第6話 秘密の家族③
「ところで、よくここの住所がわかったね」
昨日から疑問に思っていたことを宗平は聞いていた。茉優には詳しい住所を教えていなかった。というより、聞かれたこともなかったのだった。
「ここの住所は君島社長から教えてもらったのよ」
「そうなのか。で、どうしてここに来ようと思ったの?」
「何だか東京での暮らしが嫌になってね。人が大勢いるのも怖いし」
「仕事は大丈夫なのか?」
「うん、会社を売ろうと思って。それも君島社長に相談してあるから」
「玄太に?」
「そうよ。あら、知らなかった?私の会社の出資者は君島社長なのよ」
「そうか」
考えてみればわかることだったのだが、玄太と茉優はかなり前からの知り合いで仕事上でも付き合いがあるとは思っていた。そもそも茉優は玄太から紹介されているわけで、連絡を取り合っていても何の不思議もない。だが、何となくひっかかることがあった。
「玄太とはどういった知り合いなの?」
「ええ、今更何よ」
「仕事で知り合ったのか?」
「そうよ。私が今の会社を立ち上げようとセミナーや経営者の集まりに参加をしている時に知り合ったの。そうしたら、出資を申し出てくれて経営のアドバイスもしてもらって、何とか私も経営者として名乗ることができるようになったっていうわけよ」
「へえ、知らなかった」
「妬いているの?」
「いいや・・・」
妬いているわけではなかった。ただ、茉優と自分の間に流れているドライな風の発生源が玄太であるような気がしてくるのであった。
宗平は月曜日から金曜日までは東京で働き、週末を栃木で過ごしていた。それも初めの頃までで、もう十年以上は帰らない週も多くなっていた。東京では会社で借りたワンルームマンションに住んでいて、時々茉優のマンションに通っていたのだが、それは定期的なものではなく茉優が望んだ時だけというものだった。そしてその頻度は宗平にとっても都合がよく、不満を感じたことはないのだが、普通の恋人同士という関係で考えれば、何だか少し冷めた感じの付き合い方とも言えた。明らかに宗平と茉優は体の関係だけで続いていたのかもしれない。
「どうしたの?考え込んじゃって。私たちのことなら心配しないで。会社を売却すればお金になるからしばらくは働かなくても問題ないし、あなたに迷惑をかけるようなことはしないから」
「迷惑だなんて・・・ただ・・・いや、何でもない」
茉優の携帯電話が鳴り、会話はそこで中断された。
茉優に子どもができたと告げられ、すぐに玄太に相談をした時のことを宗平は思い出していた。
「茉優に子どもができたそうなのだ」
「おお、そうか」
玄太は冷静だった。宗平から聞かされる前から知っていたのかもしれないと、今なら思う。
「産むと言っている。どうしよう」
「どうしようって、結婚でも迫られたか?」
「いいや、一人で育てるって言っている」
「だったら、それでいいじゃないか」
「でも・・・」
「奥さんにバレないか心配しているのか?」
「それもあるけれど・・・何もしなくていいのかな」
「彼女はあれで結構思慮深い人だから、考えた末の結論だろうし、今更男たちが何を言っても聞かないさ」
「そうだけれど・・・」
「お前は何も心配しなくて大丈夫だよ」
そう、玄太に言われ、宗平はそんなものかと納得していたのだった。
つくづく父親という存在とはどういうことなのか。海斗からパパと呼ばれて浮かれたこともあったが、本当の父親である証拠はないに等しい。そう考えていると心海も七海も本当に自分の子であるのかどうか疑わしくなってくる。ちゃんと子育てをしていないからなのか、そもそも宗平には父性というものが欠けているのか。自分の欠点が露になったようで、ますます心が沈んでくるのであった。
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