Seg 14 言葉綴りし者たち -01-

 役所から歩くこと五分。

 路地裏のおくおく、入り組んで、建物のかべはさまれて迷路めいろのようになった道を歩いた先に、瓦屋根かわらやねの小さな家があった。

 迷路めいろの行き止まりにあるそれは、住んでいる人もてているのではないかと思うくらいてていた。


「ここが『コトノハヤ』?」

「せやっ」


 不思議そうにたずねるユウに、みっちゃんは軽快な返事とともに黒い暖簾のれんをかき分け、常連よろしく慣れた挨拶あいさつをする。

「ちわー! やっとってかあ?」


 ユウはその後ろを、みっちゃんのこしのあたりから頭をひょっこり出してのぞく。

 この建物の中でだけ、時が忘れ去られたように古めかしい。土間がありだたみがあり囲炉裏いろりがある。


 柱のように大きな時計とけいが、威厳いげんを示すように音をたてて時を刻む。


「おーい、言の葉屋ぁ~、おるか~?」

「なんだい、騒々そうぞうしいのが来たね」


 甲高かんだかい声がひびき、ユウより小さな女の子が店のおくから顔を出した。

 彼女かのじょの姿も、着物に足袋たびといった、ユウも写真でくらいしか見たことのない民族衣装みんぞくいしょうだ。

 少女は、その見た目に合わぬ大人おとなびた口調であくびをしながらこちらを見る。


「おや、どうしたんだいそのあお小童こわっぱは?」

 少女はねこのようにするどい目を興味いっぱいにしてユウを見る。


「ほう……!」

 ユウのほっぺたをぷにぷにしたり、頭をわしゃわしゃとまわした。

 少女の背が低いので、ユウの方がしゃがんで頭を差し出した。


「ほうほうほう♪ なるほどのう。お前さん、なかなか厄介やっかいな体をしておるのう~」

「!」

 ユウは、びっくりするとともに耳までになった。


「あのっ、それはどういう――」

 続きを言う前に、人差し指で止められた。

「安心せい、アタイらは口がかたいでの。間違まちがっても口外などせぬよ」


 少女は、自信たっぷり、威風堂々いふうどうどうと自己紹介しょうかいを始める。

「アタイは『言の葉屋』。言葉をつむぐことを生業としておる。

 こう見えてお偉方えらがたが常連客じゃ。依頼いらい料も天文学的ぃ~なんじゃが、たまーにお主のようなわらべが来るでの。

 そこは良心的にみてやってるから心配しなさんな。

 んで? 用件は何かの?」


 そこは、みっちゃんが説明をしようと口を開く。

「おう、それがの~……」

「お前ではなかろ」

「痛たっ」

 ピシャリとキセルでみっちゃんのほおたたく。


「まったく……ここは用のあるやつしか話が許されておらぬのを忘れたか。お前はただの案内人、しゃしゃり出てくるでない」


 言の葉屋は険しい顔を一転、ユウに向かってニッコリとする。営業スマイルというやつだ。

「大事な用事なのはそっちのあおわらべの方じゃろう? 話はおくで聞こう。ほれ、おいで」

「あの、でも、みっちゃんは……」

「心配せんでいい。いつものことじゃ」

 みっちゃんを置いてきぼりにして、言の葉屋はユウの手をひいておく部屋へやへ消える。

 残された方はというと、ポツーンとさびしくくすだけだった。


「いつものことやけえさびしいんじゃあ~!」

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