Seg 46 カミノヨ作戦 -01-

 人は、自分の理解をえる事態に直面したとき、どうするだろうか。

 例えば今。とびら爆音ばくおんとともにび、もうもうとけむりが立ちめている。


 何が起きたか理解できない。できないなりに、身の危険きけんを察知してす、もしくは物かげかくれる。

 通常ならばそんなところだ。


 ところがここにいる者たちは、誰一人だれひとりとしてげもかくれもしなかった。


 それどころか、約二名はさらに理解をえる行動へと走っていたのだ。


氷よ貫けグライス フェルセア

ちりにて外へくあるべし!」


 氷の飛礫つぶてと光球が矢のごとく解き放たれ、花びらをまき散らしながらけむりの向こうへと消える。


「ひいゃぁああ!」

 おどろきと狼狽ろうばいの混ざった悲鳴があがり、同時に、けむりの中から何かが飛び出してきた。


「待って待ってよ!」

 人影ひとかげが、ゆかを転がりながら出てきた。


ぼく人間だからっ! 攻撃こうげきしないでっ!」


 甲高かんだかい少年の声を出して、人影ひとかげは、降参こうさんポーズをしつつ立ち上がる。


「なんだ……人間か」

「ご、ごごめんなさいっ! ついクセで!」

くせ攻撃こうげきされちゃたまんないよ! ホント、普段ふだんの生活が垣間かいま見えるよ」

「あ……」


 言われて、ユウはシュン……とうなだれ、みっちゃんは思わず青年をとがめる。

「おい、言い過ぎや――」


「相当アヤカシにねらわれて過ごしてきたんだね……それも毎日と言ってもいいくらいに」


 ユウは、ハッと顔を上げる。


「大変だったろ? ここではもうそんな心配いらないから、安心しなよ」

 青年が、ユウを見下ろしてにっこり笑った。


「やあ、こんにちは。ご機嫌きげんうるわしゅう」


 ◆ ◆ ◆


 白衣を着た青年は、ミサギと同年代のように見えた。


 どこか中性的な顔立ち。常に寝不足ねぶそくだと言わんばかりにクマをたたえた茶色い

 短い赤銅色しゃくどういろかみは、散髪さんぱつを失敗したかのか、ところどころに長い毛が残っていた。

 口には子供こどもが好きそうな小さいポップキャンディをくわえ、声変わりもしていない高い声でヒヒヒッと笑った。


 目じりが少しれ気味でおだやかな表情が、おっとりとした雰囲気ふんいきかもしている。が、行動はかなり破天荒はてんこうのようだ。


 こわしたドアを躊躇ためらいなくみ進み、なんならくわえたポップキャンディと同じように、バキバキとくだきながら歩いている。


「いやあ、すごいね今の魔法まほう! え? 君が考えたのその呪文じゅもん?」

 青年が興味津々きょうみしんしんでユウをのぞんできた。


「えと……にいちゃんが教えてくれました」

 気圧けおされつつ答えるユウに、青年は「ああ、なるほど!」と納得なっとくした。と、同時にミサギもかれと同じことを考えていた。


 ユウが使う魔法まほうにしては言葉がむずかしすぎると思っていたのだ。おそらく、本人は言葉の意味を正しく理解していないだろう。

 本来ならアヤカシを消し飛ばすほど威力いりょくがあるだろうが、弱体化にとどまっている。


 青年は足元付近を見回し、部屋の隅にほうられた四角いケースを見つけ、中身が無事な事を確認かくにんする。


「あーよかった、無事だ。はい、アヤカシの新しい資料」

 言って、分厚い紙の束を取り出す。

「ミサギ君にもね」

 総領寺とミサギ、それぞれのかたをポスっと書類でたたいてわたす。


「ひどいよフウガ君~。あ~んなつまんない会議にぼくを置いていくなんてさ~」

「ああ、すまない。やることはやったし、わたしもあの空気は苦手でね」


「ヒヒッ、おたがさまだね。ぼくもフウガ君が退室してくれたおかげでてこれたんだし♪ それにしても――」

 青年はクルリと回ってミサギに笑いかける。


「ホント久しぶりだよミサギ君。いつぶり?」

「……さあ」

「確か、テエスケを直したのが半年前だったよね~? キミのおかげで魔力まりょく供給きょうきゅうコアも順調だよ。本当にありがとう! 親友を失わずにんだよ♪」

「それはよかった」

 ミサギはふとみを見せる。


 そして、興味しかうつさないひとみが次にとらえたのは、青いかみの小さな子供こども

「君が春日かすがユウ君~?

 へぇ~、本物は初めてだけど、かわいいねぇ」

「か、かわ……っ!?」


 かれは、品定めをするように、ユウのあごをくいと上げ、左右に動かす。


「うん、うん……なるほどぉ……」


 ひとりで何かを理解していく。


「あ、あの……ボクおとこ……」

「あーあー、いいのいいの。君の事は今のとこデータ全部持ってるから。ムネもタマもないんだろ?」


「む……った……っ!?」

 物も言えない口をパクパクとして、思わずミサギを見た。

 いや、見ない方がよかった。

 表情はあくまで平静をよそおっているが、これまでで一番不機嫌ふきげんいかくるっているオーラをしていた。


「うん、まあこんなもんか。あ、自己じこ紹介しょうかいがまだだったね」

 かれはピシッと背筋せすじばし、国軍と同じ敬礼けいれいをする。


ぼく須奈媛すなひめアスカ。アスカでいいよ。

 こう見えて、としは君より二つ上なんだよ? ってか、君がおさなすぎだろ。十三さいで身長こんくらいって」

 アスカはユウのつむじを指でくりくりでまわす。

「ちなみに言えば、ぼくは君をライセンス取得の際に見ている。ぼくの発明した魔力まりょく測定器を爆発ばくはつさせるなんて、やるじゃないか」


「え? ええ!?」

「あー、こわしたことなら気にしなくてい~よ。保険にも入ってるし、費用はまだあるし」


 あわてふためくユウをよそに、


 部屋へやを丸く歩きながら、アスカは説明を始めた。


「さっきも言ったけど、実証実験は成功しているよ。まあ、ついさっき成功したというべきかな?

 ミサギ君が対処たいしょしてくれた大型のサルとイヌのアヤカシのおかげでね」

「お前も同じように消し去ってもいいんだけど?」

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