Seg 21 君であり君でなく -04-

※流血等、残酷描写があります。苦手な方はご注意ください。



「ボクが……ボクをいらないわけ、ないよ」


 しかし、水人形のユウは「いらない、いらない」と、うわごとのようにかえして否定する。

「だって、バケモノじゃん……かみだって、あおいし……アヤカシみたいだし、きっと、しんぞうさしたってしなないよ」


 井上坂いのうえさかは、門の向こうにいるユウを見る。


 ――負けるな……自分に、て!


 その表情は、自分自身の葛藤かっとうに勝てるかという懸念けねんでいっぱいだった。


「じゃあ、ずっとこのまま?」

 門の中のユウはさらに続ける。その声は怒気どきふくんでいた。


「ずっと、周りの言いなりになって縮こまっているの? 消えてしまえっていうの?」


「それは……」

「ボクはごめんだよ、そんなの」


 門の隙間すきまから、小さな手が出てくる。門をたたきすぎたせいか、それは血で染まりふるえていて、それでも、もう一人ひとりのユウを求めていた。


 水人形も手をばそうとしたが、動けずに身をふるわせるにとどまる。


 井上坂いのうえさかは、水人形の短冊たんざくに向かって指で横一文字にる。短冊たんざくは花びらのように散って消えていった。


「ボクは、それでいいの?」

 な手から力がけていく。井上坂いのうえさかは門を開ける手に力をめる。

「おい、しっかりしろ!」


「そんな……わけない……」


 水人形のユウは天にえた。

「ボクはバケモノでもアヤカシでもない! っていうか、ボクはアヤカシなんてだいっキライだ!」


 ユウの手を、水人形のユウがにぎる。

「バケモノっていわれるの、やだ! ボクをおいてかないで!

 いっしょにいたいよっ!」

 赤い目からどんどんなみだあふれる。しかし、こぼれ落ちないように、必死に口を真一文字にする。


 必死ににぎる手を、ユウは血のしたたる手でやさしくつつんだ。


「うん……一緒いっしょだよ」

「!」


「ごめん、ボクが弱いばっかりに、不安にさせて――」


「それは悪いことなのか?」


「!?」


 二人ふたりのユウおどろく視線の先に、井上坂いのうえさかがいた。


「お前はまだ子どもだろっ! できないことも、分からないことも多くて当たり前なのに、お前は自分自身の力で頑張ってる!」

 井上坂いのうえさかは、門を開けようとさらに手に力を入れる。


「お前がバケモノ? どこがだよ!?

 ぼくからすれば、フツーの! でも、心の強い! あおわらわだっ!」

 そのさけびに、やみの色をしていたユウは、水のように流れ落ち、中からもとの幼いユウが現れた。


 止まらないなみだを何度もぬぐい、泣きじゃくりながら、ユウの手をにぎりしめている。


 しゅつづりの門がゆっくり開き、中からもう一人ひとりのユウが現れた。

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