第11話・青龍門。


「これが、青龍門か・・」


青龍門は、幅四間・高さ三間ばかりの厳重な城門だった。門全体を青い塗料が塗られていて、黒色の軍服に青い胸当てを付けた兵士が左右に立って監視している。

門の左右も厳重な柵が設けられて、その端は直角の山肌に食い込んでいて、門を閉じれば通行は完全に遮断される。

門の上はそそり立つ断崖の合間に岩と緑の木々が見えるだけで、オスタに続く道は見えない。


「オスタに続く道は下からは見えないけれど、上から見下ろすと龍のようにうねっている道が見えてこの門が龍の口に見えるの」

と、案内役を買って出てくれたミキタが説明してくれる。


コヨーテ退治のあとハンザ村に戻る途中、キクラの連れてきた村からの応援と合流した。その時には源五郎は発熱していて意識も朦朧としていた。同道してきた医師がその場で源五郎の傷の手当てをして、荷車に乗せて村に戻った。

時刻はまだ昼前だったので、ついでに青龍門を見学して行こうとタケイルは思った。


「私は青龍門を見学してから村に戻ろう」

「でしたら、私が案内します」

 医師から傷の手当てを受けたミキタが、案内を買って出たのだ。ミキタの傷は軽く行動するのに問題は無かった。



「門の中は意外に広くて、有事には兵士が駐留出来るようになっています。でも、この門は一日中開いていて、普通の人であれば特に調べたりもされません。それもオスタの強い力を示しているのです」

「なるほど・・・」


 門は天の国の力を示す役割も担っていると言う訳だ。こうやって立ち止まって眺めているタケイルたちは、たぶん怪しい者に見えるだろうがそれを衛兵は咎めたりはしないのだ。

 少々の怪しい者など歯牙にもかけないと言う自信の表れだ。兵士の服装からしても重厚な強さや威圧を感じさせる。

「天の国の兵は、そんなに強いのか?」

「あたしはオスタ軍の訓練を見た事があるけれど、その練度は地の国の軍では真似できないものです」

「練度か・・」


 兵士の練度を上げるのは、優れた指導者が必要だろう。それが出来る環境や軍の伝統も大事だ。だが最も必要なのは彼らを支える経済力だ。軍の力は通常、国の経済力に依存する。国の軍事バランスは、経済バランスでもある。天の国は町一つで練度の高い軍を維持できる経済力があるのだ。


「ミキタの兄上は常駐兵だと聞いた。黒党軍も常駐兵を持って練度を上げているのだろう」

「はい。でも常駐兵はそれぞれの町に五十名ほどです。それでも送り出した家は大変なので、村でそれを負担しあっています。その常駐兵が臨時兵の訓練を担当しています」


 黒党は、東部三つの町を支配している。つまり常駐兵全て合わせても、百五十名に過ぎないと言う事だ。


「オスタは、どれ位の常駐兵がいるのだろう?」

「オスタの常駐兵は三百と聞いています。でもそれ以外の臨時兵の練度が凄いのです。地の国の軍ではとても叶わないのです」


「ではオスタ軍が攻めて来て、大前軍と黒党が同盟を結んで闘えばどうなる?」

「兵数では勝っても、実力的には負けます。最もオスタ軍に従う父のような隊が続出して戦いにはならないと思います」


 なるほど。


「タケイル様は、これからどちらに行かれます?」

「ジンザの街の道場を訪ねる」


「それってもしかしたら、高嶺道場ですか?」

「そうだ。知っているのか?」


「この辺りの剣を志す者は皆、高嶺先生の事を知っています。私も行きたいです。行って一度、高嶺先生の指導を受けてみたい・・」

「それは・・父上の許しを受けなくては」

「はい、願ってみます」


 暗くなり始める頃にハンザ村に戻ることができた。

ハンザ村は、一種異様なムードが漂っていた。それは暗い雰囲気では無い。明るく浮き浮きとしていた。


いわゆる、お祭り騒ぎだ。


「タケイル様、キクラどの、ミキタもご苦労様でありました。お陰で明日から村の者は気兼ねなく畑に出て働けます」

村人に大歓迎されて名主の家に案内された。マロン村から来ていたムランとその場の全員が深く頭を下げて迎えてくれた。


「源五郎どのは?」

「師範は傷口の手当てを終えて今は休んでいます。しばらくは熱が出るが命に別状は無く、すぐに水で洗い流したのが良かったと医師は言っております」

「そうですか。早く良くなるといいですね」


「コヨーテの死骸は、全部で二十六匹ありました。水が汚れないように埋め終えたそうです。しかし、ハランザの遺体は外傷が無かったそうな。あれはどのような技を使われたのですか?」

「父上、タケイル様が「逆風の剣」というのを使って、ハランザの精神を断ち切ったそうです」

 横からミキタが説明した。


それを聞いたムランが、

「逆風の剣・・・なるほど。しかし、ミキタ。その言葉を二度と使うでない。使えば、タケイル様に災いが及ぶ」

「・・・・分かりました。もう言いませぬ」

ミキタは目を白黒させながらも父親の勢いに押されて理由も聞かずに頷いた。


 俺も自分の素性に繋がる「逆風の剣」などと気軽にミキタに話したことを、注意されたようで反省した。

「逆風の剣」は、直接に玄武一族につながる言葉なのだ。サラの密偵が居そうな地域や黒党の支配地で言うべき事ではなかった。


 その夜、タケイルとムランは二人だけで何事か話していた。


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