Seg 45 イヅナ〜魔法特務機関・飯綱動力監理院〜 -02-

 さらに攻撃こうげきの速度が上がる。


 もっと、もっともっと速く。

 もっと……もっともっと、刹那せつな屍体したいとなる間際まぎわへ!


 え無くなる瞬間しゅんかんを想像しただけで、あの時のたかぶりがよみがえる。


「——え? あの時?」

「!?」

 ユウは自身の記憶きおく疑問ぎもんかび、動きが止まる。

 様子が変わった事に気付いたが、総領寺の攻撃こうげき刹那せつなには止められなかった。


「やばぃっ! 死——」


 ッキィィイン


 んだ撃攘音げきじょうおんに、ミサギのいかりをあらわにした顔が見える。


そこまでアレフィティ……!」


 続く応酬おうしゅうに終わりを告げたのは、ミサギの細く白い、いかりがめられた手だった。


 数秒おくれて、交えた攻撃こうげきから発した反動が勢いよく風となってれる。


 一撃いちげき必殺であろう総領寺の攻撃こうげきは、ミサギの冷気を帯びた片手かたてで受け止められ、残る手はユウを背後はいごかくしていた。

 いかりでミサギは普段ふだん使わない言霊ことだまを発していた。おかげでみなの動きが止まったのであった。


「先に謝罪をしていたとしても許容できるものではないと判断しますが?」


 ミサギが上司をにらみあげる。

 部下の圧力に上司はタジタジだ。

「いや、悪い……本当にすまない! わたし攻撃こうげきを全部けられてちょっと……久しぶりに本気の感覚がもどっちゃって」


「では、ぼくも久しぶりに本気でお相手しましょうか?」

 辺りをただよう冷ややかな空気が、急激きゅうげきすようないたみをともなう。総領寺はあわてて手を合わせる。

「か、勘弁かんべんしてくれ! 本当に悪かったって! もうやらないから、小さく言霊ことだまを唱えるのをやめてくれー!!」


 言葉に反し、ゆかしもり、かべこおりついていく。


「本気でいかってます」

 木戸がボソリとつぶやいた。

「それ、ヤバいんちゃう……!?」

「ヤバいですね」

「んな冷静にしとる場合か――せや! ユウどん!」

 淡々たんたんとしか対応してくれないかれに、みっちゃんはあわててユウに耳打ちする。


 始め、眉根まゆねを寄せていたユウだったが、みっちゃんの懇願こんがんにこっくりうなずいた。

「――わ、わかった! やってみる!」

「スマンたのむ! 多分この状況じょうきょう治められるの、ユウどんだけなんや!」


 見ると、ひんやりしたかれ片手かたてには、無数の花びら。まさに総領寺にりかかる瞬間しゅんかんであった。


 ユウは、いかくるかれ背中せなかを見上げ、大きく息をんで、ミサギの残る手をにぎった。

「ミ、ミサギさん! あの、用事! なにか用事があってばれたんですよね?」


 ピタリと冷気のうずんだ。


 ユウに注がれる視線しせんは、まだ殺気が十二分に残っていたが、それもみるみるうちにけていき、ミサギはだらんと棒立ぼうだちになる。


「用事……」

「そ……そうだそうだ、君にたのまれてた調査データ! あれをわたそうと思ったんだよ!」

 総領寺も、チャンスとばかりにつくえまった資料を引っ張り出す。


「ほら!」

 総領寺は、ファイルにじられた紙の束を差し出した。

 ファイルは黒いプラスチック製の丈夫じょうぶなものであるに対し、中の紙は古ぼけた和紙で、すべて手書きで書き記されていた。


「……確かに、受け取りました」

 ミサギは資料を受け取ると、ようやく冷気を弱めた。


「大変だったんだからな~。このご時世、アナログなんてホントあり得ないよねぇ」


 フウガは、やれやれとかたみつほぐしつ言った。

 ユウがじっと見ているのを、総領寺は察したのか、和紙をひらひらとしてみせた。

「和紙……というか、紙がめずらしいかい?」

 ユウは、コクンッとうなずく。


 フウガは和紙とともに、タブレットの画面を見せた。

 うつされているのは、文字化けして全く読めない報告書。


「アヤカシの発する魔力まりょくは、機械に異常いじょうこすようでね、記録できないんだ。ほら、今日きょうテレビ見ただろうけど、うつってなかっただろ? 人間は、見たりれたりできる人がいるから記憶きおくに残すことができる。

