マミの家で (3)

次の日、防災無線塔からの放送で、東京が数ヶ月の完全都市封鎖に入ったことを知らされた。既に東京にいる私のような無申請訪問者プライベート・ビジターも、封鎖明けまでは帰ることができなくなったということだ。


「マミ、どうして言ってくれなかったのよ」


「ごめんね。どうせ都民はずっと東京から出られないから、あんまり気にしてなかったの」


また、騙された。そう彼女を責めるより先に、マミは笑顔で身を乗り出してくる。


「それよりミカ、こっちで働かない?」


向こうより稼げるよ、というマミの言葉はやはり怪しい響きを含んでいた。


マルチ商法の手伝いか、あるいは身体でも売らされるのか、もしかしたらもっとひどい仕事かもしれないと身構えていたけれど、聞いてみると在宅でマミの動画配信を手伝えばいいらしい。


「ちょっとした吹き出し付けたりとか、効果音を差し込んだりしてくれればいいから」


「んー……そうね……」


悪い話ではなかったけど、マミがどうしてこんなにも私を気にしているのかがまだ分からない。つかみどころのない彼女に全てを委ねるのは、一抹の不安もあった。


でも、思い浮かぶのは、昨日まで住んでいた――県と、つまらなくて代わり映えのしない仕事の毎日。それがもう、今はずっと遠くにある。


「分かったわ、やってみる。よろしくね」


田舎特有の先が見えない閉塞感はもうここにはなくて、私が私として生きることを誰も否定したりしない。ありきたりな田舎者らしく、都市の自由に夢を見ていた。

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