Seg 22 在りし絆、綴りて証 -01-

※流血等、残酷描写があります。苦手な方はご注意ください。



 先ほどまで、ビクともしなかった重厚じゅうこうな門はその力を失い、ユウと井上坂いのうえさかに開けられていった。


 重たそうにけていくユウに対し、井上坂いのうえさかは外から引いて手伝てつだう。

 普段ふだん、力仕事など全くしない細身のかれだが、そこは体格の差だろう。苦もなく引き開ける。


大丈夫だいじょうぶか――!?」

「あ、井上坂いのうえさかさん……」

 ようやく現れた小さな子供の姿に、かれは息をのむ。

 自身の姿に気付いていないのか、申し訳なさそうに頭を下げるユウは、凄惨せいさんそのものだった。


 ほおを伝いしたたる赤いしずく


 激しい戦いでもあったのか、どこもかしこもボロボロになった服。そこからのぞく手足はかれたのか、赤黒い筋が幾重いくえも走り赤い液がとめどなくあふている。

 夏の空を映し出すんだ海のようなきれいな青いかみは、無残に赤黒く染まっていた。


 文字通り、見た通り、全身である。


「ケガ……ってか……だ、大丈夫だいじょうぶ、か?」

 心配をするが、どうかしたらこちらの方が気を失ってしまいそうだ。

 労わる言葉も、目眩めまいおそわれてうまく声にならない。


「すみません、ついていくのがおそく、ふぇ……!?」

 急におそ浮遊感ふゆうかん。ユウは、何が起こったのか一瞬いっしゅんわからなかった。

「ケガが痛むだろうが、少し我慢がまんしろ」


 井上坂いのうえさかの顔がすぐ近くにあった。

「はっ……? え……!?」

 まだ状況じょうきょう把握はあくできずにいるユウを、井上坂いのうえさかは『お姫様ひめさまっこ』していた。


「すまない、急いではなれるぞ」

 言うや石畳いしだたみ一蹴ひとけり。


「うわっ!」


 走るというには、一歩分の推進力があまりに強く、スピードが速い。ジャンプというには、高さがなく前方への距離きょりが長かった。

 井上坂いのうえさかは、とにかく急いでいる様子で、鳥居からはなれていった。


 急な加速で、耳に風の音がビュウビュウなだれんでくる。ユウはかれの首元にしがみつかなければばされてしまいそうだった。


 かれ肩越かたごしに向こうを見やれば、ぐんぐん遠くなっていく鳥居は、あわい光を放ち始め、その形をくずしていく。


まれたら、一緒いっしょ消滅しょうめつしてしまうからな」

 ユウは、風の切れ間から聞こえるかれの言葉にゾッとして、しがみつく手に力をめる。

 その一方で、かれはユウが落ちてしまわないように、ギュッと自身へせた。


 井上坂いのうえさかの言葉を証明するかのように、鳥居はほたるうように小さな光になってゆっくりと消えていった。

 完全に消滅しょうめつしたのを目で確認かくにんし、井上坂いのうえさかはようやくスピードを落とす。参道わき灯籠とうろうを背もたれにユウをすわらせた。


 どこから処置すればいいやら、そも、れていいのか、見れば見るほど赤黒いユウのほおを服のそででそっとぬぐ井上坂いのうえさか

「何をどうしたらこんな血まみれになるんだ……!」

「あの……ボクは大丈だいじょうぶっ……」

「どこがだっ! 大人おとなが見てもビビるぞ!」

「ぽにょぷらい、ぺあのぷににぱにゃりまぷぇっ」

 子供特有のやわらかいほっぺをぷにんぷにんとぬぐわれ、うまくしゃべれないユウ。

 ぬぐう側は、まだかわききらずかみから服からしたたる赤い液の量に青ざめている。

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