電気街で (1)

家から出なくていい仕事だから、としきりに言っていたマミが、時折ミーティングと称してどこかに出かけているのは明らかにおかしかった。


朝早く出かけて、帰ってくるのは夕方くらい。スマホとカードだけで楽しそうに出かけていくマミは、およそ仕事のために出かけているようには見えない。


しかも、一度だけビー玉のペンダントをどこかに忘れてきた時があった。アクセサリーを外さなきゃ進められないミーティングなんて、どこにあるんだろう。


身体を売っているのか、私の知らないパートナーと会っているのかは分からない。でも、私に隠しごとをしているのは明らかだった。


「ねぇ、マミ。最近どこに行ってるのよ」


「あれ、言ってなかったっけ? ミーティングだよ」


もちろん、これは嘘だ。ミーティングはいつも画面越しだし、私も彼女もチーフエンジニアの顔さえ知らない。画面に映るのは、ぼんやりとした線の青髪ツインテールの女の子だけだ。髪がぴょこぴょこ揺れるのに合わせて聞こえる声だって、フォルマントをいじってフィルタされている。


私たちが最先端の設備や技術を導入しているわけではなく、これが東京でのオフィス労働の実態だ。マミは時折、こうやって調べなくても分かるようなわざとらしい嘘をつく。騙されてくれるよね、とでもいうように。


「……あ、そういえば、明日から一週間入院するから。配信は適当にやっておいてくれる?」


「何よ、入院って」


いつものことながら、マミの話はあまりに唐突だった。上着をハンガーに掛けながら、そうやって世間話のように平然と大事な話を切り出そうとするのだ。


「ちょっと手術しなきゃいけなくなって。死ぬわけじゃないから大丈夫だよ」


「違うわよ! そういう大事なこと、どうして早く言ってくれないの」


明日から手術だなんて、仕事仲間としても、パートナーとしても早く伝えなきゃいけないことのはずだ。手術だってミーティングだって、きっと嘘だから適当なことを言っているんだろうけど、本当だとしたらより悪い。どうしようもない怠慢だ。


立ち上がって大声を上げた私を、マミは意外そうな表情で見つめる。


「ミカって、普通の女の子みたいなことも言うんだね」


マミはそう言って、少しだけ笑ってみせた。

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