第9話・人喰いハランザ。
ハランザは、人間の居る洞窟を見ていた。
今までこんな近づき方をした人間はいなかった。
人間はこの森に何度も来たが、それは大勢で我らを殺しに来たと、すぐに分かった。そういう気を皆が発していたのだ。
その時には険しい山の中に逃げる。
人間が入って来られない所はわかる。そういう道を選んで逃げた。人間に捕まるとどうなるかは分かっていた。根絶やしにされるのだ。
かつてはハランザも人間に飼われていたのだ。
家族と一緒に船に乗せられてこの島に連れて来られた。それまでは人間は彼らに優しかった。餌をくれて、頭を撫でてくれた。ハランザらも人間に親しみを持っていて、逃げようとは思わなかった。
ところが、上陸すると全てが変わった。
まず、狭い檻に入れられた。こんな事は今まで無かった事だ。
それから、妻が引っ張り出され棒で打たれた。
何度も何度も・・・
妻が悲しい声を上げながら死んだのは、三日後だった。
妻の死骸を放置されたまま、次は子供を出されて打たれた。
泣き叫ぶ子供が死んだのは、その日のことだった。
妻と子供が殺されたのは、ハランザが閉じ込められている檻の前だ。
ハランザは、訳の分からぬ悲しみ・憎しみの中、ただ見ている事しか出来なかった。
次の日はハランザが出された。
死骸となった妻と子供に別れを告げる間もなく棒で打たれた。
何度も何度も・・・。
悲しくて憎くて訳が分からぬハランザは、自分をつなぐ綱が外れていると気付いたのはそれからすぐの事だった。
ハランザは逃げた。追う人間を振り切って必至で山の方に逃げた。
夜になってから暗闇に紛れて戻って見ると人間達の姿はかき消えていた。人間達のいた小屋もハランザが入れられていた檻も無くなっていて、ただ妻と子供の死骸が無造作に放置されていた。
「ワオーーーーーー」
ハランザは吠えた。
喉が破れるほどに吠えた。
悲しみが一気に爆発したのだ。
人間に家族を殺されおのれも殺されかけた。
もう妻も子も生きてはいない。ひとりぼっちなのだ。
悲しみと怒りと凶暴な何かが胸を満たし声となって噴き出したのだ。
すると、遙か遠くから応える声が聞こえた。
この島には仲間がいたのだ。ハランザは真っ直ぐに声のした方向に駈けた。それからハランザは仲間を集めながら猟をした。
相手は人間だ。
人間を襲う時は、妻子を殺された恨みが少し晴れた。それになにより一人の人間で、多くの仲間が食えるのだ。集団となった今は多くの餌が要った。沢山いる人間を餌とするのは都合の良い事だったのだ。武器を持った人間でも集団で襲えばなんてことは無かった。
何度も大勢の人間が俺たちを捕まえようとして来たが、その度に狭い山道に入って逃げた。そういうときの人間は圧倒的に強いのをハランザは身に浸みて知っている。戦うより逃げて隠れるのが良い。人間はすぐに諦めて帰って行く。その後で、人間狩りに村に行くのだ。
たまに犬が追ってくることもあった。追ってくる犬は囲んで食い殺した。その内に犬も見かけなくなった。
今度来たのはたった四人だ。丁度良い餌だ。おまけに雌も一人いる。若い旨そうな雌だ。その柔らかい肉を思うと涎が出そうだ。
だがあいつらも俺たちを殺しに来たのだ。そう言う強い気があいつらから立っているのだ。雄も雌も強い気だ。
だが、気が薄い人間が一人いる。そいつが気になる。
(あいつは、何なのだ・・・)
今までに会った事の無い人間だった。
こうして離れて見ていても、あいつに見つめられている気がするのだ。
(あいつは手強い・・・・)
と、本能が教えてくれる。
夜になると、人間たちが籠った洞窟を攻めた。交代で何度も何度も朝まで攻めた。人間たちは眠れなかった筈だ。
朝になった。洞窟に戻って少し寝ると気力が満ちてきた。
起きてゆっくりと水を飲む。
(よし、行くぞ。餌だ、人間を喰らうのだ!!)
「ワオオー」と吠えた。
狩りの合図だ。
次々と仲間が集まってくる。仲間を全部連れて、人間のいる洞窟を囲む。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます