公園で (1)
夕日の公園で、ベンチに二人座っている。まるで告白のようなシチュエーションだけど、気分は全く晴れやかではなかった。
「私、ミカに憧れてたんだよ。ずっと」
「あんたに恨まれてるとばかり思ってた。バカみたいね」
隣に座るマミが、やはり告白のような言葉を告げるけど、今はただ過去を振り返って懐かしんでいるだけだ。
「言ったでしょ。完璧になった私を見てほしいって」
「ねぇマミ。やっぱり――」
「ミカ。今さらどうしようもないって、もうミカも分かってるでしょ?」
マミが着ている白いワンピースは、検査着に着替えた後ですぐに捨てられるように、私が買って渡したものだ。もちろん、着てくれるのは嬉しいけど、それが別れを意味しているのは明らかだった。
それでも、わざわざ手術の当日に呼び出されたのだから、もしかしたら気が変わって……なんて思うのは、私が浅ましいからなのか。
「今日は、私のお葬式をしてほしいと思って呼んだの」
「お葬式? 家族には連絡しなくていいの?」
「だって、ミカは私の
確かにそうかもしれない。娘の身体がばらばらにされて趣味の悪い金持ちに売られているなんて、正直に伝えるほうが酷というものだ。私でさえも、まだ受け止めきれてはいないのだから。
「お葬式って、見送る人たちのためにあるんだって」
マミがぽつりとつぶやく。その言葉の意味が、今の私には痛いほどよく分かった。
「だから、ここでお別れの言葉を言って。そうしないと、私がちゃんと帰ってこれないよ」
お別れの言葉。さよなら、ありがとう、またね。
私にとって、マミは何だったのだろう。友達、恋人、あるいは
ではマミにとって、私は何だったのだろう。肉体を捨ててまで完璧になろうとする彼女は、こんな不完全な肉体を抱えた不安定な私にどうして執着しているんだろう。彼女に取り残されて些末で矮小な世界で生きていく私のことを、どう思っているだろう。荒い息で私を抱いて離さないマミは、肉体と共に消え去ってしまうんだろうか。
マミは私を遠くからずっと見つめているのに、私はマミの影さえも見つけられない。そんな想像が頭を支配して離れなかった。
「ねぇ、マミ……行かないでよ……」
ぼろぼろと涙を流す私を見て、マミは「ごめん。もう涙も出ないんだよね、私」と言って、ばつが悪そうに笑った。
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