電気街で (3)

「すみません、――さん。その子、私のパートナーです。後をつけられちゃったみたいで」


と、奥から聞き覚えのある声と共にやってきたのは、ゆったりとした水色の検査着姿のマミだった。どうやら、助かったらしい。


彼女は手短に私との関係について話して、この店を脅かすような存在ではないことを告げた。大体は聞き覚えのある内容だったけど、球体欠乏クーゲル・マンゲルという聞き覚えのない言葉が耳に残った。


名前を呼ばれた店員は二、三小言を残して(何と言っていたかは聞こえなかった)バックヤードに戻っていく。それに合わせて、マミがこちらに駆け寄ってきた。


「ミカ、来てくれたんだ」


「あんた、こんなところで何してるのよ」


私が検査着の襟を掴んで詰め寄ろうとも、マミはまるで気にしないそぶり。逆に、私を落ち着かせるように手を握ると、じっと私の目を見つめた。


「それも含めて、奥で話さない?」


ちゃんと説明するから、という押しに負けて、私は手を引かれるまま奥へと進んだ。


黒いカーテンをくぐると、そこにはデスクやロッカーはなく、さっきまでと同じようにメタルラックとアクリルケースが並べられていた。しかし、中に置かれているのはもう少し趣味の悪い品物だ。


目の前のケースに入っているのは、人間の肘から先の模型に見える。外側には若い女性の顔写真が貼り付けられていて、まるでこの子から切り取った腕が飾られているみたいだ。


上も、下も、向こうのラックもみんな人体模型と顔写真を組み合わせた同じような趣味の悪い展示ばかりで、何だか気持ちが悪い。腕、脚はまだ直視できるものの、眼球、肝臓、心臓ともなると、まるで本物の臓器みたいでちらりと見るのさえ恐ろしい。


「ね、ねぇマミ……」


「事務所とオペ室はこの奥だよ。ガサ入れ対策で二重底になってるの」


そんなこと、どうでもよかった。今はただ、マミが私に隠していることが怖くて仕方なかった。人間をパーツに分けて切り売りするこの空間に、私はどんな意味を見い出せばいいのか。


でも、何から聞けばいいんだろう。私が押し黙っていると、マミはホワイトボードを持ち出して一つ一つ事情を説明し始めた。

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