理だと考えている。

 五十嵐はアクケルテで鬼を射殺した。


 3月2日

 東京地検、前年に経営破綻した東和證券元会長の小早川若行こばやかわわかおを同社破綻の原因となった「飛ばし」処理による証券取引法違反、ならびに粉飾決算の容疑により逮捕。


 深沢は妻、若葉わかばと離婚後、放浪の末、美樹本に帰ってきた。

 だがこの日の夜、彼はナイトクラブで、若葉が悪名高いギャングの柴田湊と連れ添っているのを見て、彼女を忘れようと決意する。


 だが、若葉は湊と自分は友達付合いだと主張、深沢と元のさやに納まる。翌日の夜、若葉と約束のナイトクラブへ行った深沢は、バーテンから若葉が湊と結婚したと聞き、ショックを受ける。

 一方、湊は妻の不貞を知り、深沢の命を狙ってくる。


 3月5日

 長野パラリンピック開幕。

「障害者なんて気持ち悪い」

 深沢はテレビを消した。

 アパートの郵便受けに塩辛が入っていた。これも暗殺者の仕業なのだろうか?昨夜は散歩中に車に轢かれそうになった。


 3月6日

 奈良県明日香村のキトラ古墳で四神の白虎図や東アジア最古の天文図が発見。

 明日香村に逃げ、レストランで働く織江は職務上知り得た情報を利用して、顧客の家に窃盗に入っていた。この日の夜、いつものように盗みに入った織江は思わぬものを目撃することになった。そこには、番作ばんさくと名乗る老人がおり、「頭のおかしい家主に監禁されているから助けてくれ」と言ってきた。自らの犯行を目撃されてしまった焦りから、織江は直ちにその家から逃走したが、家主の九条右京くじょううきょうはその一部始終をじっと見ていた。その結果、織江は右京に命を狙われることになってしまった。


 3月10日

 自由民主党、10兆円規模の追加景気対策表明。

 昼過ぎ、織江は京都駅前にある探偵事務所にやって来た。

 梅宮康夫うめみややすおって私立探偵に被害を報告した。

「賄いのクラムチャウダーが不味かった気がするんですよ」

 👨‍🍳必要な食材

 二枚貝の剥身、タマネギ、ジャガイモ、セロリなどが必須の素材だが、それ以外はいろいろなレシピが存在する。野菜としてニンジン、トマト、白菜などを使うものや、ベーコンを使うレシピもある。


 🐚使用する貝

 貝は、本場アメリカでは二枚貝としてよく食べられているホンビノスガイを使用する。日本では1990年代になって外来種として東京湾や大阪湾などに定着しているが、首都圏や京阪神以外ではホンビノスガイがあまり流通していないため、ハマグリやアサリなどで代用するのが通例である。


「味覚障害とかじゃないですよね?」

 梅宮が言った。梅宮辰夫には似ておらず、菅原文太に似てる。  

「私の舌は確かですよ」

 やったのは右京に間違いない。

 泥棒であることを打ち明けるか?梅宮が「誰にでも間違いはある」と、優しく言ったあと金を要求し、「払えば黙っててやる」とでも言わないかな?

「何かしでかさなかった?」

 鋭いな!?

「何もしてません」

「愉快犯かな?中にはいるからな?誰でもいいから殺したいみたいな奴」

「やっぱいいです」


 3月20日

 新宿駅南口に建設された小田急サザンタワーが開業。

 家電メーカーのシャーク本社がデリバティブ取引で多額の損失を出したことが発覚。同日、鮫崎さめざき会長ら経営トップが退陣する人事を発表。


 ポケベルが地方の中高生を中心に最後の流行。都市部では大学への進学や卒業を機にPHSや携帯電話への移行が進む。

 新宿で、幼い少女ばかりを狙った連続殺人事件が発生した。警察の必死の努力にもかかわらず犯人逮捕の目処は立たず、市民や暗黒街の犯罪者たちは彼ら自身の手で犯人を捕まえることを思い立つ。


 手がかりはないかのように思えたが、被害者の1人、恵美えみが誘拐されたときにケータイの着メロが聞こえたことに気付いた老婦人がいた。

 その曲はモー娘の『モーニングコーヒー』だった。新宿署刑事課の犬飼篤史いぬかいあつしは、同僚の江戸海荷えどうみかとモー娘の話で盛り上がっていた。

「アッちゃんは誰が好き?」

「俺はナッチかな」

 今日は非番で、2人は新宿を巡ることになった。新宿駅に集合した。春らしい陽射しが柔らかく2人を包み込む。🚉

「そーゆー海荷は?」

「私は矢口真里」

「そっかー」

 新宿エリアで最大の繁華街である。新宿駅の東口は新宿三丁目を中心に老舗デパートである伊勢丹新宿店や専門店・飲食店などが密集し、昼夜を問わず人の波が途絶えることはなく、日本一の繁華街となっている。駅東口近くにあるスタジオアルタや中央東口の交番は、新宿でも屈指の待ち合わせ場所となっており、夕方の終業時間になると著しく混雑する。

「折原の奴、マジでムカつく」

 犬飼は舌打ちした。刑事課長、折原和夫おりはらかずおは事あるごとに『使えねー犬だな』と罵声を浴びせてくる。


 3月21日

 ヌエが亡くなった。最近入ったばかりのヘルパー、赤広功あこういさおは涙を流した。

「可愛そうですよね」

「うん」

 頷いたが富樫はせいせいしていた。

 利用者の食事の検食けんしょくを栄養士の宇佐山絵里うさやまえりはした。

 検食には以下の二つの意味がありその内容を異にする。

 集団給食施設において施設管理者や栄養士が給食の内容を栄養面・衛生面・嗜好面から検査するために試食するもの。

 集団給食施設や弁当業などにおいて衛生検査用に保存される食品。

 この意味の検食は単に『保存食』ともいう。なお、『保存食』には長期間の保存が可能な食品を意味する場合もある。

 

 3月22日

 成田空港に、イギリスから初老の男が降り立った。男は深沢久作ふかさわきゅうさくという元行商人。定年後、様々な国を旅行するのが趣味だ、 

 1年の滞在を終えて帰国した彼は、美樹本市で暮らしていた息子、平太の訃報を受け取っていた。

 訃報の送り主である平太の友人、越中島満寿夫えっちゅうじまますおのもとで、久作は平太の死が飲酒運転による事故死であったことと、妻の若葉との間に何らかのトラブルを抱えていたことを知る。


 信頼する息子の飲酒運転による死を信じられない久作は、越中島の証言に基づき、平太が死の2週間前に訪れたという不審な派遣会社へと、手掛かりを求めて乗り込む。そこでゴロツキと事を構え、息子の死は事故ではないとの確信を得た久作は、真実を知る筈の若葉を追い詰めるべく、行動を開始する。


 3月23日

 朝、富樫が出勤すると施設長の富樫耕助とがしこうすけが険しい顔をしながら手招きをしてる。

 耕助は今年の6月で85歳になる。

 施設長室に入るなり、「おまえは何をやっているんだ!!」と怒鳴られた。

 富樫は首を傾げた。

「一体どうしたんだ!?」

「白々しい!」

「どうしてこんなものを!?」

 耕助はデスクの上にあった書類を手にして孫に投げつけた。

 富樫は書類を拾って目を通した。

『劣悪な施設だ、老人たちを皆殺しにする。富樫凪助』

 富樫はワナワナと震えた。

「俺達に何か恨みがあるのか!?」

「ワケが分からない」

「こんなことしてタダで済むと思ってるのか?」

「これをやったのは俺じゃない!」

「警察に通報するけどいいよな!?」

「これは罠だ!もしかしたらアイツの仕業か?」

 10年前、富樫のせいで深い闇の底に落ちた主婦、津田鉄子。富樫は10年前の話を渚にした。

「全て知ってるよ」

「この歳で再就職なんて厳しい。クビだけは勘弁して下さい」

 富樫は土下座をした。🙇‍♂

「警察には電話しないけど、こうなった以上、おまえをここに置いておくことは出来ない」

「覚えとけよ!」

 脅迫状をビリビリに破いて紙吹雪みたく投げ捨て、部屋を去った。

 

 富樫は、宇佐山絵里と密かにつきあうようになった。夜、アパートでカップラーメンを啜りながらラジカセでEvery Little Thingの『Time goes by』を聴いていた。2月に発売されたばかりだ。

 ケータイが鳴った。絵里からだった。

《施設長から聞いたよ。ナギ君だってやりたくてやったんじゃないよね?》

「幻滅したろ?別れたいなら別れてもいいよ」

《私もね、高校のとき万引したことあるんだ。友達から命令されて仕方なく……》

「そんなのは友達でもなんでもねーよ」

《そうだよね?だからってわけじゃないけど、ナギ君の気持ち少しは理解できるよ》

「無理するなよ……」

《無理なんかじゃない。それに今回のことは君じゃないんだし?昔は昔、今は今じゃない?》

 彼女に抱きしめてほしかった。涙が溢れそうだ。

「今から会えるか?」

《いいよ》

 

 アパートで愛を育んでから、夜のドライブに出た。🌃立ち寄ったガソリンスタンドに銃を持ったギャングが押し入る。店主は銃殺され、絵里はギャングの1人の柴田湊に射殺されてしまう。すぐに湊達は逮捕される。


