マミの家で (4)

一緒に住むならパートナーシップを取った方がいいよ、とマミが言う。都民カードがないと何かと不便だし、パートナーが都民なら転入手続きも通りやすくなるらしい。


【パートナーシップ: 婚姻制度が漸次廃止されつつある中、次世代のライフスタイルに合わせて人間同士の多様な関係を公的に証明するための認定制度のこと。】


「でも、まだ区役所が開いてないんじゃない?」


「ふふっ、ミカって面白いね」


ほとんどの手続きは都民カードとスマホがあればできるらしい。わざわざ区役所に行く人はもうほとんどいないし、窓口で手続きしたい場合はむしろ事前の予約が必要だという。


だって、そんなの知らなかったもの。


マミはブラウザを開いて何度かタップしながら、大昔に都民カードを紛失して以来行ってないよ、というような話をしていた。


スマホでの転入手続きはとてもシンプルだった。特に無申請訪問者プライベート・ビジター向けの転入手続きは、完全都市封鎖の直後からワンタップで呼び出せるようになっている。


マミが「――ミカゲ」「女」「二六――年・夏」と、知っている限りの私の情報を打ち込み始めた。たまに尋ねられるのは、両親の生年月日とか、これまでの恋愛遍歴(本当に必要なのかしら)くらいで、何年も離れていたのによくそんなに私のことを覚えているなと思う。


「じゃあ、アイリス撮るからこっち見て」


ぱしゃり。顔写真ではなく、虹彩のダイジェストを計算して記録するのだという。


『――時――分、登録が完了しました』


「じゃあ、私のカードでミカのスマホを登録するから、ちょっと貸してくれる?」


時報を聞いてふと時刻表示を見ると、五分ほど遅れていた。スマホの時計が狂うなんて聞いたことがないと思いながら何度かスワイプするけれど、どうにも直らない。


それ見たマミが「東京はTAIベースなんだよ」と言って、何度か都民カードをかざした。


【TAI: 国際原子時のこと。】

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