 しかし、何故なぜかデジタルだとうまく行かない。おまけに原因は不明なんだ」


 だから、これの出番さ、とフウガは和紙をかかげた。


「和紙とボールペンなんて、ずっと放置してたからね。急いで倉庫から引っ張り出してきたんだ。今時分、両方ともほとんど生産されていないし出回っていないからね~。しっかし、和紙はどうも書きづらいね。手もいたくなるし」


「書きづらいとおっしゃるところすみませんが」

 ミサギがたずねる。


「室長、データはこれで全部ですか?」


「そうだよ。報告書一枚いちまい一枚いちまいぜぇ~んぶ確認かくにんしながらまとめたんだから、大事にあつかってくれよ」

 かれの返事に、ミサギは顔をしかめた。


確認かくにんしましたが、被害ひがいのあった地域ちいきばかりじゃないですか。被害ひがいのなかった地域ちいきのアヤカシについてのデータはどこですか?」


「はぁっ!? なんだそれ!?」

「確かに依頼いらいしましたよね?」

「無茶言うなよ! 被害ひがいがあったから報告が上がってアヤカシの存在そんざい確認かくにんできるんだよ! 被害ひがいがないなら報告もデータもないんだぞ!」

「あんたが出来できるといったんでしょう!」


「ああっ!? アヤカシにパーソナルカードでも持たせて分布図とか生息地とか作れってか?

 ゲームかよ無茶言うなっ!」

「だったら最初に言ってください!」


 ミサギは、資料をバンバンたたく。

「ああっ! 大事にあつかえって言ったろーが!」

 声を張り上げ言い争う二人ふたり

 どうしたらいいかわからず見ていると、ユウは手ににぶいたみを感じた。


「!?」


 ユウが手を見ると、自らにぎったはずが、気付けばミサギがユウの手をにぎりしめていた。

 とたんに、顔がほてりはじめる。


 おたおたして周囲を見ると、みっちゃんと目があった。


「みっ……みみみんみっみんみ……!」


「なんやユウどん、セミのマネか?」

 どこにしまっていたか、セミのなりきりセットを取り出す。

 ユウは、盛大せいだいに首を横にる。にぎっている本人はまだ総領寺と言い合っていた。


「あっ……あの……ミサギさっ……!」


 ペシペシと軽くたたかれたのに気づき、ミサギはユウへとかえる。わめつづける総領寺は完全に無視むしだ。

「なんだい?」

「あの、手、手を――」

 オロオロしながらうったえるユウ。その顔はぎゅっとつながれた手を見ていて、しかし耳までになっているのがわかった。


 ミサギはキョトンとする。

「手をつなぐくらいでみだして……」

 不機嫌ふきげんにさらに輪をかけ、ユウの手を解放した。


幼児ようじ素直すなおに喜ぶものだよ」

「ヨージじゃないですっ!」

「ならいいじゃないか、気にすることじゃない。

 それよりユウ君どう思う? 大型のアヤカシ討伐とうばつを、ぼく一人ひとりけようとしているんだこの中年室長は!」


「だーかーら! サポートするって言ったじゃないか中年言うのやめてくれ!」

 総領寺は早口でまくし立てる。


「実際、大型アヤカシを二体もたおしたのは君とユウ君なんだから、君たちに指示が下るのは分かりきっているだろうが!」


「え!ボクも?」

 突然とつぜんおどろきにまれ、さらに状況じょうきょう混乱こんらんした。

「ボクそんなことやったっけ?」

 必死に記憶きおくの引き出しをあさるが、サルと犬のアヤカシが強烈きょうれつ過ぎて思い出せない。


「ほら、先日被害ひがいを出した、鳥のような大きなアヤカシを覚えているかい?」

「あ、はい……え? あのアヤカシ?」


「そう。あれも大型のアヤカシなんだ。

 あとは、姿すがたは現してこそいないが、大型のアヤカシと思われる反応が、国外もふくめ十ヶ所あることがわかったんだ」


面倒めんどうくさい」


 ミサギは一蹴いっしゅうする。

「それはわかる。わかるから、帰ろうとしないで」

 総領寺がかかとを返すミサギのスーツを引く。対し、ミサギの冷たい視線しせんはなす。


ぼくは自分がうそつくのはいいですけど、うそをつかれるのはきらいですよ」

「ウンウンそうだよねっ! 君ってそーゆーヤツだよねっ! ゴメンって!」


「本当は把握はあくできるんですよね、アヤカシの居場所」

「確証が取れないんだ! 本当に実証実験の最中で――」


 必死にうったえるが、ミサギは総領寺をぶら下げたまま帰る勢いだ。


 その時だ。

「ヒヒヒッ、確証なら取れてるよっ!」

 とびらの向こうから声がした。


 ドガァン


 爆発ばくはつにも似た音をならし、とびらんだ。

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