Seg 15 言葉綴りし者たち -02-

 店のおくにある一室へ通されたユウ。

 言の葉屋はふすまを閉じると、火鉢ひばちよりおくにある座布団ざぶとんをユウにすすめる。そして、自分はどっしりと向かい側に胡座あぐらをかいた。


手荒てあらなとこを見せてもうてすまんのう。ここでは用のないやつは話ができぬ決まりでの。守る者はまもられる。守らず話すものならば、言葉にられてしまうのさ。

 あやつには何度も厳しく言うておるのだが、世話好きがわざわいしてるようだて」


 言の葉屋は「すまぬが一服するぞ」と言い、小さなつぼが三つ乗ったおぼんを引き寄せる。トントンッとキセルの火皿の葉をつぼに落とし、別のつぼからほぐした葉を火鉢ひばちの炭に当てる。


「あちちっ」


 言の葉屋はチリチリと火のついた葉をキセルの火皿にふわっとめる。


「さて」

 吸い口から軽く吸い、少しもどしてけむりをキセルからくゆらせる。

 その一挙一動がとても風流で、ユウは魅入みいってしまった。


あお小童こわっぱよ、改めて話を聞かせてもらえるかの?」

 吸ったけむりを舌で転がすように味わう。


「はいっ! あの、ボク、春日かすがユウって言います。マホウシのライセンスを取りに来たんですが――」

 ことのあらましを身ぶり手振てぶりで話すユウに、言の葉屋はけむりをゆっくり出し、静かに耳をかたむける。

 時に言の葉屋が質問し、ユウは戸惑とまどいながらもこたえていく。


「……なるほどのう……よう頑張がんばって話した。お前さんはえらいな」

 ニッコリする言の葉屋に、ユウは照れる。

「えっと、あの……」


「よかろう。お前さんの力になろう」

 立ち上がると、筆とすみ、それから和紙を出した。

めずらしいじゃろ。このご時世、もうほとんど目にすることはなかろう品じゃからな」


 ユウは興味津々きょうみしんしんにその様子を見る。

「はい。タブレット用で筆タイプのペンは見たことありますが、本物は初めてです」


「そうであろそうであろ♪」

 さらさらと何かを書き上げ、満足そうにかかげる。


 ほとんど一筆で書き上げられたそれは、文字のようだがミミズがのたくったようになっており、ユウには何が書いてあるかさっぱりだった。


「これは『言織ことおり』と言ってな。この紙に書いた言葉は、字つづり屋によってつづられるんじゃ」


「コトオリ?」


「そう、『言葉をむ』と書いて『言織ことおり』。まあ、人によっちゃあめる意味で『おり』を用いて『言おり』と言っておるヤツもおるがの。アタイはむ方が好きなんさ」


 よく意味が分かっていないユウが、何とも言えない顔をしていると、言の葉屋は軽くウィンクする。

「アタイの方がやさしいってことさね」


 その和紙を横に二回折りたたみ、もう一枚の紙を取り出して包んだ。

「この紙は折封おりふうじゃ。昔よく使われとった封紙ふうしの折り方なんじゃ」


 言いながら、器用に手早く封紙ふうしを三つ折りにして手紙を包んだ。ふう紙の上と下の部分を同じ長さにそろえて折り曲げた。


「おーい、井上坂いのうえさか!」

 彼女かのじょとなりへ続くふすまを少し開け、『井上坂いのうえさか』なる人物を呼んだ。

 開いていたふすまはゆっくりと閉まっていき、残るはほんの数センチ。その隙間すきまからのぞく目は彼女かのじょ拒絶きょぜつしているようだった。


「……呼んだ?」

 低い声がいやそうにひびく。


「仕事じゃぞい。ほれ、客は自分の目で確かめい」

「……わかった」

 そういうと、ふすまは完全に開き、声の主が姿をあらわす。

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