Seg 12 あなたの街のお助け機関 -03-

 どのくらいったか。

 ユウはようやく起き上がり、

「ごめん、おまたせ」

「無理してないか? もうちょい休まんでええか?」

 みっちゃんがサングラスしに心配の目を向ける。


 なかなか来ないユウを心配してか、検査官ももどってきた。

大丈夫だいじょうぶですか? 体調悪いようでしたらもう少し休まれますか?」

「あ、だ、大丈夫だいじょうぶです」


 次の部屋へやに行くと、先程さきほどの青年と研究者のように白衣を着た女性がいた。

「おつかれさまです。魔力まりょくの量を計測をしますので、こちらへどうぞ」

 言われるがままに着替きがえをわたされ、丸みを帯びたかべへと案内される。かべかと思ったのは巨大きょだいな機械で、ドアの向こうはベッドが一つ置かれていた。


「あのベッドに横になってください。

 計測は、エックス線検査と同じと思ってください。上部から魔力まりょく検査のライトを当てていきます。

 機械が比較的ひかくてき大きな音を立てるので、耳栓みみせんをしてもらいます。検査の時間ですが、十分ほどかかります。体を動かしてしまうと計測はできないので、できるだけ動かないようにお願いします。

 気分が悪くなったときは、このボタンをしてください」


 言って、女性はカードサイズのリモコンボタンを手渡てわたした。


 ベッドに横になると、えも知れぬ緊張感きんちょうかんただよう。


 女性の「はじめますねー」という声がスピーカーからひびき、ゴウンゴウンと機械が動き始める。


 目をつぶって体をカチコチにしていると、部屋へやの向こう側で、何やらあせる声が聞こえ始める。みっちゃんのさけごえとドアをこじ開ける音がした。


「ユウどん! げぇっ!」

「?」

 ベッドがガタガタれて、おどろく声をあげる間もなく電気がユウの体をほと走る。

 直後、大太鼓おおだいこを耳元で思い切りたたいたような音と熱と風がユウをおそった。


 衝撃しょうげきと共にベッドからされ、体からげたにおいとけむりのぼらせるユウ。


「ぎゃあああ! ユウどんが爆発ばくはつして黒焦くろこげにィー!?」


 あたふたとしながら、みっちゃんはユウをかかえて部屋へやを出る。

 検査官と研究員の女性は、様々な荷物で自分の身を守りながらその様子を見ていた。

 ユウが助け出されるとすぐにり、その怪我けがの具合をみた。

「検査室もこの子が着ている服も、火事爆発ばくはつが起きてもえられるよう対策はしてあります。やけどのめん比較的ひかくてき少なくできたのが不幸中の幸いでしたね」


「何言うとんねんアホ! 怪我けがに大きいも小さいもあるかっ! 早よ治療ちりょうせんと――」

「……大丈夫だいじょうぶだよ、みっちゃん」

 意識が朦朧もうろうとしたまま、それでもニコッと笑うユウ。

「ちょっとびっくりしたけど、大したことないから。下ろして」

「ユウどん、無理しんなーや! 爆発ばくはつまれたんやで! 大丈夫だいじょうぶなわけあるかい! はよミサギどんに連絡れんらくして――」

 大丈夫だいじょうぶ証拠しょうこ、とユウはうでの黒炭になったところを軽くこすった。

「なっ……」

 みっちゃんが驚愕きょうがくの声をんだのは仕方がない。黒くなった皮膚ひふの下からは、数時間前と変わらない、怪我けがのない綺麗きれいはだがあったのだから。


「たいていの怪我けがはすぐ治るから。それににいちゃんにだいぶきたえられてるから平気だよ」

 それよりも――と、ユウは心配の顔を検査官と研究員に向ける。

「あの、機械がこわれちゃったらもうライセンスは取れないんですか?」

「あ? はぁ……いえ」

 ユウの頑丈がんじょうさを一緒いっしょに見ていた二人ふたりは、間のけた声をだす。返事としてそれが精一杯せいいっぱいだった。


 結局、機械が使えないかわりに、簡易的な機器で魔量まりょうを測定することになった。

 非接触せっしょく型体温計のような機械をおでこに近づけ、数秒で終わってしまった。

「正確な数値は取れませんが、それでも魔法士まほうしに足る力を充分じゅうぶんにお持ちです。魔量まりょう計測はこれで終わりですので、次のライセンス登録へお進みください」

「機械、こわしてしまってごめんなさい」

「次来るやつにゃ、もーちょいやさしい対応したってな」

 ユウはあやまり、みっちゃんは少なからず憤慨ふんがいした表情で言った。

「原因がはっきりしないのですから、君があやまることはないです」

「こちらこそ、初期対応がおくれすみませんでした」


 ユウは、平気だと言ったがみっちゃんにおんぶされて 検査室を後にした。


 見送った検査官は怪訝けげんな顔をする。

「……人間ばなれしてるにもほどがあるよ、あれ」

「今まで見た魔法士まほうしの中でもダントツね」


 しばらくして、ユウたちが出ていったドアから、だれかが入ってきた。

「久しぶりに顔を出してみたら、めずらしく受験者がいるって聞いて、そしたら何このさわぎ?」

「室長!」


 ちょうど機器がかげになり姿まではわからないが、背丈せたけと声からして青年のようだ。

 かれこしほどの高さしかない小さな二足歩行ロボットを連れて、棒つきの丸いキャンディを手でくるくると遊びながら口にいれる。


「も、も申し訳ありませんっ! 測定器が故障……と、いうか爆発ばくはつしてしまって」

爆発ばくはつ!? 大丈夫だいじょうぶ? 怪我人けがにんとかは?」

「あー……それは……」

 言いづらそうに顔をそむける二人ふたりに、青年はイラッとする。

「さっきすれちがった二人ふたり免許めんきょ取りに来たんでしょ? 背負われてた子の方、ちゃんとみてあげた?」


「は、はい! それは」

「でも、怪我けがはすぐ治ってしまってて」

 二人ふたりが何だかんだと言い訳じみたことを並べ始めたので、青年は無視して少し考える。

怪我けががすぐ治る……爆発ばくはつ……んでもってあのかみの色か……。ちょっとそこ、ぐだぐだ言ってないで機器の修理を依頼いらいしてよ!」

「は、はいっ!」

 かれ剣幕けんまくに、二人ふたりはビクッと身をふるわせて二つ返事で作業に走りだした。


 かれは、計器のデータを見つめる。

 数値が異常なほど高いのに、グラフを追うほどに数値が激しく上下している。大抵たいていの人間は、多少のぶれはあれど、これほどではない。このグラフに、不安定な印象を持つ。


「……我慢がまんというか、おさんでいるようだな……」

 かれは、なめていたあめをガリッとくだいた。

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