 3月25日

 玄関のドアを開け朝日を浴びた。🌄富樫はアパートの前にあるごみ捨て場で銃を拾った。これは何かの運命かも知れないと、富樫は思った。

「自動式拳銃」

 富樫が言う。

 自動式拳銃とは、射撃時の反動(反動利用式)や火薬燃焼時の薬莢底にかかる圧力及後退動作(ブローバック)を利用し、遊底(スライド、ボルト)と呼ばれる部分を後退させることで、排莢や次弾装填を自動化した拳銃である。9x19mmパラベラム弾以上の威力の実包を使用するほとんどの拳銃は反動利用式(ショートリコイル)の作動機構を持ち、弾頭が発射され、高圧高温の発射ガスが安全圏に下がるまで銃身と遊底は機械的に結合したままである。これに対して.380ACP弾以下の比較的弱装の実包を使用する自動式拳銃は特に機械的な閉鎖機構を持たず、リコイルスプリングの圧力と遊底の慣性質量及び薬莢の靭性によってのみ弾頭が発射されるまでのガス圧をしのぐ(ストレートブローバック、またはシンプルブローバック)。

「コイツはベレッタM92」

 ベレッタ・モデル92は、イタリアのベレッタ社が設計した自動拳銃。メーカー公式の表記ではないものの、日本語圏では慣習的にベレッタM92と称されることがある。M9の名称で制式採用したアメリカ軍を筆頭に、世界中の法執行機関や軍隊で幅広く使われている。

 銃身長: 125mm; 119mm(Vertec); 109mm(コンパクト,Centurion)

 口径: 9mm

 種類: 自動拳銃

 使用弾薬: 9x19mmパラベラム弾.40S&W弾;  9x21mm IMI弾

 製造国: イタリア


 4月1日

 日本の豊田市、福山市、高知市、宮崎市の4市が中核市となる。

 北九州モノレールの(新)小倉駅が小倉駅ビル内に延伸開業、(旧)小倉駅は平和通駅に駅名変更。

 ガルーダ製薬がグリーンコーポレーションを救済合併。


 富樫は湊が釈放されたことを知った。

 怒りと悔しさから計らずも、湊を尾行し、自らの手で射殺してしまうが、湊の父親は美樹本警察署の署長、柴田広大しばたこうだいだった。

 富樫は殺す前に湊に、「偽の脅迫状を送ったのはおまえか?」と尋ねたが首を横に振っていた。

 富樫によって息子を殺害されたと知った広大は、街中で部下と共に富樫を襲撃。銃で撃たれたが防弾チョッキを着ていたので無傷だった。


 4月4日  

  アントニオ猪木東京ドームで引退試合。

 富樫は私立探偵の武藤涼介むとうりょうすけに自分を嵌めた犯人を探すように依頼した。

 武藤はボストンタイプ(丸みを帯びた逆三角形)の眼鏡がトレードマークの探偵だった。🕵

 事務所はコリアンタウンで有名な大久保にあった。


 4月5日

 明石海峡大橋開通、同時に神戸淡路鳴門自動車道も全通。「淡路フェリー」廃止。35年間の歴史に幕を閉じる。


 4月15日

 東京ディズニーランド®開園15周年。

 

 隠れ家は崖の上にあった。友人夫婦に相当な額を支払って借りた家だった。ガレージもあり、富樫は真新しいフィアットとバイクを入れた。さらにそこにあったロッカーに銃やかつら、付け髭に警官の制服などの変装道具を入れておいた。

 夜、武藤から電話があり犯人が明らかになった。

 

 4月28日

 7時半少し前、富樫は敵が待ち伏せしているところに到着した。美樹本市の南東にある鬼神おにがみ山の麓だ。ベレッタを掴み、誰にも見られていないことを確認してから、薬室に弾丸を装填したそれを低い塀の上に置き、木陰に身を隠して、そして待った。心臓が激しく動悸して、吐き気がした。 

 富樫は相手が来ないことを祈った。しかし、奴はいつもの時間にやって来て車を停め、降りると慎重に周囲を眺めてから、コンビニに向かった。

 富樫は相手に正面から近づいていった。急に覚悟を決め、冷静になった自分に富樫は驚いていた。

 赤広あこうが眉をしかめ、手を背広のポケットに差し入れるのが見えた。銃を持ってるようだ。銃を隠した塀のところに来ると、富樫は武器を手にし、胸を狙い撃った。赤広は即死した。

 死体を調べると、ダウンベストのポケットの中に漆黒の勾玉が入っていた。

 富樫の父は妖怪退治を生業にしていた。父は不思議な黒い玉の話を生前していた。

 例えば東京の人間を殺すと、東京の怪物のみを倒すことが出来る。まさしく、これはその玉だ。

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