第22話・待ち受ける者たち。
パタドの荒木道場を出たタケイルは、そのまま西に向かいベムベの町に来た。
連れは乞食の様な風体のザビンカ一人だ。タケイルも旅埃に馴染んだ目立たない姿になった。他の影警護の者も周辺にいるはずだがその姿は見えない。
ベムベから西に行くと朱雀川手前に関所があった。だがみすぼらしいとも言える二人には関守は目もくれない。
朱雀川は川幅が百間もある大きな川で水量も豊富だった。多くの船が往来している。その中には、海の国の標識を出した船も何隻かいる。青い空と緑の川に往来する白い帆が映えていた。
葦が生い茂る河岸に待ち人がいた。
街道の真ん中に立つ三人の男、タケイルらの後ろにも二人の男が出て来て道を塞いでいる。旅人は彼らを避けて脇に避ける。
浪人では無い、目立たぬが揃いの服を着て腰には短剣を差している。
「脇に空き地があるぞ。街道で争ったら迷惑だ」
ザビンガが人ごとの様に言う。
右手に葦の茂みがぽっかりと途切れた広い空間がある。
タケイルはそこに向かってゆっくりと歩く。彼らも間を開けて付いてくる。ザビンガは街道に留まって見ていた。
空き地の奥までゆく。
そこは直径十間ほどもあり闘うのには充分な広さだった。
「私は、銭をあまり持っておらぬ。物取りなら止めておけ」
「我らは物取りとは違う。国に災いをもたらす極悪人を成敗する」
真ん中の男が言うや一斉に剣を抜いて突進してくる。
それに対してタケイルが下から斜めに手槍を大きく振り上げると、つむじ風が巻き上がり土埃が男達の目を襲った。
逆風の技である。
わざと遠い間合いで使って、男達の目を眩ましたのだ。
男達は動きを止め狼狽えた。
闘いの最中に視界を失ったのである。致命的な事だった。彼らは剣を構えてじっと気配を探るしか出来無かった。
やがて何事も起らずに視界が戻ってきたときには、目標のタケイルと言う男の前に、五人の男達が立っているのが見えた。
「仲間が居たか・・」
男達は数歩下がって新しい敵に備えた。
「待て!、闘うつもりなら目が見えないときにやっていたわ」
とスライダが諭す。
「何故、我々を攻撃しなかった?」と頭分であろう真ん中の男が問うた。
「それは、お前らが聞いたことのあるセリフを言ったからだ」
「なに?」
「我々も王宮の指令者から天の国に災いをもたらす者を討て。と命じられたのだ」
「何だと?」
「お前らは、何処の町の者だ」
真ん中の男は、スライダらが剣を抜いていないのを見て、一旦剣を治めてスライダの言う事を考えている。
「そもそも、災いをもたらす理由を聞いたか?」
スライダの言葉を聞いても男らからは返事がない。
「聞いていない様なら教えてやる。天の国に災いをもたらしたシャランガ王が恐れているお方だからだ。このお方が現われて災いになるのはシャランガの一党だけだ。お前らはシャランガ一党か?」
「違う、我らは東家の者・・」
ついに男が名乗った。
「そうだと思った。我らは南家の者だ。オスタの町の長にもこの事は伝わっていよう。このまま町に復命して指示を仰ぐが良い」
男達は動揺した。
「我らは王宮に騙されたか・・」
「そうだ。使命を果たすまで町に帰るな。と言われただろう、それは町に帰ると騙されたことが露呈するからだ」
「なんと・・、ではその方は何者なのだ?」
「玄武の長の血を受け継ぐタケイル様だ」
名を聞いて大きく動揺した男達はその場に座って頭を下げた。
「タケイル様、お許しを。噂では聞いておりました。到底我らの敵うお方では無かった。オスタは山の一族とは敵対しておりません」
頭はゾマスと名乗った。オスタ偵察隊七番組だと言う。
「早速、町に復命します。タケイル様がお帰りになったと知れば長も喜びましょう」
立ち去り掛けたゾマスにザビンガが声を掛けた。
「待て、神殿のシトラス様に伝言じゃ。水の巫女が戻ったと伝えよ」
ゾマスは、乞食風体のザビンガを戸惑って見つめてスライダに目で問うた。
「その方は、ザウデの神巫女様じゃ」
「ザ.ザビンガ様?」
ザビンガが首に付けた紐を探って札を見せると、ゾマスは目を点にして跪いた。
「人を見かけで判断するでは無い」
ザビンガが不機嫌そうに言うと、顔を上げたゾマスが取りなす様に言う。
「ザビンガ様、我ら以外の者もタケイル様が荒木道場に滞在しているのを知り、方々で罠を仕掛けて待っております」
「ほう、それは厄介じゃな。そこにウスタの者も居たか?」
「それは解りませんが大半が浪人者です。ボーデンの町を出てから仕掛けてくると思われます」
皆二人の会話を聞いていた。
「聞いての通りじゃ。どうするな、タケイル?」
「とにかく、ボーデンに入る」
街道から見えるボーデンの町は大きくてタケイルの興味を引くのに充分だった。
(あの大きな町中では、人が多くて、刺客らも動きにくいだろう。勝負は町を出てからだな)
と思った。
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